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作品名:黒いチューリップ 作者:castlehill

第7回 32 - 40
   32 

 計画では決行の日は三日後だった。いくら何でも十日ぐらいは掛かるだろうと篠原麗子は見込んでいたのだが−−。
 決めた、今夜やる。
 義父は撒いたエサすべてに飛びついてきた。こいつって警戒心とかないの? と心配するほどだった。わざと騙された振りをしているんじゃないかしら、と不安を感じたことも。でも転校生の黒川くんは「大丈夫。そのまま進めて」と言ってくれた。
 男って、こんなにバカだったの? それとも、こいつだけ? だけど木更津高校を卒業してんだよ、こいつ。
 仲が悪かった子が急に態度を変えて優しくなったら、あたしなら何か変だなと感じて警戒するけど。それが普通じゃないの。
 始めは朝の挨拶からだ。そして笑顔。積極的に声を掛けた。向こうが馴れ馴れしく、自分の肩とか背中とかに触れてきても嫌がる様子は見せない。こっちも義父の背中を、ふざけて後ろから押してやったりした。喜んでる。ケラケラ笑っていた。
 母親が入浴している時を見計らって、下着姿でキッチンまで行って冷蔵庫からアイスクリームを取り出したりした。呆気に取られている義父に向かって、「きゃっ。まさか居ると思わなかった。ごめんなさい」と言って慌てて二階へ上がって行く。
 お尻の丸みを強調するように前屈みの姿勢を奴の目の前でして見せたり、ショートパンツにタンクトップという姿でリビングに降りてきたりした。黒川くんのアドバイスを忠実に守った。
 お色気作戦は効果抜群。ニヤニヤしながら、麗子の身体に熱い視線を送ってきた。もう目が釘付けと言っていいくらいだ。
 決行を決めた夜、義父が用意したホット・ミルクを手に取りながらウインクして見せた。そして小声で言葉を添えた。「パパ、どうもありがとう。上で待ってるわ」
 義父は目で母親の姿を探して、今の会話に気づいていないことを確認すると黙って頷いた。
 母親が夜の仕事に出て行くと、奴は間を置かずに部屋の中に入ってきた。麗子は寝た振り。
 布団の中に手が入ってきて早熟な十四歳の身体を触りだす。耐えた。まだ早い。どんどん義父は大胆になっていく。
 いやらしい手が麗子の太ももを伝わって、股間に届きそうになった時に行動を起こした。寝返りをうって義父の方を向く。手を伸ばしてジャージの上から男の股間に触れた。
 うわっ、すごく固い。これは、びっくり。ここまでとは思いもよらなかった。オッ立つって、このことだったんだ。なるほど。サラミを薦められたのも当然だ。こんなになってたら、普段の生活にも支障をきたすんじゃないかしら。男って大変。
 しっかり練習を積んだ。サラミを買うのに一万円ぐらいは使ったはずだ。Dマーケットの精肉コーナーで適当と思うソーセージを選んでいると、後ろから店員のオジさんに注意されてしまう。
 「お姉ちゃん、むやみやたらに商品に触っちゃ困るな」
「あ、すいません」固さを調べていたのを見られたらしい。
「どんなのを探しているんだい?」
「いえ、……そのう、しっかり固いのが欲しいんです」
「固いの? それならこれかな。すごく美味しいよ」
「いえ、別に美味しくなくてもいいんです。固くて、適当に太ければ」
「固くて太い? へえ、一体どんな料理に使うんだい?」
「あ、いえ、まだ料理は決めていなくて。それなりに歯応えがあれば嬉しいです」
「ふうむ。じゃあ、これなんかどうだい? まあまあの味だけど値段が安いよ」
「あ、もう少し長い方がいいかも」
「え? これじゃ、短すぎるってことかい?」オジさんの訝しげな顔。
「……はい」か細い返事が精一杯。ああ、言うんじゃなかった。あたしって、バカ正直だから。
「そうか、なるほど」表情が笑顔に変わった。「お姉ちゃんは味は気にしないけど、固くて太い、それに長いソーセージが大好物なんだね」店員のオジさんは全てを理解したみたいに大きく頷くと、篠原麗子の下腹部に視線を集中させた。「分かるよ。オレも、あんたぐらいの年頃はそうだったから」
「……」自分でも顔が真っ赤になっていくのが分かった。
 違います。オジさんが想像しているようなことじゃありません。これは仕返しなんです。あたしは母親に元に戻ってもらって、二人だけで幸せに暮らしたいんです。それに、あたしとオジさんを一緒にしないで。そう声を大きくして言いたかったが、中学生の自分は我慢するしかなかった。
 「だけど、そういう事ならソーセージなんかじゃ意味がないさ。オレだったらサラミにするな。ほら、これ。固さといい、太さといい、長さだって、お姉ちゃんの可愛い手にしっくりくるんじゃないかな。どう? 握ってみるかい。もうバナナとかキュウリなんかは試してみたんだろう? えっ、まだだって? へえ、驚いた。最初からソーセージを選ぶなんて、お姉ちゃんは目の付けどころが人と違うな。素人っぽくないよ。かなり研究しているみたいだ。感心する。ああいう生モノはダメなんだ。長持ちしない。使えば摩擦で熱くなるからだけどさ。それに手に馴染んできたと思ったら、腐って使いモノにならないなんてことがしょっちゅうなんだ。それで男のオレが言うのも何だけどさ、こういうのは人によってサイズ的に微妙な好みの違いってのが出るらしいんだ。どんな風に自分が使うのか想像しながら探すのが一番さ。たっぷり時間をかけて感触を確かめてみたらいい。ここでオレが、ずっと見ててあげよう。ほら」
