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作品名:マエノスベテ 作者:たくひあい

第60回 88 89
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「なるほど、それを写真に利用されたようだ」

彼が、冷静にうなずく中、男は惨めだと嘆くように、まだ紅潮している顔と、赤くなった目でぼくらを睨んだ。

「せめて、金さえ……安くても数千は貰えたはずなんだ、うまく、やれていたら、ラーメン屋じゃバレなかったってのに」

大体理解した気がしたので、彼女が居なくなったことを、ぼくは彼に耳打ちした。

「それは大変。追いかけなくては。コレも引っ張っていこうか。悪名高いだけあって、警察に引き渡すってのが正しいだろうけれど」

彼はポケットから男の携帯電話を取り上げる。電源は入っており、都合良くもロックは解除されたばかりという状態だった。着信履歴にある番号をさっさと記憶した彼は、すぐに鞄から出したメモ帳へとメモする。

「うむ、どれかが、マエノスベテのものか……なになにー、タチバナ、クチヤマ、ヤモト……」

電話帳に登録してあると横に名前が出るので、それを読み上げていた。

「この、立場名わわ子には連続で二回かけているね――誰かな」

「誰が教えるか、大体、偽名かどうかも怪しいのに」

「クチヤマ智夫、これは?」

「話を聞け!」

「あ」

――櫻って名前もあった。

ぼくは、彼を押さえつつ発見する。
男の名前だけで見れば、最初の方に上がった智夫が怪しげだったが、別用の可能性もある。
先週の金曜日まで遡ると、彼は携帯をまた捩じ込んだ。

「あいつはすぐ携帯を変えるから、繋がると思うなよ」

「なるほど、頻繁に契約変更しに来るやつをマークできるよう言っておくよ」

「言うって、誰に――」

「きみが知る必要はない」

彼は呆れながら男を立ち上がらせる。

――まあ、もっとも、バイトを雇うくらいわけないのだろうけれど。とは誰も言わなかった。

2019/06/19 14:19



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だけど、彼女の立場は、どうなのだろうか?
前にも後ろにも進めないということじゃないか。
女装がソレを成し遂げたところで、成し遂げられないところで、マエノスベテのために強引に閉じ込められ感情が無くなり、今度はその檻から出たところで居場所すら欠片もない。
内側ではウシさんが妬み余計に彼女を迫害し、外側では彼女の立場を他人が持っていく。

義理の兄であるということは彼が成り済まそうとするという意味は、長男という――上のきょうだいの手の内にしてしまう計画でもあるということだ。
暴力団になにもかも手渡すようなものである。

そしてその結果はますます、彼女は末として身分や力を剥奪され、隅へと蹴落とされるだろう。

やっぱり、人間は最悪だな。
最低だ。ぼくの方が感情移入してしまいそうだった。

「こんなことが……こんなひどいことがあっていいのか」

なぜ『よりによって』、コイツでなければならないのだろう。そうでさえなければ、せめてもの救いが得られたかもしれないのに。こういう時縦社会は、残酷に降りかかることくらい、こんな街に居ながら理解出来ない頭の人間なのだろうか。
ぼくはさりげなくポケットの中に持っていた小型のレコーダーの起動を確認する。
こんな物騒な生活のせいで常に持っているもので、小さいが5、6時間くらいは働いてくれるものだ。

2019/06/19 15:03


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