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作品名:マエノスベテ 作者:たくひあい

第29回 37 38
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「メフィストフェレス」

「はい?」

「ファウスト伝説の悪魔。ファウストを誘惑して魂を売る約束をさせてめしつかいになり、冒険を助ける……
これがメフィストフェレスらしい」

振り向いてじっと彼女を見た彼、の長い髪が微かに揺れた。

「魂を売る約束なら、かわいいものだね、たまに思うんだ」

ピンポン、とチャイムが鳴り、ほどなくして来客の声がした。
「もーっしもーし! 私だよ」

「来たか。近くのアパートに住むやつだよ。ケーキを見せてくれた」

どうやら彼が呼んだらしい。

「入れても?」


「ナエさん……」

彼女、が頷く。やがてドアが開く。
あの挨拶するやつ、あと三人くらい知ってるぞと彼はぼやいた。彼と言い続けてもややこしいから、ここから絵鈴唯に統一しよう。

「いやっほう、ナエごんです」

「今日はやけにテンションが高いね」

ふわふわした長い黒髪とまんまるの瞳。それから腕にはくまちゃん。ナエのスタイルだった。ちなみに、萌と対局に位置する。萌の話はいいや。
パッチワークみたいなワンピースを着ていた。

「あ、お久しぶり!」

「ウシさんは?」

「今は、二階」

「よかったぁ……ウシさんに会うのはまだ少し緊張するからね」

 悪魔に強制契約で『魂だけ』奪われる人間が存在する。彼女はその一人。
しかし悪魔自体が奪うわけではなく契約者が自分の代わりに差し出した、という表記が正しいのでゴーストライターでいうところのゴースト、というのが正しい位置であり、利点はこれといってないのが特徴だ。

「いやぁ、ゴーストも楽じゃないもんだよ。本体より目立てないっていうけど、んなことしたらコンビニでおにぎりも買えないじゃないのよ! それに遠くから言うより直接アドバイスしましょうかって、燃費と効率の改善を提案しただけなのにこの前無視したのよ。よく考えたらいい話じゃない?
生きていけないくせにプライドが高すぎったらありゃしないわよ。そんなんじゃまずプライドから死ぬって」

「僕にいうな、馬鹿」

「好意なんかもつと、もう他人でありゴーストだと認めたようなもんじゃない?
なのに気持ちだけは伝えようとするんだよ、ありえない!
黙っとけばいいのに。気持ちも何もかも、自分自身にやってるってことになるよ、ナルシストだよ」

「僕にいうな、だから」

「思うに器量がないやつは、悪いことしない方がいい。でも、そうだからするんだよねぇ。悩ましい話」
2019/05/01 08:41

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「にしてもさっきは何かあったのかしら? パトカーがすごい勢いで走っていったけれど。ナエごん気になっちゃう」

「あぁ……『彼』が来ていて」

「なーるほど」

彼女は少し事情を知っているらしくぽん、と手を打った。

「『彼』は困ったものよね、どの人間も自分と同じような仕組みの生物だと本気で思ってるんだから」

くまちゃんは、その腕の中で、ぼそっと「甘いにおいだな」と呟いた。どういう仕組みかは謎だがこのぬいぐるみは、まれに喋る。
「好意が『吸収してしまいたい』という意味なのかもね。ほら、昔の画家とかにも居なかったっけ? 周りを養分みたいに吸収することを好意と呼ぶ人が」

確かに、なんだか居た気がする。隣に居る彼は詳しいだろうかと見上げると、彼は彼で何か考え込んでいるようだった。
いや……考えてるのだろうか?ぼんやりとどこかを見たまま固まっていた。

「互いに良い影響を及ぼす存在になるというのは、そういった意味だと貴方たちかな?」

 ふいに、こちらに話を振られてどうでしょうかねと微妙な返事をしてしまった。
ぼくたちはなにか影響されたりしたりしてるだろうか。あまり意識したことがないように思う。
「影響は影響、結果が結果、僕はそう思うな」

彼は彼でなにやら撹乱するようなことを言った。

「なにか甘い物を食べたの?」

 ナエさんはふと思い出したようにぼくらに聞いた。
ぼくは「食べた」と素直に答えた。『彼女』はまだケーキがあるけどと台所へ向かっていき『彼』もあとに続く。

ぼくがついて行こうとしたときナエさんとすれ違った。
耳打ち。

「ナエごんじゃなくて、ぬいぐるみに話すんだ?」

――え?

「きみって、なかなかいい耳してるね」

慌てて、帽子ごと頭を押さえる。大丈夫脱げていない。

2019/05/01 18:49


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