「い、……いいです」もう帰りたい。
「触ってみなったら、お姉ちゃん」
「い、いや」オジさんたら、黒くて太いサラミを持って、その先端を麗子の身体に当たりそうなくらいに近づけてくる。
「そう言わないで。ほら」
「いや、……いやです」そんなモノで、あたしを突こうとしていた。後ずさりするしかなかった。そこへ白いエプロンをした太った男の人が、お店の奥から現れた。サラミを持ったオジさんが身を引く。助かった。でも何かイヤな予感が……。
 「おい、何してんだ」
「あ、店長」
「どうした?」
「はい。この綺麗なお姉ちゃんなんですが、実はですね……」
 恥ずかしい。これまでの経緯を一部始終話し出す。固くて太い、を何度も繰り返して強調するので身が縮む思いだ。
「どれか丁度いいのを選んでくれなんて、こんなに綺麗な女の子から頼まれて面食らっちゃいましたよ。商品を棚に並べていたら、いきなりですから。あっはは」
 えっ、そんなこと言ってない。ひ、ひどい。オジさんの嘘つき。
「わかった、そういうことか。お姉ちゃんは澄ました顔をしているけど、隅に置けないな。あははっ。あっけらかんと恥ずかしい事を口にして、オレたちを慌てさせるんだから。よっぽど、そういうことが好きらしい。だけど、こいつの言う通りだ。そのサラミだったら絶対に間違いない」
「……」ああ、困った。この店長っていう人、すごく声が大きい。それで特売でもやっているのかと、まわりに買い物客が集まってくる。麗子は身体を小さくして頷くだけだ。早く解放されたかった。
「どうしました? 万引きですか」紺色の制服姿の警備員だった。人だかりに気づいて急いでやってきたらしい。
「違う、違う。そんなんじゃない。この、お姉ちゃんが……」
 ああ、いやだ。また一部始終を話し出す。でも今度は声が大きい店長の番だった。警備員だけじゃない、まわりの人たちにも聞こえるように説明する。
「そりゃあ、お姉ちゃん、サラミしかないよ。なあ、みんな」
 警備員のオジさんも納得した。余計な事に、まわりの人たちに同意を求めたりして。
 「わかりました、サラミにします。サラミを買います」この場から早く立ち去りたくて篠原麗子は言った。
「そうさ。それが一番いい」と、警備員の人。
 すると店長が、「お姉ちゃん、楽しいことに一生懸命な姿勢が気に入った。よっしゃ。十本買ってくれたら一本サービスしよう」、と言い出す。
 え、そんなにいらない。一つでいいです。だけど周りの人たちが拍手で応えてしまう。次々と声も上がった。
「さすが店長、太っ腹」
「気前がいいんだから、この人は」
「男の中の男っていうのは、あんたのことだな」
「肉屋の店長にしておくには勿体ないよ」
「良かったねえ、お姉ちゃん」
「あんたが、うらやましい」
「やっぱり可愛い顔してると得だな。ラッキー」
 そんなに欲しくありません、と正直に言えない状況に追い込まれていく。「じゃあ、十本買います」としか返事ができなかった。
 十一本のサラミを抱えてレジへ向かう篠原麗子の後ろ姿に、店員のオジさんが声を掛けた。「お姉ちゃん、またおいで。いつでも相談に乗るから。えへへ」
 Dマーケットの精肉コーナーには、二度と近づきたくないと思った。
 こんなことで思っていた以上の出費を余儀なくされた。失敗は許されない。
 ここまでが限界。もう義父に身体を触らせたくない。そのためには麗子の方が大胆になるしかない。ジャージを下ろして固くなったモノを外に引っ張り出す。なんなの、これって。気持ち悪いけど我慢して顔を近づけた。相手も下半身を前に突き出してくる。篠原麗子は目を瞑って素早く銜えた。口の中がいっぱいになった。やっぱりサラミやソーセージとは感触が大きく違う。
 「う、……う」
 さぞかし気持ちいいのだろう。義父は呻き声をもらした。気が緩んでいることは間違いない。ちょっと愉快。だって、これから大変なことになるのも知らないで快楽に身を委ねているんだから。作戦は大成功。黒川くんのアドバイスのお陰だ。お返しに彼の『祈りの会』には出てあげよう。篠原麗子は満身の力を込めて一気に顎を閉じた。
 ギャーッ、ギャー、ギャー。
 ハゲた中年男の断末魔の叫び声が夜の静けさを破った。最初に反応したのが隣の家で飼われていたイヌたちだ。異様な叫び声に驚いて吼えた。一匹が吼えると二匹目が続き、すぐに大合唱になった。それが他の家で飼われているイヌへと伝染する。君津市中野地区で飼われているイヌすべてに広まるのに時間は掛からなかった。
 吼え続けるイヌ、怯えて逃げ回るネコ、それを止めさせようとして慌てる人間たち。各家の中が大混乱。階段から足を踏み外す者、倒れてきたタンスの下敷きになる者、多くの人が怪我をした。何人かは重傷で救急車を呼んだ。地域に住む全員が暖かい布団から叩き出された。パジャマ姿で何事かと玄関の外へ出て行く人も少なくなかった。
 「ああ寒い。何なの、これって?」
「いや、知らない」
「起こされちゃったじゃない」
「泥棒か?」
「放火じゃないかしら?」
「テロかもしれないぜ」
「だったら早く君津南中学に避難すべきだ」
 しばらくして救急車のサイレンが聞こえてきた。それに合わせてイヌたちは遠吠えに変えた。坂田地区と北子安地区のイヌたちにも届きそうだった。消防車とパトカーも市内を走り回った。すべてが落ち着くまで朝日を待たなければならなかった。

