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作品名:RACE OF DUSK 作者:千彰

第3回 その腰の剣は飾りですか?
 翌日の朝、ヴィルとエリーは大衆食堂”アオトイの屋根”で朝食をとりながら今後の旅程について話をしていた。
だがその旅程の話はエリーには届いていなようで、ヴィルの懇切丁寧な説明は上の空だった。
何故かというと……。

「大変なことになりましたねヴィル様。
 ええ、何も仰らなくてもわかりますともっ!
 こうなってしまったのは最早ヴィル様とあたしのデスティニー!、
 これはヴィル様のお力が求められているということです!」

 まるで勝ち誇ったかのような生き生きとした表情で、
エリーは旅宿の食堂でヴィルに向かって言い放ったのだった。
ガタッと椅子から立ち上がった音のせいか、彼女の声の大きさのせいか、食堂の客がみな二人を見ている。
ヴィルは冷静に立ったままのエリーを座らせることにした。

「取り敢えず他のお客さんにご迷惑だから座ろうか……。」
「はーい。」

 エリーの言葉の理由はただ一つ。
このアオトイで話題になっている謎の生物がカラン街道付近で
今朝方目撃されたという情報が入ってきたからである。
早朝の農作業を終えて村に帰る途中、
カラン街道で鋭く赤く光る目をした謎の生物がじっとこちらを見ていたという。
幸いにもアオトイとは逆方向だった為、目撃した村民は一目散に逃げ帰えることが出来たようなのだ。
この情報を得た自警団は詰所に待機していた数人は足早に現場へ急行した。
問題は自警団が向かってから2時間程度経っているが、まだ誰も戻ってきてはいないことである。

「ふふふっ! 観念の時ですよヴィル様!
 あ、すみませーん、お冷を一杯ください!!」

 右手にフォークを握りしめ、口の周りに食べかすをつけたままで、
淑女としての嗜みはどこへ行ってしまったのだろうか。
エリーは見た目の華やかさと物腰の繊細さから良いところの令嬢ではないかと噂されているらしい。
当人を知るヴィルにしてみれば知らぬが仏よなと閉口するしかない話である。
なお、本人もその噂は認知しているようで悪い噂ではない事もあり、
”お嬢様は辛いですわ”とニッコリと微笑むだけであった。

 眠気がまだ晴れないヴィルはふぁぁと大きな欠伸を一つ入れる。
しかし何故にこの娘は朝っぱらからこうも元気が良いのか、
もしかしたら疲れを取る術に長けているのだろうか、とヴィルは思わずにはいられなかった。
ヴィルの眠気が晴れないのは当然である。
昨夜遅くまでこれまでに溜まりに溜まった経費申請書をせっせと作成していたのだから。
ヴィルは書類作業は大の苦手で、都度作成するということを行いたくない人種である。
ちなみに経費申請の主因であるエリーは論外である、彼女に数字が絡む書類整理等をさせてはならない。
戒めである。

「なんで俺のチカラが求められている、ってことになるんだよ。
 どう考えてもここの自警団の仕事だろう。
 現に彼らは現場に向かって事に当たっているんだろう?
 俺達が首突っ込んだらそれは越権行為にならないか?」
「そ、それはまあ、そうとも言いますけど!」
「彼らの健闘を祈って今はここで事態の推移を見守るしかないだろう。
 追加分の宿泊費の請求は許されるだろうから滞在費も心配しないでいい。」
「それは無理ですよ。」
「随分はっきりと言ってくれるじゃないか。」
「あたしが密告しますもん。
 ヴィル様がアオトイの食事や観光を堪能していましたってっ!!」

 悪戯っぽい顔をしてヴィルを見つめるエリー。
これが学生時代の生意気な後輩だったら殴り飛ばしても罪にはならないのではないか、
とヴィルは本気で考えたという。
普段から実年齢より精神年齢低めを感じさせる彼女だが、今回はいつにも増して子供のような言い草である。
このエリー、あたしは子供じゃなくて大人ですとばかりに、
口だけではなく妙に行動力もあることもあって冗談ではない可能性が高い。
特にこういう場合は危険極まりない。

「……はぁ……。」

 ヴィルは朝っぱらから深く重く面倒くさい溜息を吐いた。
見ての通りヴィルとエリーは現状足止めを食らっている。
当初の予定では旅宿をチェックアウトした後、アオトイから出立しカラン街道を通過して
公都ノイン・ラークスへ向かう行程へつくはずだった。
夕方頃にはアオトイに最も近い海辺の古都モトカムへ着く算段をしていたのである。
謎の生物が現れさえしなければ順調だったのだ、全てはレムレイスが悪い。
ヴィルのヘイトは自然とレムレイスへ向けられたのだった。

