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作品名:RACE OF DUSK 作者:千彰

第2回 オレンジパイの為に
 大衆食堂”アオトイの屋根”は丁度ランチタイムだったこともあり、大賑わいの様子を見せていた。
飛び交うオーダーの数々、若いウェイトレス達が所狭しと食堂内を駆け回っており、
青年と女性が店内に入ったことにはまるで気づいていない様子である。
田舎の食堂のわりにはいい客入りであり、一体これだけの村人はどこに隠れていたのだろうと思うばかりです。
しょうがないなと青年と女性は丁度食事を終え席を立った二人組を確認し席が空いたことを確認し、
足早に店内の奥側にある二人掛けのテーブル席へ向かったのだった。

「すみませーんっ! 新規2名でオーダーでーすっ!」

 若い女性の通りの良い声が店内にこだまする。
こういう時青年は声の通りの良さと彼女の図々しさが羨ましくもあった。
しばらく待っていると忙しそうな顔をした中年のウェイトレスが注文を受けにやってきた。
随分繁盛していますねと言ってみたところ、
謎の生物を倒そうと外から人がやってきて賑わっているのだという。
メニュー表を見ながらどれを頼もうかと思案していたところ、
女性はあれとこれとそれをと言いながら手際良く注文していく。
みるみるうちに増えていく品数にぞっとしながら、
青年は財布と相談し女性が頼んだものから
ちょこちょこ貰うことで空腹を満たすことにしたのだった。

20分後

「……はぁ……。」
「ふー……もうあたしお腹いっぱいですー。
 ご馳走様ですー。」
「だろうね。
 こうなるのは分かっているけど……。
 もう少し遠慮ってものをしてもらいたいもんだね。」

 彼女の前には空になったお皿の山が並んでいる。
その様子を見て呆れながら青年は口を開いた。
以前より自重してくれと言っているようなのだが、
”空腹はストレス、つまり美容によくありませんし!”と言って意に介さないのだとか。
不思議なのはあれだけ食べてもさっぱり肉付きが良くならないことである。
ぱっと見、細身のスタイルを維持しているように見えるだけに実に解せないと青年は思っていた。

「いいじゃないですかー、どうせ経費で落ちるんですからぁ。」
「申請すれば何でも経費で落ちるとか思ってないよね?」
「エッ!?」
「エッ!? 
 君は経費の意味を調べてきたほうがいいんじゃないかな。」

 昼食を終えた二人は食堂で紅茶を飲みながら今後について話し合いをすることにした。
これまでの話を統合すると自警団員の話と資料の内容から
十中八九で謎の生物は異形生物(レムレイス)で決まりである。
レムレイスはアオトイの住民達にとっては脅威以外なにものでもなく、速やかなる事態解決が望まれている。
また住民達の要望を受け自治体からは公的に討伐の協力要請が外部機関へ依頼されているということである。
アオトイ自警団の戦力を考えるに一時的な迎撃は出来ても、討伐は難しいというところなのだろう。
レムレイスの討伐は一筋縄でいかない事が常であり通常装備では致命傷を与えにくいのである。
ただ何も対レムレイス装備がないと倒せないというわけではないが、
倒すことが難しいだけであってようは効率の問題なのである。

「う〜〜ん! うはぁぁぁ〜!
 やっぱりアオトイ産のブラッドオレンジで作ったオレンジパイは最高です!
 そしてこのアップルティーも格別……至福ですぅ〜。」

 食べ終え空になったお皿は下げられ、
目の前には食後のデザートのオレンジパイとホットオレンジティーが置かれてある。
どうやらまだ物足らなかったらしい。
目を伏せどこぞのお嬢様よろしく静々と紅茶を飲む食いしん坊。
立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花とか言われていたりいなかったりするらしいが、
言動と外見のギャップは見ての通り激しい。

「自警団詰所で見せてもらった資料で必要な情報は揃った。
 明日にはこの村を発つよ。」
「あれ?
 もうこの村とバイバイしちゃうんですか?」
「何か問題でもあるかい?」
「あたしの敬愛するマイマスターはこの現状を見て我関せずのおつもりで?」
「なぁにが敬愛だ…
 俺達の目的は商工会からの依頼でモトカムまでの行商であって、元凶の根絶じゃないだろう?
 討伐とかの切った張ったは荒事の専門家に任せればいいんだよ。」
「マイマスターっ!!」

 彼女の声の大きさは店内の客の視線を一瞬でも集めるには充分だった。
慌てて青年はペコリペコリと周囲に頭を下げて平謝る。
そしてむっとした表情をして女性に向きなおった。
ちなみにマスターとは一般的に人を束ねる存在、親方、雇い主などの人間を指す。

「人前でしかも大声でマイマスターとか言うな!
 それに俺は君のマスターじゃないって何度も言っているだろうがっ!」
「何を仰いますヴィル様。
 ヴィルヘルム・レスタード様はあたくしエレオノーラ・ヴェルディエにとって唯一無二のマスターでは御座いませんか!」
「……はぁ、何度言っても聞きゃしない。
 あー例えばだ、例えば俺達がその討伐隊へ参加したところでどうなる。
 訓練された戦士と旅慣れたした程度の商人じゃ戦力は明らかじゃないか。
 さらに手持ちの武器と言えば俺の支給品のロングソードとそっちのスティレットが1本ずつ。
 対レイムレイス装備はもちろん無い。焼け石に水が見えているじゃないか。」

 ロングソードとスティレット程度で倒せるならば討伐隊なんてものは組織されない説。
そして外部へ討伐依頼も出されない説。
どうにか助けられないかと懇願する金髪娘エレオノーラことエリーの前に、
ヴィルは冷静に現有装備ではどうにもならないと現実を叩きつけたのである。

「足りないモノは愛と気合と根性でどうにかしましょうっ!」
「3つも言ったけどそれ全部精神論だよね。
 例えば対レイムレイス用装備とかどうやって手に入れるんだよ。
 公都ノイン・ラークスならまだしもこの村にそんな都合の良い施設なんてあるもんか?」
「でもぉ〜、何とかしてあげたいですーマイマスター〜。」
「今回は妙に食い下がるな……。」
「だってぇ〜……ぶつぶつ(……オレンジパイが……紅茶が……)。」

 ヴィルは今回の計昼食代4人分の領収書を切ってもらい溜息をつきながら支払った後、
これまでに得た情報を早速レポート化したいからとエリーも連れて一旦旅宿へ戻ることにした。
問題はエリーのワガママで増えに増えた食費絡みの経費申請である。
仮に2人分までは不都合無く許可されたとしても、
平均3.5人分の食費は経費として許可される気は全くしなかったのだった。
何せ請求先はこういうお金の動きに厳し商工会である、ヴィルの申請許可のセンスが試されるわけである。

続く。


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