   33 

 「みんな、どうしたの?」朝のホームルーム。ほとんどの生徒が疲れた様子で、担任の加納久美子は驚いて訊いた。
「先生、知らないんですか?」最前列に座る相馬太郎が答えた。知らないのを咎めるような口調だ。
「何があったの?」
「篠原麗子の家で事件があったらしいですよ」
「え、篠原さんの家で?」今朝、彼女の母親から娘の具合が悪いので今日は休ませますと連絡があった。詳しいことは言ってくれなかった。だけど、それがどうして生徒全員に関係しているのか分からない。
「もう町中が大騒ぎで眠れませんでした」新田茂男だった。
「え、そんなに?」加納久美子は視線を相馬太郎から彼に移して応えた。
「救急車とかパトカーが、サイレンを鳴らしながら騒々しく町中を走り回るんです。家の犬が吼えまくって大変でした」
「知らなかった」
  
   34 
 
 あんな事で本当に佐久間渚の下着が手に入るのだろうか。秋山聡史は転校生の口車に乗ってバカなことをしたという後悔と、もう是が非でも欲しい気持ちで苦しんでいた。
 「なあ、いつ手に入るんだ。どうやって?」
 黒川拓磨が一人でいる時は近づいて何度も訊く。答えはいつも同じで、「もう少し待て」だった。それを顔に笑みを浮かべながら言う。
こっちは真剣なのに、だ。
 オレを手玉に取っているのか。そんなに長く待っていられるもんか。オレは早く欲しいんだ。もどかしくて、もどかしくて怒りが募ってくる。
 よし。今週中に何も進展がなければ、あいつの家に火を放ってやろう。秋山聡史は決めた。放火の計画を練ることで気が紛れるはずだ。まず1﹒5リットルのペット・ボトルに、たっぷり灯油を入れた。次に奴の家を見つけないといけない。しかしだ、あいつがどこに住んでいるのか誰も知らなかった。みんなと仲良さそうにしているが、そんなには親しくないらしい。転校生だから学年の始めに配られる生徒名簿にも乗っていない。これは問題だった。下校のときに、隠れて後をつけるしかないか。でも見つかったらマズいことになりそうだ。
 放火を決める最終期限だった金曜日の朝だった。奴の方からやってきた。すまない、あれは冗談だった、と謝罪するのかと思った。
 でも許す気は全くない。どんなに謝られても許してやらない。金を請求する。損害賠償だ。下着が欲しいなんて、あんなに恥ずかしいことを紙に書かされたんだ、タダじゃ済まない。こっちは本当に手に入るんだと、その気になっていた。
 いくら請求しよう? 三万か? いや、少な過ぎる。五万だ。それだけあれば怒りは収めてもいい。だけど、しばらくしたら奴の家には放火する。もう計画しちまったんだ、何かを燃やさないと欲求不満になりそうだった。
 「秋山くん」
「なんだよ」声は喧嘩腰だ。
「一時間目が終わったら、例の下駄箱の中を見てくれ」
「……」そう言われた時の心の準備をしていなかった。マ、……マジかよ? 何も言えない。ただ奴のニヤッとする顔を見つめるだけだった。ま、待ってくれ。でも言葉になって口から出てこない。
 授業は、いつものことだが上の空だ。休み時間のベルが鳴ったら急いで教室を出て、下駄箱の中を調べに行きたかった。何度も佐久間渚の方を見た。彼女の様子は、いつもと変わらない。洗濯していない自分の下着を、空いている下駄箱に入れたなんて感じは全くしなかった。やっぱり騙されたのか。もしそうなら黒川拓磨の奴には目に物見せてやる。家に放火するだけじゃない、お前に灯油を掛けて燃やしてやるぜ。
 一時間目の授業が終わったとき、秋山聡史は冷静さを取り戻していた。ゆっくり席を立って行動を行動を起こす。早足になることもなく一階まで降りて、落ち着き払って関口貴久が使っていた下駄箱を開けた。
 げえっ。
 ルピタのビニール袋が入っていた。取り出して中を覗くと、チューリップ柄の模様が付いた小さな布が見えた。佐久間渚の下着に違いなかった。急いで学生服の下に隠す。トイレに行って、ゆっくり確認したい。下駄箱の中に一枚の紙があるのに気づく。それも手にした。たぶん頼み事が書いてあるんだろうと思った。
 気が変わった。ルピタの袋に入った佐久間渚の下着を胸に抱えたまま一日を過ごす。感激に浸って、授業中に何度も涙を流しそうになった。洗濯していない下着をくれた佐久間渚と黒川拓磨に感謝。学校ではルピタの袋から取り出して確認するのは止めた。有り得ない事かもしれないが、誰かに見つかって横取りされたら大変だ。家に帰ってから、じっくり汚れ具合を確認しよう。お楽しみだ。
 黒川拓磨には頷いて、受け取ったことを伝えた。言葉は交わさない。佐久間渚の様子は、ずっと目で追った。もうオレの女だ、そんな感じがした。しかし彼女は何か元気がない。具合でも悪いのか、と心配になった。 
 家に帰って落ち着いたところで秋山聡史の感激は頂点に達した。  
 「おい、マジかよ」思わず声が出た。期待した通りの汚れ具合だった。咄嗟にパンティを顔を押し付けて佐久間渚の香りを嗅ぐ。なんて幸せ。もう死んでもいいぜ。舌を出して触れてみた。これが佐久間渚の味か。うん、悪くない。好きだ。オレ好みの味だ。
 母親がルピタのパートから帰ってくるまで秋山聡史は、ずっとチューリップ柄の下着を手にして過ごす。着てみて自分の姿を鏡に映したかったが、それは明日のお楽しみにした。時間がなかった。
 ありがとう、佐久間渚。心の中で感謝の言葉を口にした。
 これだけの汚れた下着を渡すんだから、恥ずかしかったに違いない。相当な勇気がいったはずだ。言い換えればオレに対する信頼の厚さだろうか。佐野隼人と上手く行っていないことは、あの朝の二人のやり取りを見れば一目瞭然だ。彼女の心の中でオレの株が急上昇しているのは間違いなかった。これからは頻繁に声を掛けて秋山聡史の存在を強くアピールしてやろうじゃないか。
 あれ、この紙は? あ、そうだ。
 無造作にポケットから取り出して、机の上に置いたままだった一枚の紙に気づく。頼み事だ。すっかり忘れていた。手にして書いてある文を読んだ。
 『土屋恵子が学校からいなくなってほしい』 
 あはっ。思わず笑ってしまう。簡単過ぎるぜ。そんなこと関口貴久の時と同じやり方でやりゃあいいのさ。
 丁度よかった。すべてが用意してあった。放火する場所を黒川拓磨の家から土屋恵子の家に変更するだけだ。よし。盛大に燃やしてやろうじゃないか。チューリップ柄の下着を手に入れて、どんなに
オレが喜んでいるか佐久間渚に分かってもらうチャンスだ。 
 急いでやってやるぜ。それでオレの熱い気持ちが伝わるってもんだ。秋山聡史は、やる気まんまんになった。

