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作品名:マエノスベテ 作者:たくひあい

第28回 35 36
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 マエノスベテが居る空気を察してか、彼女はその場に出て行かなかった。
それで余計にマエノスベテは怒った。

「居るんだろう! なあ、いるんだろ!!」

しばらく叫ぶ間、ぼくと彼がどかずに居ると舌打ちしてドアを強く閉めていったが、なんだったんだという話になりかけたところでブォオオオン! と激しい爆音!が聞こえてきた。

「どうやら前時代のなかにいるらしい」
彼は肩を竦めて、近くの小窓を覗きに行くのでぼくもついていく。そのときになって彼女も我に返りぼくらの後ろから窓を見た。
バイクに乗った5、6人が、家を包囲していた。

「出てこい! 出てこないと恥ずかしい写真でもなんでもやってばらまくからな」

 そんなことを叫ぶのはどうなのかという点についてはこの際触れないで置くが、これは一体、どういうことなのだろう。
彼女は出ていくかどうか少し迷っているようだった。

「な、なんて茶番……」
彼、は呆れたようにため息を吐く。
彼女は悲痛そうな顔で呟いた。
「彼、が孤独な理由と、ウチに転がり込んできた理由のひとつはこれだったのです」

 そういえば、マエノスベテについてぼくらは特に細かくは聞かされていなかったことを思い出した。出てくるまで集団で包囲する発想はまるで犯罪者の扱いだ。

「逆に出ていきにくいな、これは」

一人ならともかく、そもそも他のは誰だ。
出てこないことに腹を立てているマエノスベテは、手にしていた拡声器を口に当てた。

「おーい! お嬢さんやー! 死んじまったかい?」

程なく、玄関のチャイムが鳴らされる。

「ウシさん! うるさいですよ、またアンタんとこのツレさんが騒いどります」

ウシさんは、二階からばたばた降りてくると廊下に立ち尽くす彼女を見てじっと睨んだ。
あんた、なんとかしなさい、という無言の威圧だ。

「う……」

彼女は「嫌だな、出ていきたくない」という表情だったが、近所からもお前が止めろと訴えが来て、部屋からもこれなので、とうとうドアを開けた。




2019/04/29 23:34





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 ドアを開けたものの、その先に居たご近所さんは、生け贄待ってましたとでも言わんばかりの笑顔で彼女の背を押し、マエノスベテへ差し出そうとした。
「いやいや、お待ちかねですよ」
喧しいと言っていたときのキツさはどこへやら、それはとても柔らかなふるまいだった。
彼女は逃げる術も無いため、そのまま部屋から出される他はなかった。
いいのかいと、彼、へ聞くとだからといって事情もわからないので入りようがないと言った。ぼくも、特に事情を知るわけではないが他人を見るたびにウワキダ、フリンダと騒ぎ立てる精神の持ち主なだけに、下手に接触していいのかと少し迷ってしまった。

「なにか、用事ですか、あなたは出ていったはずです」

「出ていった? ううん、あのときはカッとなっただけなんだ。悪いことしちゃったなぁ」

男はやけににこにこして彼女に歩み寄った。


「ほんとかよ……」

後ろ、玄関の中から見守りながらぼそっとぼくが言い、彼は、あの包囲網で言われるとなあ、と苦笑いを返す。

「ごめん、きみを愛してる」

「そう。さよなら、それと」

 彼女は何からどう突っ込もうか2秒ほど迷ったようだったが別れを述べて、ついでになにか続けようとした。
彼が少しむきになったときだった。
誰が呼んだのか、奥の道から赤いランプをつけた車が走ってきた。

「うわっ、また来る」

そうして彼は慌てて仲間たちと撤退した。

「お騒がせしました」

彼女はそうことわると、なるべくさっさと家へ戻って来た。
どうにか今は距離を置いている状態だが、しかしこの囲い込みはあまり変わらないらしい。

「私が心配だと言いますが、今思うと彼は、もう少し別の心配からすべきだと思います」

「なんというか、遠いところからもわかる、すごい人だな」

「えぇ。エレイさんも思いましたか」

「彼とは何か、暴力沙汰があったような感じがするね」

「まるで見てきたようなことを言うんですね」

「なんとなく、そんな雰囲気があるというのかな、言ってもわからないと思うよ」

「そうですか……まぁ、そのようなものです」

ぼくにしたのと同じような話の概要を彼女は軽く彼に語った。
「私は、私が何も知らないからだと自分を責めていましたし、近所からも、慰めよりも、その倍、バカだと言われました」

「確かに漫画や動画などを見たって、不倫、浮気、と用語説明がされるわけでもない。知っている人向けのコンテンツだ。
僕もたまに、浮気や不倫がなんのことかわからないときがあるし、ああいうのは話し半分くらいにしか見ていないよ。
しかし目が合い会話をするだけであらゆるものが許せないというのは、異常、やり過ぎだな」



2019/04/30 00:04


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