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作品名:マエノスベテ 作者:たくひあい

第38回 52 53
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「あれ?」

ふと声がかかる。
さっきまでの修羅場と対極的な、朗らかさの少年だった。

「瑞、なんだ、廊下に出たのかい、ってなんか緊張してる?」

「あぁ……そう、かな」

彼の、ふわふわした髪が帽子で押さえつけられているのが少し惜しいと思った。

「さっきはありがとな、外の空気が吸えてよかった」

「外、か」

「どうかした?」

「そうらしい」

天井に目を向ける。
未だにばたん、ばたん、と暴れる音がする

「あれ、ナエさんは?」

振り向くと、確かに、いない。いつのまに。
というかどこ行ったんだろう。
「さあ」
2019/05/17 00:03




53
 途中から着信があった為、『私』は戦場から抜け出して、ささっと外へ出ていた。
挨拶しようと思ったが、そうは行かなさそうな様子だった為何も言うわけにはいかなかったが、まあ、彼は頼りになるから、きっとどうにかするだろう。
そんな曖昧なことを思った。
彼に一応の礼儀でメールはしておく。

「いえー! のっぴきならねえ用事が出来ました。あとはよーろしくぅ★」

これでばっちりだ。
携帯の電源を落とし、私はドアを開けた。外はこの時期にしては晴れていたが寒かった。
辺りに特に車や人がいないのを確認した後に連絡された場所へ足を向けるべく、少し坂を降りた場所の横断歩道をわたる。煉瓦のあしらわれた壁に、えらく近代的な信号機がついている不思議な空間だった。
ピンポン、と音がなったのに従い、前へ進む。

時間を待つ、という行為は案外忍耐が必要で私は好きじゃない。渡る、というより、渡らされる。管理されている自分を感じる。秩序とはそういうものだとしても車が居ないこの瞬間律儀にそれをこなすのはただの習性だろう。
 もちろん忘れず腕に抱えたままのくまさんは、昔の事件の話をしていた。
「ええ、そうね……」
私は相づちを打つ。
目の前のトラフィックサインが思い出させる事件。
密輸事件。
模様。
キルト(quilt)という布は、ときに奴隷を逃がす合図に使われた符号を含んでいた。
十字路を曲がる。
クロスロード。
『オハイオ州のクリーブランドで待ち合わせましょう』を意味した。カナダに逃げるとき、そこの湖が拠点にされたという。生活に混じる模様や柄が、実は『何か』ということに私たちはあまり気付かない。
大きな事じゃなくとも、たとえば立て掛けるだけで救われる未来もあった。
ただ描くだけ、創るだけで、ガラリと変わる世界もある。それはとても凄いことで、過去の誰かがしてきたことだった。
裕福な自己顕示欲だけが芸術ではないことを私もかつて知ったのだ。

だから私は今日も『彼』を抱えていた。そして、こうして今も動いていた。あの子は、元気だろうか?
2019/05/19 12:26


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