   35  
  
 あれっ。
アイスクリームを食べ始めて、少女はフレーバーを間違えて買ってしまったかと思った。いつものストロベリー味じゃなかった。バニラみたい。手にしたカップのラベルを見る。えっ、びっくり。ストロベリーと、しっかり書かれているのだ。どうして? 
それが始まりだった。
いつか治るだろうと軽く考えていたが味覚は元に戻らない。そして黒板の文字が見づらくなっていることに気づく。夜中の二時までベッドの中で、ベスト・オブ・フィル・コリンズのCDを聞いていたからだろうか。そう思って、その夜は早く寝た。少し良くなった感じがした。メガネは掛けたくなかった。自分に似合わないのが分かっていたからだ。父親の目薬を使うことを心掛けた。
 学校の帰り道、手塚奈々に追いつかれて後ろから肩を叩かれた。「ずっと呼んでいたのに気づかなかった?」
「え、本当? 分からなかった」そう何気なく笑顔で答えたけど、心に引っ掛かるモノがあった。近ごろ聞こえづらくなっているような気がしていた。「え、いま何て言ったの?」と聞き返す場面が少なくなかった。
 味覚の変調に続いて、視力と聴力の低下。これは何か変だ。学校を休んで医者へ行くべきじゃないか。そう決心した翌朝、少女は身体の違和感で目が覚めた。パジャマのボタンを外してみると、左の脇腹一面に多数の小さな黒い発疹ができていた。
 ぎゃっ、気持ち悪い。自分の身体じゃなかった。南米のアマゾン奥地なんかに生息するトカゲの背中と同じ。その部分は足の踵みたいに皮膚が硬くなっていて、皮がボロボロと剥ける。どうして? 
 こんな姿を誰かに見せるなんてできない。この黒いブツブツを自分で治してからじゃないと病院へは行けない。
 誰からも可愛いと幼少の頃からずっと言われ続けてきた。そのプライドが、醜い身体を他人に見せることを許さない。
 少女には考えがあった。母親が庭で栽培しているアロエだ。これで湿布をしよう。何年か前の夏に酷い日焼けをして、アロエで治した経験があった。きっと、これが効く。その日の晩から始めた。
 視力と聴力、味覚を取り戻すためにミキサーでアロエ・ジュースを作った。身体の内部からも病気を退治するのだ。
 効果があったのか一時的に回復に向う。だが、しばらくすると黒いブツブツが脇腹から乳房の方へと範囲を広げ始めた。これは拙かった。オッパイは女性としての象徴だ。なんとしても守りたい。湿布の回数を増やして対抗した。そのうち、モノを噛むと歯茎から出血するようになる。
 「お姉ちゃん、口から血が出てるよ」
 妹と二人でリンゴを食べていて知らされた。「やだ、唇を噛んじゃったみたい。お願いだから、パパとママには言わないで」と、誤魔化した。
 ときどき目眩もして、疲れやすくなった。病魔との闘いは続く。強い精神力が少女を支えた。
 夕飯の前には必ずシャワーを浴びる。シャンプーをしていて違和感を覚えた。手に何かが絡んでいる。目を開けてみると両手に黒い髪が大量に撒きついていた。肩まで伸ばした自慢のストレート・へアだった。「あ、ううっ」
 少女は嗚咽を漏らすと、濡れたタイルの上に泣き崩れた。病魔との闘いが終わった瞬間だ。もう敗北を認めるしかなかった。

