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作品名:マエノスベテ 作者:たくひあい

第67回 99 100
99
 それからはしばらく、ばたばたと、走り回って、ただひたすらに走り回った。
交番は人が居なかったが、指名手配犯の写真がいろいろと貼られていた。
マエノスベテは、載っていないが……

 遠回りしていては目的地につけないので妥協はある程度必要で、途中からは覚悟を決めて進む。おばさんの家のある通りに近づきあとは此処を上ってというところで、ふと壁を見るとその白い壁にはなにか絵が描いてあった。

『猫』だった。たぶん、猫だろう。人のような、猫のような。そして猫は、一人に同化しかけるような曖昧な二人の人間……双子だろうか? に指をさしている。 真ん中には、魚。

「……なんか、不思議な気分になる絵だね。マツモトキヨシが、1932年に松本清が立てたマツモト薬舗を1975年にマツモトキヨシにしたという話を思い出したよ――フルネームになってしまった経緯はよく知らないけど」

「例えがよくわからないよ、絵鈴唯」

「それを知ったときは、幼心に少し安心したものだよ、マツモトキヨシに関わっていたのが、松本清って人でね。名前に反して田中とかだったら少し、驚くだろうからな」

彼の幼心は、複雑だった。
名前や製品と、本体とが一致しないということは現代に、いや、昔からそう珍しくはない。
みんな心のどこかに、漠然と疑念に似たものを持っているんじゃないだろうか。
本を読みながら、テレビを見ながら。
これは、正しいのだろうかと、考えたことのない人はそういないだろう。

「そういうことか……」

ぼくは、少し、笑った。
彼女は後ろを向いて追っ手を確認していた。
彼は、ポケットから出したコンニャクゼリーを見つめる。
やがて、ゼリーをポケットから戻した彼は、
ある一軒屋にずかずかと向かいためらわずにインターホンを押した。きい、とドアが開くとおせっかいおばさんが、不機嫌そうに現れた。

「こんにちは」

ぼくらが挨拶したとき、対峙したそのとき、おばさんはまっすぐ指を伸ばして目を丸くした。ぼくらには目もくれずに彼女を指差す。

「田中さんとは、うまくいってるの?」


「――田中さんから、そう聞いて居ますか?」

彼女は一歩前に出て、そして表情を変えなかった。
2019/06/24 19:08






100
 まぁ中に入れば? と言われお言葉に甘えることにした。
玄関は相変わらずの、なんというか、この国の玄関らしい玄関だった。
木の、一枚板みたいなのが、縦になったやつや、シーサーやらが、隅に飾られている。

「コーヒー飲む?」

と聞かれぼくは苦笑いした。
他人からコーヒーと漬け物を薦められたときには、注意が必要だと、昼間学んだばかりである。
「お気遣いなく……」

うっかり頷いて私は喫茶店じゃないわよ!
なんて言われては、かなわない。思えば、この家のなかに入るのは随分と久しぶりだった。
彼はというと、遠慮を知らないのか、それともぼくの事情を知らないのかごく普通に「ありがとうございまーす」なんて言っていたし、おばさんは結局、自身を喫茶店と見なしたとは考えなかった様子である。
ほっとしながら、リビングへと通される。ちなみに「ゆっくりしていけばいいのに」も信じていない。
この辺は、田舎だが、都会の喧騒に疲れた中年くらいの他県の大人がすんでたりするので、いつ誰が何語で話しているかはわからないもので、コミュニケーションには気を遣わねばならない。先週駅前ですれ違ったインド人と、やけに気さくなイタリア人は例外として……
会話と文化はまだ、同じ日本人としては疎通をはかれる望みがある。

 などと一人物思いに耽っている間に、おばさんによってカップに入ったコーヒーが運ばれてきた。なんだかんだでぼくのぶんも置いてある。

「……いただきます」

隣に座る彼はじつに毅然としていた。好かれようが嫌われようがあまり気にしないやつなのだ。今のところ、このおばさんがどこから来たのかはぼくは知らなかった。彼がかつて「僕が思うに城下町のやつはどの田舎でも大体性格が悪いと思う、ま、性格なんか別に興味ないからいいかな」なんて嘘だかほんとだかわからないことを言っていたがもしかしてそのあたりだろうか。
 真相は謎だがプライドっていうか、いろいろとそう見える要素は否定できないよななんて思いつつ、結局この街は、何人が地元民なんだろうとごちゃごちゃ考えているぼくとは違い、

彼は彼女と談笑している。
……おばさんは、お菓子をもってこようとしている。


2019/06/26 13:31


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