「その腰の剣は飾りなんですかっ!?
 あたしは知ってるんですからね、マスターの出し渋りっ!」
「言いたい放題いいよって……。」

 ヴィルは楚々と食後のお茶を飲むエリーに合図を送る。
それはテーブルを人差し指で軽くトントンと2回叩くこと。
その合図を確認したエリーは満面の笑みを浮かべて椅子から立ち上がったのだった。

「荷物を取ってくるから、エリーは取り敢えず情報収集な。」
「はーいっ!
 流石ヴィル様はあたしの敬愛するマスターです!
 情報収集はお任せください、あたしエレオノーラ・ヴェルディエが全力で実行致します!」

********

 カラン街道は、アオトイと公都ノイン・ラークスを繋ぐ古道の一つである。
いわば交通と経済の大動脈であり、何かしらに理由で街道の一部の流れが止まってしまうと、
回り回って様々な地域で影響が出てしまうのである。
ノイン・ラークス近郊ではその重要性から安全確保の為、
大規模な防衛線が敷かれてあり常時監視の目があるのだという。
カラン街道を使わない場合、他には険しい山岳ルートが存在する。
当然危険な生物が生息していることもあり、
多くの人々は比較的安全で起伏の緩やかなカラン街道を使っていた。

「エリー、現場の調べはついているな?」
「もちろんです!」

 ヴィルはエリーと合流すると旅宿をチェックアウトしてアオトイを後にした。
足早に移動しながら外套を羽織るヴィル。
エリーと似たデザインのものではあるが、彼の外套にはレースはもちろんついていない。

「で、どうだった?」
「はい!
 マイマスター、報告しますっ!」

 ヴィルは少し後ろを歩くエリーから報告を聞くことにした。
エリーは待ってましたとばかりに目を一瞬輝かせ、
すぅーっと深呼吸をして今まで聞いたことがないようなくらい真面目なトーンで
事務的ではあるが正確に見聞きした情報を要約して話しだした。

「あたしの確認した限りですと、詰所や旅宿でも言質しか取れていませんが、
 出ていった数人のアオトイ自警団員はどなたも帰還していません。
 丁度第2陣の出撃準備をしていたので間違いはないかと。
 また今回の目撃者と接触に成功し謎の生物の特徴を聞き出したところ、
 輝く目や禍々しい風貌と暗めな体の配色の加減から異形生物と判断して良いと思われます。
 これは私見ですが調査の中で聞き得たレムレイスの特徴から魔獣型”アウルベアー”と思われます。
 あたしからは以上です。」

 アオトイ自警団は万が一の事態に備える為、かれこれ十数年前からアオトイ村民の安全を確保する為、
様々な安全保障の観点から村の若者から有志を募り発足させていた。
だが、その万が一の中にレムレイスは含まれてはいなかった。
つまらない話をすれば、レムレイスを仮想敵として想定し装備を用意する場合、
予算がいくらあっても足りないのである。
いつ現れる分からないものに多大な予算をつぎ込めるほどどこも余裕はないのである。

 レムレイスに通常装備での攻撃は効果が薄い、人類の幾年にも及ぶ経験則から明らかである。
名うての大兵団でも基本的には対レムレイス専用装備を用意して事にあたるのが定石である。
ましてや辺境の村の自警団がその専用装備を持っているわけがないのである。
レムレイスは基本的に人が大勢集まる大都市に出現しやすい事が近年の研究により明らかになっている。
報告例が無いわけではないが、地方都市や辺境の村々での発生件数はゼロに等しく、
レムレイスの発生にある程度法則性や理由に目処はついているものの例外の数は無視できず未だ結論づけられてはいなかった。
来るかも知れない謎の敵の為の装備を揃えるよりも、実用性の高い装備をという論理は当然である。

「了解した、よくやったエリー。」
「いえいえ〜、これが仕事ですから〜♪」

 嬉しそうなエリーと真剣な表情のヴィルの二人は、アオトイから出てカラン街道へ向かって歩いていた。
アオトイからカラン街道は直接接続はしておらず小道を通って街道へ出ていく必要がある。
距離的には10分もあれば事足りるわけだが、この距離は急いでいる時に限りやたらと長く感じる距離でもあった。

「急ぐぞ。」
「はい、マスター。」

続く。


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