   36

 サッカー部の練習が終わって鮎川信也は帰宅の途中だった。市役所前の道路を大和田へ向かって自転車を漕いでいた。
 いつも部室を出る時は、「じゃあな」とか「また明日」とか鶴岡の奴とは必ず言葉を交わすのだが、この日はそれがなかった。あの野郎、トイレにでも行ったか。
 同じサッカー部員だが、二人の仲は特別なものがあった。左のミッド・フィルダーという一つのポジションを争うライバルでありながら、ゲーム・メーカーとしての重要な場所を二人で強固なものにしているという自負があった。あのバカで目立ちたがり屋のストライカー、板垣順平を上手く操れるのはオレたち以外にいるもんか、と断言できた。お互いにアドバイスし合い、それを次の試合に生かす。いい関係を保っていた。
 帰ったら、そろそろ期末試験の勉強を始めるべきだな。
 鮎川信也は今夜の予定を考えた。袖ヶ浦高校への進学を目標にしていて、今の成績では少し難しいと分かっていた。
 君津駅へ通じる交差点を通り過ぎて数メートル進んだところで、前方に小学生の女の子が運転する自転車が見えた。かなり遅い。追い越そうとしてスピードを上げた。
 
 本人は気づいていなかったが、鮎川信也の後方では六十歳の大工が運転するスズキの軽トラックが走っていた。
 大工は知り合いの漁師から譲り受けたダイハツの軽トラックが錆ついて使えなくなり、数週間前に板垣モータースでスズキの同じタイプに買い換えたばかりだった。中古だったからなのか、すぐに電気系統のトラブルがあった。クレームで部品を交換したが、雨の日にエンジンが掛かり難いのは変わらない。この一件で大切に乗ろうという気持ちは消えて、また今度も粗悪品を掴まされたかもしれないと考えていた。
 長く使っていた家のボイラーも壊れそうだった。ブラウン管のテレビは日に何度も勝手に電源が落ちた。こいつも寿命らしい。『水戸黄門』では、お銀の入浴シーンを安心して見ていられなかった。次々に悪いことが起きる。最も頭を悩ましているのはサラ金からの三十万円の借金だ。借りて直ぐに返すつもりだったのが、大きな取引先だった工務店の社長が夜逃げをして入金の予定がなくなってしまったのだ。
 どうすりゃいいんだ。家賃とか光熱費の引き落としがあるから京葉銀行の預金は下ろせなかった。思いつく唯一の解決策は、何も考えずに好きな酒を飲んでぐっすり眠ることだ。
 人生の師としてクレージー・キャッツの植木等を仰ぐ。代表曲の『無責任数え唄 だまって俺についてこい』は自分の為に歌ってくれているとしか思えなかった。『銭のない奴は俺んとこへ来い。俺もないけど心配するな。そのうち何とかなるだろう』を座右の銘にしている。『分かっちゃいるけど止められない』も好きな言葉だった。明日になれば、きっと何とかなっているもんさ。それで六十歳まで生きてきた。
 景気のいい時は、常連として通っていたフィリピン・パブのホステスとねんごろになったこともあった。名前はマリアだ。酔っ払って誰かと大喧嘩して留置所で朝を迎えた風吹ジュンといった印象の女だった。プロポーションが抜群なのは言うまでもない。だけど金の切れ目が縁の切れ目で、仕事の量が少なくなると、白いBMWの新車を乗り回す若い男に口説かれて、あっさりと大工の元を去って行く。今どこでどうしているんだろうか、と夜に一人でいると恋しく思う。
 前を走る中学生の自転車が、その更に前の自転車を追い越そうとしているのが見えた。間隔は十分にあった。このまま走り続けて大丈夫という認識だった。

 鮎川信也が女の子の自転車を通り過ぎようと右に出たところで、道路にはコンクリートの劣化による窪みができていた。その時だった、前輪のタイヤは空気が抜けていることに気づく。えっ、パンクか? ハンドルのコントロールが利かない。タイヤに緩衝機能がなくて窪みの段差の衝撃をまともに食らう。バランスを失った。転倒する。やばいっ。目の前が真っ暗になった。 
 
