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作品名:靴飛ばし 作者:コツリス

第2回 真奈美
「はーい!」
中から澄んだ声がして、ドアが開く。色白で小柄な女性が顔を覗かせた。薄茶色の大きな瞳に形の良い桜色の唇。長い髪を後ろで一つに束ねている。真奈美だ! 私は一気に思い出した。
「今日は。お手紙を見て来ました。相澤加奈子です」
「相澤さん! 良く来てくれたわね。まさか本当に来てくれるとは思わなかったわ。狭いけど、とにかく上がって下さい」
 
 私は言われるままに部屋へ入った。玄関から四畳程のキッチンへと続き、その奥が六畳の居間だった。エアコンは無く、扇風機がブンブン音を立てている。陽当たりの悪い部屋の中は、昼間だというのに薄暗く、カビ臭かった。だが、キチンと整理整頓されていた。
「今、お茶を入れますから」
「有り難う。お構い無く」
私だって決して裕福とは言えないが、明らかに苦しい生活であろう彼女が健気にお茶を入れる姿を見て、私は胸が痛んだ。
「どうぞ」
真奈美は麦茶の入ったコップをちゃぶ台の上に置いた。
「有り難う。頂きます」
私は汗を拭きながら麦茶を一口含んだ。氷は入っていなかったが、炎天下を歩いてきた身には有難い。真奈美はポツリポツリと語り出した。
 
「遠いところわざわざ足を運んでくれて有り難う。私、二十代で結婚してね。旦那はIT関連の会社を経営してたのよ。初めのうちは上手く行っていたんだけど、倒産しちゃって。それから旦那は働かなくなって、私に暴力を振るうようになっちゃってね。随分我慢したけど、耐えきれなくなって別れたの。私何の才能も取り柄もないから、コンビニでバイトしてたんだけど、体が持たなくて辞めちゃった。親も他界してるし、今は生活保護で何とかやっているわ。カナちゃんに会いたかったけど、電車代を捻出出来なくて」
真奈美の顔が曇った。
「そう、それは……。苦労したのね」
私はそれ以外の言葉を見付けられなかった。何と答えれば良いのか? 誰か知っていたら教えて欲しい。
「友達も居ないし、最近は幸せな子供時代の事ばかり思い出しちゃって。楽しかったなあ! カナちゃんはボーイッシュで、私にスカート捲りしてくる男子に飛び蹴り入れてくれたりして。ふふ。エネルギッシュなカナちゃんが羨ましかったわ」
真奈美は遠い目をして笑った。私は自分の事を只のガサツな女だとしか思っていなかったのだが、真奈美に慕われていたのだと知って正直嬉しかった。私が大富豪だったら、真奈美の生活を楽にしてあげられるのに。不幸な真奈美を目の前にしながら、何もしてやれない自分が恨めしい。
 
「ね、近くに公園があるの。昔、カナちゃんたちよく靴飛ばししてたでしょ? 言い出せなかったけど、私もやってみたかったのよね。休んだらで良いから、靴飛ばししない?」
靴飛ばし。それはブランコに乗って靴をできるだけ遠くへ飛ばすことを競う遊びである。
「ええ、良いわ。それで真奈美の気が晴れるなら」
「有り難う」
真奈美は嬉しそうにコップに口を付けた。


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