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作品名:靴飛ばし 作者:コツリス

第3回 3
 私達は近所の公園へやって来た。そこそこ広い空間に、滑り台やらシーソーやら、色とりどりの遊具が設置してある。子供達が砂場で遊んでいた。
 
「じゃあ、ブランコに乗りましょうか」
私達は先を争うようにブランコへと向かった。青いプラスチックの板に座ると、勢い良くブランコを漕ぎ始める。当然の事ながらブランコは子供サイズだったので、初めは少々苦労した。ブランコが大きくスイングし始める。私は横目で真奈美を見た。彼女はまるで子供の様に嬉々としてブランコを漕いでいる。中年女性二人が、子供用のブランコを必死に漕いでいる姿は、きっと傍目には笑える光景だっただろう。
 
「オーケイ。そろそろ飛ばすわよ!」
私は右足の靴の踵を足から外した。
「じゃ、一、二の三!」
そう叫んで右足をふりあげ、靴を飛ばした。真奈美の靴も平行して飛んでいった。私の靴は十メートル程先に落ちた。真奈美の靴は八メートルといったところか。
「やったわ。私の勝ちね」
私は大人げなく得意気に笑って、ブランコが止まるのを待った。
「ああー、やっぱりカナちゃんには勝てないわ! でも楽しいわ。もう一度やりましょうよ」

 私達はすっかり童心に返って、それから何度も靴を飛ばした。靴は泥だらけになったが、気にならなかった。不幸な真奈美の嬉しそうな顔を見ていると、私まで癒されていくようだった。
 
 それから私達は私の奢りで夕御飯を食べに行った。
「真奈美、私と靴飛ばしするために私を呼び出したの?」
「そうよ。我ながら自分勝手だとは思ったけど、どうしてもカナちゃんと靴飛ばししてみたかったのよ」
エヘヘ、と真奈美は笑った。
「まあ、それで真奈美が幸せなら良いけどね。そういえば真奈美ったら小学生の時に、男子からスカート捲りされていつも泣いてたけど、ああいう男子には蹴りでも入れてやれば良かったのよ。遠慮する事無いわ」
「うん……。でも私、そういう性格じゃなかったのよ。とにかく怖くて」
「そうねー。真奈美は大人しかったものね」
「うん」
 
 昔話に花が咲いた。時間はあっという間に過ぎていった。
「さて、私そろそろ帰らないと。真奈美ほどじゃないけど、私もあんまりお金に余裕が無いからさ、ホテルで一泊とか出来ないのよね。真奈美の部屋じゃ二人寝るのは無理でしょ?」
私は笑いながら言った。真奈美は少しだけ悲しそうな顔をして、
「そうよね。今日は来てくれて有り難う。楽しかったわ。久し振りに沢山笑ったもの」
「いえいえ、どういたしまして。また何かあったら呼んでくれて良いわよ? 都合が付けば来るから」
「うん。有り難う。じゃあ、これでサヨナラね」
私は真奈美の泣き笑いのような顔を背に、駅へと向かった。



 後日、真奈美からまた手紙が届いた。
 
『カナちゃん、あれからいかがお過ごしですか? あの日はカナちゃんが来てくれて、本当に嬉しかった。靴飛ばしして、まるで子供に返ったかのように楽しんだわ。お陰で私は少し元気になりました。カナちゃんの行動力が乗り移ったのか、地元の建築会社の事務の仕事を見付けて、面接を受けました。どうだったかって? 受かったわよ! お陰様で前向きに生きていけそうです。有り難う、カナちゃん』
 
 真奈美の喜びに溢れた手紙を読んで、私は心の底から嬉しかった。真奈美が何とか新しい人生を歩んで行けそうな事も嬉しかったが、大した取り柄もないオバチャンである私が、例え少しでも真奈美の役に立てた、と思うと尚更嬉しかった。私の方こそ、子供時代の純粋な喜びの気持ちを、真奈美に思い出させて貰ったのだ。有り難う、真奈美。これからもよろしくね。

 


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