 突然、走っていた前の自転車が倒れた。高齢の大工は咄嗟に急ブレーキの動作に入った。運転歴は長い。条件反射だ。しかし六十歳という年齢に加えて運動不足、それに長年の喫煙と深酒の習慣が反射神経を衰えさせていた。大工の脳はアクセル・ペダルに乗せた右足を、左側のブレーキ・ペダルに移して、強く踏み込むように指示を出した。しかし筋力が弱った右足は二つの行程を一度に命令されても処理できない。行動に移せたのは足を乗せているペダルを、そのまま思いっきり強く踏み込むことだった。
 大工は意思に反して、軽トラックが急にスピードを上げたので、慌てた。どっ、どうした? パニックに陥った。このままでは転倒した中学生を轢いてしまう。思いっきりハンドルを右に切った。なんとか避けられたと思ったが、左のタイヤが何かを乗り上げた振動が運転席に伝わる。

 男子中学生の左足の踵がタイヤに潰された。叫び声は出ない。恐怖が痛みを感じさせなくしていた。真横を軽トラックが猛スピードで走り過ぎて反対車線に飛び出す。大音響。目の前で対向車と正面衝突した。

 スズキの軽トラックは、2トン近い英国製のジープタイプの大きな乗用車に完璧なまでに破壊された。六十歳の大工にしてみれば、また一つ面倒なことが増えたと思ったが、反対に、それまで積み重なっていた多くの問題がすべて解決されてしまう。もう何も心配しなくて良くなったのだ。
 ボイラーを使う必要がない。もうテレビで、お銀の入浴シーンを見てニヤニヤすることもない。三十万円の借金にしても、きっとサラ金は取り立てに来ない。
 『明日になれば、きっと何とかなるだろう』
 座右の銘にしてきた言葉の通りになった。六十歳の大工に心残りがあるとすれば、財布にあった四千円で浴びるほど安い酒を飲んでから、正面衝突したかったというものぐらいだろう。
 座席とダッシュ・ボードの間に挟まれた状態だった。身動き出来ない。フロント・ガラスを通して、青い空と白い雲が見えた。やっぱり植木等は正しい、そう思うと大工は静かに目を閉じた。

