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作品名:キャンウェル・イチ 作者:橘 はる

第1回 事件編 1
「今から会いに行くよ」
老いぼれた声が受話器から聞こえる。
「あら、今日はあなたの奥さんの誕生日じゃなくって?」
いやらしく返答する女性。
「ははは、何年前の話だい?」
苦笑しながら老いぼれは答えると、女性もつられて言った。
「あなたにとって4ケ月前の話は随分と昔話になるのね」
「いじめるのもそれぐらいにしてくれ。 私は君のかわいらしい声が聞きたくて電話したんだ。 皮肉は聞きたくないんだ、君ならなおさらね」
「ふふ、ありがとう。 私、もう寝るから、後はお酒でも飲んで寝たら? そうね、ホット・カクテルなんてどうかしら」
「ごういんに話をすすめるのはきみの悪い癖だ。 いまから行くから作っておくれ」
「無理よ。 明日は大事な仕事、早く寝ないといけないの」
「そんなこと言わずに、昔話をしよう。 思い出にひたるのも悪くない」
「ごめんなさい、本当に今日は無理なの。 明日にして下さる?」
「きみのつくったホット・バタード・ラム! これだ」
女性はしつこい人は嫌いだ。嫌気がさした女性は浮かない顔で時計を見た。ビジネスホテルの一室の部屋は月の明かりだけで照らされ青白くなっている。時計の針は11時30分を表していた。はあ。開けたままのカーテンに寄りそっては、左手で小窓をぐっと押し出して開けた。都会の景色ともにわずかに冷たい風も良い、唯一の欠点はちょっぴりしか開かない窓、それと……
「きいてるのかい? マダム」
このお方。
「ええ、私も明日が楽しみよ。 バイバイ、愛しのムッシュ」
受話器を叩きつけては元に戻し、大きなため息をつく。耳障りなコール音が再び鳴ると電話のコンセントを素早く抜いた。
「お前に明日なんかこねえよ! この老いぼれジジイ!!」
女性は怒鳴ってから、寸刻、はっと我に返ると満月が見える青白い部屋を出た。小窓を閉めることも忘れて。




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