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作品名:RACE OF DUSK 作者:千彰

第1回 セピアとハニーブロンド
 ヒトの天敵たる異形生物(レムレイス)絡みの事件はいつも突然だ。
今回の事件は北方大陸のさらに北東部を領地とするノインラークス公国で発生した。

 ノインラークス公国と言えば、ベストラ大公が国を治める君主制国家である。
北方大陸でも有数の野菜や果実栽培が盛んな国で、
領土の特徴を活かし場所にあった品種の生育が行われている。
農地と人員を確保する為、敢えて人口密集地を点在化している国なのだが、
アオトイはノインラークス公国の中でもかなり外れた位置に存在している。
ノインラークス公国中央付近の山間にある小さな村落であり、
主産業は近くにある連峰への登山観光業と果実農業が少々という程度の、
人間側から見れば戦略的価値という点では魅力に乏しい場所だった。
そんなアオトイでもレムレイスは人々に恐怖を刻み続けている。

「少々お待ちください、資料をとってきますので……。
 またちらついてきたみたいですね、ここ数日は晴れていたのに。」
「ええ、ほんの1時間くらい前からひらひらと。
 資料の件、よろしくお願いします。」

 ここはアオトイ自警団詰所内の応接間。
偶然居合わせた自警団員の1人はふらりと詰所を訪れた旅人風の格好の青年の相手をしていた。
資料請求を依頼されたようで自警団員は青年に席を外す旨を伝え奥へと消えていった。
柔らかく落ち着いた口調と短めのセピアの髪が印象的なその青年は、
真剣な顔つきで提示された資料を読みふけっていた。
時折、ふーんやなるほど、とぶつぶつ呟いている。
青年の腰にはロングソード級の長剣がちらりと見え、足を守る靴はただのレザーブーツではなく、
旅人のために誂えた長期の移動に耐える頑丈そうなスエードブーツを履きこなしている。
そして隣の椅子にランプブラックのシックな外套を掛けていた。
外套にちらほらまだ雪が残っていることから先ほどまで外を歩いていたのだろう。
傍らにはとある職業の人達が必須で持っている特有の大きめなバックパックが置かれてあった。

「お待たせしました。
 こちらの資料がこれまでに報告された内容になります。」
「どうも。」

 仮に行商人とはいえ帯剣していることから最初は怪しい人物だと自警団員は職業柄訝しげんでいた。
当然であろう、ここで怪しむことが出来なければいっぱしの自警団員は務まらない。
自警団員が青年の評価に悩んでいると青年が狙ったように、自警団員が知りたかった情報を口にした。
曰く、目的地までの行程の安全確認の為、可能であれば事件の資料を見せてほしいと。
言っていることに問題があるわけではない為、
気になる点はあるにせよ自警団員は警戒を解いたのだった。
ぱらぱらと資料をめくりながら青年はポツリと呟く。

「……もうここまでも……。」

 近隣のペバップ村とこの農村アオトイを繋ぐカラン旅人街道で今まで見たこともないような生物を見た、
という証言がアオトイの自警団室に寄せられるようになっていた。
目撃者によると体長は人間の数倍以上あったともいい、
口は裂け目は鈍く輝き、鉄をも切り裂く鋭利な爪を持っていたとも報告されている。
報告を受理したアオトイ自警団では数度、
調査という名目の討伐隊を組織し捜索を行ったことはあるようだが、
謎の生物からは警戒されているらしく一度もお目にかかれていないという。
アオトイを中心にその謎の生物の噂は広がり、
カラン旅人街道では行き交う人の数は日を追って減っていったのだという。

「まだこちらの資料には記載されていない新情報が御座いますが……そちらも?」
「ええ、是非お願いします。」

 謎の生物は巨大な体躯とは思えぬほど俊敏であり、
ヒトを見かけたら見境なく襲いかかってくるのだという。
命からがら逃げ帰ってきたという報告の中に犠牲者の数も合わせて記録されていた。
共通項として、目撃された時間はほぼ夕方から夜にかけて集中しており、
その活動時刻から夜行型生物の一種だとは思われるが、
それ以上のことは何もわかってはいなかった。
討伐隊の存在を認識し、姿を消して様子を窺っているとしたら、
相応の知能を持っているとも考えられる、と報告書はそこで終わっていた。

「普通に考えるならば野生動物の突然変異でしょうか、
 報告書に目を通す限りでは元は野生の熊か狼か……、
 ともかくそう考えるのが自然かと思いますが。」
「自警団側では被害者達の声から、異形生物(レムレイス)と考えていますけどね。」
「その単語が出る……ということは”普通”じゃない被害状況だったってことですか。」
「ええ? ……まあ。
 何度か討伐隊を出していますが、そのたびにレムレイスの可能性が高まっていきますよ。」
「へぇ……姿を見せないあたり、”っぽい”ですね。」
「そうですかね。
 さて、こちらから提供できる情報は以上になります。
 他にご質問はありませんか?」
「大丈夫です、知りたかったものは見せてもらえましたので。」

 青年は自警団員にお礼を言うと何やら考え事をしながら詰所を後にした。
思っていた以上の情報が入ったのは彼の口ぶりから明確だが、
詰所に入る前と比べると表情の険しさは比較にならなかった。
空を見上げれば先ほどまではちらつく程度だった雪もいつの間にかその粒の大きさを増している。
地面も白く染まりつつあるところを見るに明日の朝までに積雪は確実だろうと思っていた。

 そんな険しい表情を浮かべる青年に向かって軽やかな足取りで近づいてくる若い女性がいる。
ハニーブロンドのセミロングの髪がふわっと揺れ満面の笑顔が眩しい。
歳の頃は10代後半から20代前半といったところだろうか、笑顔にややあどけなさを残している。
レース付きのブラウンとベージュのちょっと派手目な外套を身にまとっており、
青年と似たデザインのスエードブーツを履き、
外套の隙間から剣らしき柄がちらちらと見え隠れしている。
女性は青年の前に立つと開口一番、人聞きの悪いことを言い放ったのだった。

「あたしを置いて言っちゃうなんてヒトデナシ!
 どっかの悪いおじさんに拐われたらどうするんですか!」
「……そのおじさんを助けないといけないのかぁ。」
「そう、そんな事になったらきっとあたしは大暴れっ……じゃない!
 人聞きの悪いことを言わないでくださいよ!
 こう見えてもあたしはか弱いんですから、大暴れとか絶対ありえないです!」
「誰も言ってないよ。
 全く大人しく旅宿で待っているようにと言いつけたはずなんだけどね。」
「だってお昼過ぎても帰ってこないんですもん。」
「それはまあ悪かったよ。
 思ったよりも資料が多くて確認に時間が掛かってしまったんだ。」
「まーいいですけど。
 ともかくランチ行きましょう! あたしお腹ぺこぺこです!」

 青年は深く溜息をついて見知りの女性の提案を受けることにした。
言われてみればではあるが青年もお腹をさすりながら空腹状態だったことを自覚したのだった。
朝に旅宿を飛び出してからこっち水をコップ一杯飲んだだけで、他は何も口にしていなかったのである。
青年は女性に強引に服の袖を引かれ自警団詰所近くの大衆食堂へ連れて行かれたのだった。
自警団詰所と外との気温差はだいぶ激しかったのか、青年はくしゃみを一つしてしまった。

「大丈夫ですか?」
「……だから雪が降ったのか。」
「???
 わけわかんないこと言っていないで、あそこの食堂行きましょう!」
「へいへい。」

続く。


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