   37

 波多野孝行は上機嫌だった。
 今日も篠原麗子に挨拶すると笑顔で応えてくれた。いい感じだ。黒川拓磨がくれた紙に願い事を書いた効果が出ているに違いなかった。アプローチも次第に積極的になっていく。初めは挨拶だけだったが、最近は勉強の話もするようになった。確実に恋人同士の関係に近づいている。彼女も同じように会話を楽しんでいる様子が伺えた。もし直に告白したら、すぐにガールフレンドになってくれそうな雰囲気だった。
 さて、もしそうするなら何て言えばいいのか? 『きみのことが好きだ。ぼくと付き合ってほしい』、だろうか?
 うえーっ、恥ずかしい。書くのと言うのじゃ、えらい違いだ。こりゃ、練習が必要だな。自宅で父親がいない時にするしかなさそうだ。
 エドウインのジーンズを穿いて、ライトオンで購入したウエスタン・シャツを着て洗面所の鏡の前に立つ。いい格好で、しっかりポーズを決めて、台詞を口にしないとダメだと思ったからだ。
 「きみ−−、ぎゃはっ。あっ、はは」言おうとした途端、可笑しくて吹き出してしまう。こりゃ、笑える。
 恥ずかしくて、あまりにも滑稽で腹を抱えて笑ってしまう。こんな事じゃダメだ、と分かっていても抑えられない。もう洗面所の前に立っただけでゲラゲラ笑えた。情けないが、こんな子供みたいな中学生が大人びた篠原麗子に告白するなんて喜劇でしかないと思えた。このままだと死ぬまで女の子に好きだ、なんて言えそうにないと不安になった。
 どうすれば笑わずに、かっこよく告白できるんだろうか? そうだ、洋画を見よう。ラブシーンで学ぼうと考えた。レンタル・ビデオ屋に行って『ジュマンジ』、『ロッキー』、『ターミネーター』、『スターウォーズ』を立て続け借りた。映画は面白かったが、学ぶべきものは何もない。参考になりそうなラブシーンが、ほとんどなかったからだ。
 そんなある日、登校して下駄箱を開けると、中に白い紙を見つけた。手に取ると書いてある文章が目に飛び込んできた。
 『きみも同じ気持ちだったと知らされて嬉しい。もちろん返事はOKだ』
 篠原麗子からの返事だと思った。うわっ、やった。だけど……、だけど何か変だ。文章が女の子らしくない。左下に書かれた新田茂男という名前を見て、波多野孝行の身体に衝撃が走った。じょ、冗談じゃないぜっ。
 二年B組の教室へ急ぐ。「どうした、波多野?」階段を上がっていく途中で声を掛けられた。ちぇっ。新田茂男だった。会えて嬉しいとでも言いたそうな感じだ。ふざけんなっ。無視した。あいつとは二度と口を利きたくない。
 教室に入って、黒川拓磨の姿を見つけると駆け寄った。
 「おい、話が違うじゃないかっ」けんか腰の口調になるのを抑えられなかった。
「え?」
「ここじゃダメだ。廊下に出よう」
 波多野孝行は黒川拓磨を連れて教室から出た。こんな恥ずかしい話は誰にも聞かれたくない。
 「一体、どうした?」
「どうした、じゃないぜ。返事がきたんだ」
「それは良かっ−−」
「良くない。返事は篠原麗子からじゃなかった」
「え。じゃ、誰から?」
「新田茂男だっ」
「マジかよ」
「そうだ。ふざけんな。オレは男と付き合う気なんかない」
「……」
「おい、何とか言えよっ。お前が紙に願い事を書けば、それが叶うって言ったんだからな」
「だけど、こういう結果を招いたってことか」
「そうだ。オレに嘘をついたんだろう?」
「いや、そんな事はない」
「じゃ、この結果は何だ?」
「篠原麗子と仲良くなりたいと真剣に願ったか?」
「あたりまえだ」
「じゃあ、ぼくと加納先生が仲良くなれるように真剣に願ってくれたか?」
「……」うっ。痛いところを突かれた。何も言えない。
「おい、どうなんだ?」
「それは、それなりに……」形勢が逆転した。
「なるほど。わかったよ」
「なにが?」
「きみが約束を守らなかったから、この結果になったんだ」
「オレの所為なのか?」
「そうだ。あの時、きみは自分の事とぼくの事も同じように真剣に願うって約束しただろう」
「……」オレより背が低いお前と、あのスタイルがいい加納先生が恋人同士なんて想像できるか。無理があるぜ。
「仕方ないな。新田茂男と付き合うしかない」
「ま、待ってくれ。そんなこと……」
「警告しただろう。真剣に願わないと期待していたのとは違う結果になるかもしれないって」
「……」
「せいぜい新田茂男と仲良くするんだな」
「ま、待ってくれ」黒川拓磨が背中を見せて教室へ戻ろうとするのを引き止めた。
「なんだよ」
「どうすりゃいい? オレは新田茂男と付き合えない。男なんかとデートするなんて、どうしてもイヤだ」
「……」
「頼む。助けてくれ」
「……」
「何か方法はないのか? もう新田茂男の顔も見たくないんだ」
「そこまで言うなら、ない事もないけどな……」
「え?」
「だけど今度は約束を守らないと、もっと大変なことになるぞ」
「わかった、大丈夫だ。必ず守るから」
「よし、それなら」
「教えてくれ」
「三月の十三日の『祈りの会』には出てくれるよな?」
「もちろんだ」
「それに出来るだけの多くのクラスメイトを誘ってくれ」
「え? オレが」
「そうだ。どれだけ多くのクラスメイトを集めてくれたかで、きみの期待していなかった願い事の結果が解かれるのさ」
「……」
「どうだ。きみにやれるかな?」
「何人ぐらい集めればいいんだ?」
「できるだけ多く」
「二、三人でもいいのか?」
「それなら、それなりの効果しかないだろうな」
「じゃあ、十人だったら?」
「いい数字だ。災いは消えてなくなるかもしれない」
「わかった。それをしないと、オレは新田茂男と付き合わなきゃならないんだよな?」
「そうだ」
「やるよ」絶対に十人以上を集めてやろうという気持ちになった。
「よし。期待してるぜ」
 新興宗教の勧誘みたいな事をさせられるのか。黒川拓磨が立ち去った廊下の隅で波多野孝行は考えた。
 魔法の紙に願い事を書いたが何の利益にもならなかった。以前よりも篠原麗子と仲良くなれたのは、その効果じゃなかったらしい。
新田茂男に言い寄られて、願い事を書いただけ損した感じだ。その為に多くのクラスメイトに声を掛けて、『祈りの会』に誘わなきゃならない。なんでオレがそんなことを……。あいつに利用されたんだろうか? 波多野孝行は騙された思いだった。
 いつも夕飯の前に風呂に入った。洗面所の鏡に映った自分の姿を見ても、もう可笑しくない。笑いたくても笑えない、そんな気持ちだった。

