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作品名:RACE OF DUSK 作者:千彰

第5回 悲しき懐事情を亡霊は知らない
 ヴィルは偽聖剣を振りかざし自由落下でアウルベアー目掛け全体重を乗せる。
そして降りながら一呼吸のうちに地面に着地し同時にアウルベアーを一閃した。
まるでバターを斬るように淀み無く剣の刃が通っていく。
体重をかけるだけで硬さに定評のあるレムレイスが切り裂かれていく様は、
やはり多大な仕掛け代を支払った価値はあったとヴィルは思っていた。
そしてアウルベアーは断末魔を上げる間も無く”偽聖剣”により真っ二つに切り裂かれたのだった。

「……はっはっ……く、なんとかなったか……。
 アウルベアーで助かったのか、それとも……とにかくエリーは無事だろうな?」

真っ黒な体液はレムレイスがこの世界の生物ではない証、
しばらくすると青白い光がぽぅっとアウルベアーから出ては消えていった。
そして酷い腐臭を撒き散らしながらアウルベアーの肉体は即座に崩れ落ち大地へと還っていく。
レムレイスの最期は皆こうなるという。

「術式1回で数万シェル(※通貨:シェル)か……即席レムレイス装備としてなら安いとはいえ、
 安月給が興味本位でやってみるもんじゃないな。」

 仕掛けの術式が解除されたと同時に”偽聖剣”は元のロングソードに戻り刀身の限界を超えたのか、
ガラス細工のような音を立てて砕け散ったのだった。
刀身がここまで砕けてしまうと修復は不可能、多少の刃こぼれ程度であれば直せると聞いたことがあったが、
この惨状はどうしようもない状態である。
本気で落ち込むヴィル。
締めて剣代と仕掛け術式代の合計15万シェル近くの大損だったのは言うまでもない。
ちなみに15万シェルもあれば質素ながらも都市圏でひと月は生活に困らない金額である。

 しばらく項垂れていると遠くから見知った顔が走り寄ってくる。
探索系の精霊術式を行使した後、気分を害して戦線離脱したエリーだった。
先程まではひどく体調が悪そうだったのだが、今や打って変わって笑顔を見せている。

「エリー……もう気分はいいのかい?」
「はい! マスターのおかげです完全復活!とまではいきませんが、だいぶ良くなりました。
 その様子を見るに無事アウルベアーを撃滅できたのですね。」
「……まあね。
 元気になったなら一つ手伝ってほしいことがある、アオトイ自警団員達を弔いたいから手伝ってくれ。」
「わかりました。」

 2人はこの地で無念にも息絶えてしまったアオトイ自警団員達を弔うことにした。
ヴィルは死者を弔いながら柄にもない事が脳裏に浮かんでは消えていた。
もう少し早く到着できていれば、自警団員よりも先に自分が戦ってさえいれば。
たられば論を言い出したらキリがない。
たまたま今回は運がよく勝てたのだ、少しでも判断ミスをしていたら自分もやられていた、
結論はすでに出ているのである。

 しばらくして後詰めの自警団員がやってきた為、2人は事情を説明し引き継ぐことにした。
名も知れぬ二人組より顔見知りの仲間達にやってもらったほうが安らかなる眠りへつけるだろうと。
後詰めの隊長らしき人物は2人に対して深々と頭を下げ礼を言った。
彼の表情は悔しさと悲しみが入り混じった複雑なものだった。
仲間を失った悲しみと、自警団員なのに何も出来なかった悔しさと。
ヴィルはレムレイスによって犠牲になった者たちを弔う”鎮魂の儀式”を彼らに伝えることにした。
これは行商で各地を廻っているときに知ったレムレイスの被害が大きい地域の鎮魂の方法だという。

「彼らの為にあなた方の誰でもいい、毎日お参りに来てあげてください。」
「わかりました。
 えーと、……それだけで良いのですか?」
「ええ。 それが重要なので。」
 
 アオトイへ向かう道すがらすっかり元気を取り戻したエリーは、
気分が悪い状態でありながらあのあとも精霊術式を行使していたようで、
ヴィルの戦いぶりを遠くから見ていたらしく、目を輝かせて本人の目の前で語っていた。

