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作品名:マエノスベテ 作者:たくひあい

第21回 22 23
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 彼女は少なくとも、薬指に指輪はつけてないし、お揃いの皿やカップを買うという風習のところもあるが、それらも見当たらない。
 もちろん物だけでは判断出来ないが、いくら彼のような見た目でも結婚していればそう易々と部屋に男性を入れないで、玄関先くらいという場合も珍しくないのだが。

『彼女は、あのドレスのサイズではないよ。背が足らない』

「……」


彼女には見せられない返信だ。
「どうかなさいましたか?」

当人が、カップを両手で包み込みながらも首を傾げる。

「いえ、別に、その」

なんだかぼくは慌てた。
彼は至って真面目な顔で、電話をしてくると言って部屋を出ていく。

「ちょっ……」

このタイミングで置いていくということに彼を恨みたくなるがそうは言っても仕方がない。

「ケーキ、美味しいです」

改めて気まずいながらにそんなことを口にするのが精一杯だった。
2019/04/20 00:47




23

『女郎は浮気らしく見えて心のかしこきが上物』

 これでいう浮気というのは、陽気で派手な気質のことらしい。私には両親が居なかったけれど浮気らしく見える振る舞いはかかさなかった。
それこそが良いとして生きてきたのである。
春夏秋冬が浮気で楽しく生きていければ素晴らしいではないか。

 散歩コースでたまたま道ですれ違うだけの《彼》と友人になってからというもの、しかし私は浮気に頭を悩ませることとなった。
《彼》の言う言葉は難しいものであった。
人と話せば浮気だと言い、人を見ていれば浮気だと言う。
陽気で派手な気質を好まぬ変わり者だったのだ。
独り閉じ籠り陰鬱とする女性が好みだという者も勿論いるだろうけれど、私は元よりそうというわけでもなかった。
何もかも浮気な私が否定され、やがて私は私でなくなって居た。


 庭でぼんやりとする時間、フラワーアレンジのために育てられている花たちのプランターを眺めるのが唯一喜びだった。
 このように咲き、隣の花と寄り添いながら目の前の自然を眺めている小さな浮気たちは、私と違い許されているのである。 ただ黙り、黙々と浮気を許された花たちが誰かの手へ渡る様を眺め、自分を重ねていた。

 彼はこの家に住み着くようになった。彼から逃れる術を私は持っていなかったし、彼は浮気を嫌うのでただ陰鬱としているしかない。客をもてなしていても彼女らが帰るとと力強く頬を叩かれてしまう。

「浮気はやめろと言っただろう」
笑顔を嫌う彼のために、浮気をするわけではないというのに。
「浮気は、素晴らしいことですわ。女性が笑顔を見せたり、他人に話しかけることはとても大事な役割です」

「話しかけるな! なぜそんな必要がある」

 女性は口から生まれるという言葉もあるように、他人と会話したり笑顔でコミュニケーションすることは大事なことだった。これは社会の男尊女卑がまだ根深いために起きた事のひとつだろう。
 ある日から、浮気、にとって変わる言葉が私を苛み始めた。
「フリンカ!」

呪文のようだった。
2019/04/22 13:37


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