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作品名:マエノスベテ 作者:たくひあい

第58回 84 85
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 ああいうのたまに居るよなあなんて諦め気味で「それじゃ」と再び無視して元居た場所に戻って来たとき、やはり彼女は居なくて友人も居なくて、少し虚しくなったりしたが、しかし虚しくなっている場合でもないだろうからと、辺りを見渡す。
通報の用意をしてくれ、という意味が、なんとなく、だんだん掴めてきた。
少なくとも――すきやきが、上を向いて歩くくらいには。
映画館へと一応歩みを進める。

ポスターが並んで貼られた入り口付近で探す目的は果たされた。
『友人である彼』が、女の人に捕まっていたのだから。
ナンパではなさそうだ。
依頼者の彼女は、というと、遠い距離にある向かいの階段に居た。一人きょろきょろとさ迷いながら、下へ降りるところだった。

適当に絡んで、孤立させる作戦が実行されたらしい。
どうしようかと、一瞬迷った。フロアを降りるか、彼を助けるかの二択。

『相手』もうまいこと、人を利用して――単なるバイトに済まない策略を持ってして、ぼくらを追い回してるようだ。
店に入れば合図を示し合わせられるようにしてあるし、何か見かければ携帯で連絡を取るようにしてあるし、例えば個室にした場合でも、強引に、人違いなどを装う度胸を持ったいやがらせ。

「まあ、警察もグルって場合もあるけどな」

田舎の警察は地域と仲良しと聞くし……そしたら、今度こそ、いや考えたくない。
ただでさえ作家に付随する面々から追い回される面倒な身である。まさかかつてはこんなに人権破壊行為をする職業だったとは思いもよらなかった。
 単なる嫌がらせでは済まないことを繰り返している。
珍しいものや、価値のあるもの、変わったものは、根こそぎ狩り取り、強引に配り歩いてネタにしてしまう作家を名乗る『悪徳集団』が存在する。
――のだけれど、今はその話より先に、どちらかを追わねばならないと、ぼくは近くに居た彼の方にまず向かった。

彼に絡んでいたのは「あの写真」の女性だった。

2019/06/17 17:20



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「パイの実食べません?」

「…………あー」

「あぁ、箱? 幼馴染みのリス君二人がパイの実の森に居る絵です。パッケージ変わったんですよね」

「……うん」

なんて会話をしている横にそーっと近づく。彼は、困惑が隠せないようではあったが思っていたよりは冷静そうだった。

「彼氏はいいのかな?」

彼女は、あははーと笑う。
手には紙コップを持っていた。自販機のジュースを買ったらしい。
「…………」

彼は、少し何か思案した。
それからまた、固まったまま、思案していた。

――なんだか様子が大丈夫そうに見えたので、要らない心配なら下へ降りて彼女を探すことにしようかと背を向けたときだった。


「ふざけるな。この僕が――騙されると思ったのか?」


冷ややかに笑うそんな声がした。彼だ。

「生憎、きみと馴れ合う気はないんでね」

女性には比較的紳士で優しい方であるはずの彼が今日は不機嫌なので、なんだかぞわぞわと落ち着かない心地だった。
やがて彼は、ついぼんやり足を止めてしまったぼくに、急に呼び掛けてきた。

「そいつを捕まえろ!」

「えぇー」

 彼女はばたばたと、彼から逃げて、こちらに向かってくる。
ぼくはしばらく迷ったが、腕を広げて、簡易なバリケードになる。
待てよ打ち合わせと違うじゃないかなどとぼやく場合ではなかった。
捕まえろと言われればそうするしかない。やがてぼくと彼は、その人物を挟み撃ちで確保した。

      □


 華奢な身体とは裏腹に、足は骨がゴツゴツと角張った印象を与えていた女は、喉仏を震わせながら、「う、わぁああ……」と嗚咽を溢す。

「なんで、バレたんだ、俺の、メイクは、完璧だったのに、あいつ、約束が違うじゃないか!!」
「メイクはいいんだけどね……」
彼は、呆然とするぼくをよそに、ため息を吐く。彼は彼で、女の子みたいなカッコウなので、突っ込みどころがあるが、今はやめとこう。

「骨格は変わらないし、変えられるにしても、きみは決定的な部分が、欠けてたよ」

「チクショー!! 裏切ったな!! お前がやれって言ったんだぞキンパツ野郎! あああああー! なんて惨め、辱しめだ!! 俺の金はどうなる!?」

「ふむ、やはり、金を渡す約束で、女のフリなんかさせられてたか」
2019/06/17 22:06


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