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作品名:マエノスベテ 作者:たくひあい

第49回 70 71
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 ま……しょうがないか。
壁を蹴ってコンクリートの屋根に飛び移る。
あっという間に、街が少し見下ろせるようになった。
「ふいー、到着」

 元気が有り余っていた頃、ぼくは今ではスポーツにもなってる、屋根を伝いビルとビルの間を飛び回る遊びを、趣味の範囲でやっていた。死なない高さの飛び降りや移動はぼくにはリストカットよりも気軽な自傷。
彼もやがて少しぎこちなく後を追ってきた。

「本当きみは、身軽だね」

「褒めてもなにも出ないよ、さて、靴紐は結んである? ポケットの中に飛び出そうなものが無い? 裾は平気か?」

 いつもの癖の確認をするぼくに彼は平気だと言った。

前方のコースは極めて初心者向けの高さでさほど距離に不安はなさそうだ。僅かな水溜まりがあるがあの範囲なら支障がないだろう。下を見る。
今のところ、人は居ない。まずぼくが先に跳んだ。
下を見る。
前方、少し進んだ先で車の配置が始まっているが、まだ後方に至ってはぼくらを見失い追い付いてないみたいだ。
ちょうどここから右に二つ曲がって隣のビルから降りると、ほぼ人が待機していない、店の駐車場がある。

ぼくは彼に小さく合図しながら、先へ進んだ。
やがて彼も後を追ってくる。
なんだか、懐かしいななんて思った。身体が風になったみたいだ、なんだか自由になったみたい。それはほんの束の間だけど。


2019/06/09 00:06

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 そんな風にしてルートを辿ったぼくらはどうにか追っ手を巻いてから、スーパーに隣接する映画館に向かった。

「しっかし、デートね……」

人を好きになる気持ちがわからないぼくには理解しがたい。
一緒に出掛けてなにが面白いんだろうか。
映画くらい一人でも見られる。家で「あの子」の横にずっと座って本を読んでいるだけでさえ、いっぱいいっぱいなのだから、予測の付かない、こんな、広場に出掛けたらそれこそ感情のやり場に困って、おかしくなりそうだ。

「彼女は、こういうこと、あまり好きな風に見えないけど……」

「そう。だからさ、解決のために、来てもらったんだ。
これは、彼女を一度あの家から離すため」

彼が冷静に答える。
あ。なんだ、そういう打ち合わせか。

「まぁ、きみと居るだけでも、既に誤解が危なそうだけど」

彼は髪が長くあと顔立ちも、睫毛が長くてしゅっとしており服装も袴みたいなスカートみたいなのをよく着ているので、一見性別を見まがうのだが、人嫌いのぼくとつるんでいる理由も、少し、近い部分がある。
まあワケがあるというやつだ。
「誤解はある意味じゃ救いにもなる、だろ?」

「まあ、そういうことだけど、ね」
お互い、他人を寄せ付けるのがめんどくさいからこそ、こうして気が合い、それらしくつるんでいる。
彼も肩をすくめる。
「でも、今は、作戦の邪魔になるかもな」

ぼくは彼を無視してため息を吐く。

「はぁーあ。第二次世界対戦前は、見合い結婚が主流だったらしいのに、何をどう間違ったのか」

ワケがあって『自由な意思』自体が破壊、崩壊寸前なぼくには今の社会はとても難儀する。
何を感じて、何を行動するのか、受け入れられないのだ。

昭和20年代には見合いが七割だったらしい。その辺りは保守したってよかったんじゃなかろうか。
今さら言っても、無駄だけどね。
「コスパとかいう問題じゃないんだよなぁ、これ。ドット画面から、急に画質のいい3Dゲームになって世界観が急に掴むの時間かかるようになったくらい、
そう容易い話じゃないってのに、理解できないやつらが哀れだよ。電源つけただけで、すぐ動けると思ってんのかね。こっちはどこまでが風景で、どこまでが移動マップなのかもわかりづらいんだよな」

「その例えもわからない人にはわからないぞ」

「うー、なんか、飲み物買おうぜ」
2019/06/11 13:18


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