「最初の一撃をいなすお姿、流石マイマスターと思いましたね。
 剣の腕はそこそこと仰っていますが、これは謙遜だと証明されたわけです!」
「……謙遜じゃなくてホントだってば。」
「そしてトドメの一撃、聖剣の輝きはしっかりと目に焼き付けておきました!
 まるで月のような清廉なる輝き、程度の低い邪霊ならばそれだけで消え失せましょう。」
「聖剣じゃないよあれは、武具のいわゆる”強制昇格”による”偽剣錬成”という技術さ。」
「知ってますよーそのくらい。
 だってあたしはマスターの忠実な側仕えですし!
 敬愛するマスターのことなら知らないことはありませんっ。
 好きな昼食のメニューから好きな女性のタイプまで……!」
「ちょっと待ってエリー。
 側仕えってなんだよ、君は商工会の紹介で仕事(道案内)をしにきた精霊術士だろう!?
 その発言、冗談だとしても物凄く不安になるし怖いんだけど……落ち着いたら少しお話しようか。」
「マスターのエッチっ!」

 深い深い溜息をつくヴィルだった。

********

 件の事後処理が終わった翌日、ヴィルとエリーはレムレイスのせいで通行止めのような状態になっていたカラン街道を通り、
次の目的地である港町モトカムへ向かって歩いていた。
意気揚々と旅立ったといきたいところだが、2人の足取りは非常に重く表情も冴えない。

「ヴィル様、お腹すきました。」
「我慢しなさい。」
「むぅー……。」

 アオトイとモトカムの距離は徒歩で3日程度、乗り合い馬車を使えば1日程度はあるだろうか。
途中、旅宿場が多くあるわけでもない為、大抵の旅人達は乗り合い馬車を使うのが一般的である。
旅の安全性を考慮しても乗り合い馬車の利用は推奨されているが、腕に自信のある旅人は徒歩を選択するようである。
つまりアオトイとモトカムの区間では、普通の旅人が徒歩では踏破が難しい理由が存在しているということである。
行商で来ているヴィルにとってはこの場合、足早にモトカムへ到着すべく乗り合い馬車を選択したいところ。
だが二人は徒歩を選択していた。

「……路銀少ないんだから……。」

2人の表情の冴えなさの最大の原因は彼らの懐具合にあった。
予定外の事件発生による予定外の滞在期間の為の予定外の宿泊費。
そして予定外の戦闘による予定外の武器破損、コストが重なりに重なってヴィルの財布は
片手の指で数えられる程度の貨幣しか残っていなかった。
本来ならばこんなところで旅費が危険水域に達するわけがなかったのである。


6時間前―

 アオトイの旅宿の個室でヴィルは嘆いていた。財布の中身をテーブルの上にぶち撒けて。
天井を見ながら深い溜め息をついてテーブルを見て、また天井を見てを繰り返している。
それを側で見ていたエリーは、あらら大変、と他人事のような顔をしてヴィルの相談という名の愚痴を聞いていた。
なお、テーブルの上に転がっていた硬貨や紙幣の枚数はとても口では言えない数だったという。

「やってしまった……支給品のロングソードを壊してしまった……。」
「支給品なんですよね?
 じゃあ、戦闘で壊れましたって言えばいいじゃないですか。
 商工会もそこまでケチじゃないんですからまた新しいのをくれますよ。」
「そりゃ支給品だから申請すれば新しいのをくれるだろう……でも問題はそこじゃなくてね。
 剣が壊れたのはいい、それが支給品なのもこの際いい、
 問題なのは今手持ちの武器が何もないことなんだよ!?」
「あっ……。」

 何かを察するエリー。

「つまり取り急ぎでナマクラでも良いから代わりの武器を調達しないといけないってことさ。
 いくらなんでも丸腰でモトカムまで行きたくないぞ!?
 はぁぁぁぁ……出費がぁ……出費がぁぁぁっ。」
「ど、ど、ど、どーするんですか!?
 この村に公営銀行はありませんでしたよ!?
 辺境に近いとはいえ目的地のモトカムまで行けばありそうですけどぉ……。」
「モトカムまで徒歩だと最低3日……マジで死ぬかもしれん……」

 ちなみに公営銀行とは、
ノインラークス公国民の財産を受入れたり資金の貸出しを行ったり生活に密接した公営企業であり、
大公が最高責任者を務めている企業でもある。
基本的に各地域の中都市以上には支店が配置されてあり、
国内であれば預けた銀行から以外でも資金を預けたり引き出したりする事ができる。
旅人にとっても非常に有り難い存在であり、旅のルートを作る時も銀行の支店がある街を必ず経由するのは最早定石である。
だがアオトイにその支店は無かった。

「銀行が無いってのは盲点だったよ……。
 現場でも引き出せるだろうと思って手持ちはあんまり持ってこなかったんだよな。
 そういうエリーは余裕あるのかい?」
「もぅ、ヴィル様ってばこんな時にオトボケです?
 あたしのお財布はヴィル様のお財布じゃないですか。」
「そうだった……財布の管理も俺だった……。
 お願いだから俺を助けると思って食事の量を減らしてください。」
「ハーイ オナカト ソウダンシテ ガンバリマース。」

続く。


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