   38

 うふっ。
 息子の孝行が行った校外学習の写真を見ながら、君津警察署の生活安全課に勤務する波多野正樹は思わず笑ってしまった。手渡された時に言われた言葉を思い出したからだ。
 「加納先生は小さくしか写っていないよ」 
 父親が美人な女教師の姿を見たがっていると思ったらしい。見当違いもはなはだしい。そういうことで校外学習の写真を見せてくれと頼んだわけではなかった。去年の暮れに中野地区で起きた放火事件の捜査だ。
 担当していた刑事が体調を悪くして長期休養を余儀なくされた。
今年になって放火事件は波多野のところへ回ってきた。
 まとめられた資料に一通り目を通した。鑑識から提出された現場の写真が三十枚近くもあった。ほとんどが火事を見に集まった野次馬たちを写したものだ。この中に高い確率で犯人がいる。これまでの放火事件の記録が証明していた。
きっと犯人は眺めのいい場所に立っている。後ろの方から火事を見物しているとは思えなかった。はっきりと顔が写真に写っている野次馬の一人ひとりを確認していく。どれもこれも普通の人で、写真で見る限りは何の特徴もない。でも波多野は不可能に近いが、それらの顔を記憶しようと努力していた。
 イギリスのスコットランド・ヤードでは、人の顔を覚えるのに優れた人物がいて、犯罪捜査に協力していると聞く。
 放火犯は必ず、また事件を起こす。性犯罪者と同じで常習性があるのだ。二度、三度と犯行を繰り返すことで、多くの手掛かりを残す。自ら自分を逮捕へと追い詰めていくのだ。
 次の現場で撮られた写真に同じ人物が写っていたら、それは有力な容疑者だ。捜査は一気に進展する。
 時間があれば写真を机の上に並べた。少しでも多くの顔を覚えたい。また、何か不自然なところがないか捜した。そしてある日、波多野は一人の少年に目を止めた。何人かの子供は写っていた。しかし、この中学生ぐらいの少年に刑事としての嗅覚が働く。
 その表情と佇まいが波多野の注意を引いた。どうして? と、もし誰かに訊かれても理由は答えられない。ただ、何となく。と、しか言えなかった。
 放火された家の長男は、波多野の息子と同じ教室で学ぶクラスメイトだった。その事実が頭の片隅にあって、ずっと消えなかった。
 もしかしたら……。
 波多野は行動を起こした。息子に校外学習で撮った写真を見せてくれるように頼んだ。
 長年培ってきた刑事の勘だった。しかし今回は、それが間違いであってほしいという気持ちで二年B組の生徒たちの顔を調べた。
 う、……いた。
 この子だ。前列に並んだ小柄な生徒の一人を波多野刑事は見つけた。放火現場で撮られた写真に写っていた少年と同一人物。予感が当たった。しかし嬉しくもない。息子のクラスメイトが容疑者として浮かんだのだ。どうやって捜査を進めよう。相手が未成年者なので慎重に行動しなくてはならない。まず、この生徒の名前と住所が知りたかった。もし住んでいる家が放火現場から遠かった場合、この少年の容疑は強くなる。近所でもないのに、どうして現場にいたのか、という疑問が生じるからだ。
 息子に校外学習の写真を見せて、この子は誰かと訊くか。……いやだ、それはしたくない。手っ取り早いかもしれないが、自分の息子を犯罪捜査に巻き込むことになる。もし、その生徒が犯人だったら、孝行は友達を警察に売ったと思うだろう。それはマズい。何か別の方法−−。
 目の前に置かれた電話が鳴った。
 「はい。生活安全課」波多野は手を伸ばして受話器を取った。
「波多野か?」副署長のダミ声が耳に響く。一階にある司令室からだと分かった。
「はい」
「緊急通報が入った。君津南中学で何かあったらしい」
「えっ」今、その中学のことを調べていたところだ。
「事故か事件なのか、まだ詳しいことは分からない。怪我人がいるらしい。たぶん生徒だろう。そっちで誰か出られるか?」
「自分が行けます。ほかに誰か見つけて現場へ急行します」
「わかった。頼んだ」
 波多野正樹は重い気分になった。これが放火事件と何か関係があるんだろうか? という疑問が頭に浮かんだ。いや、それはないと思う。ただの偶然だ。そう理性で否定しようするが、刑事の勘とは違う霊感みたいな勘が頻りに反対のことを強く訴えていた。
 怪我をしたのは二年B組の生徒かもしれない。もしそうなら、これは始まりだ。もっと大変なことが、これから起きるに違いない。お前に、それを止められるか? 

   39

部落差別を残そう、と訴えているとしか受け取れない、今どき『部落差別をなくそう』と書かれた君津市役所の大きな看板の前の交差点を左折して、陸橋を通り越すと、そこは五十嵐香月の家がある畑沢地区になる。
 二年B組の担任を務める加納久美子は、放課後に彼女の母親から呼び出された。家庭訪問ではないし、普通であれば生徒の家までは行かない。行く必要がない。しかし、この場合は特別だった。
 五十嵐香月の母親は切実に訴えた。「加納先生、お願いです。こちらに来て一緒に娘を説得してください」
「お母さん、落ち着いて下さい。どんな用件なのか詳しく言って下さらないと、こちらとしては学校の仕事もありますし、勝手には動けません」
「先生、お願いです。主人は単身赴任しています。わたし一人だけなんです」
「わかりました。では、どんな用件なのか教えて下さいませんか」
「……」
「お母さん?」
「電話では言えません」
「では、お二人で学校へ来られませんか?」
「できません。こんなこと、とても……」
「申し訳ないですが、こちらは用件が分からないと動けません」
「……」
「お母さん?」事情を詳しく聞こうとすると母親は黙り込む。
「加納先生」
「はい」
「先生、娘が……。香月は−−」最後の言葉を口にすると母親は泣き崩れた。
「……」加納久美子は驚いて、すぐに返事ができなかった。しかし大きな問題であることは理解できた。「今、すぐ行きます」そう言って電話を切った。
 家庭に問題が起きていて今から五十嵐香月の家まで行きたい、と教頭先生と西山主任に言って許可をもらう。どういう用件で、と説明を求められたが、よく分からないと答えた。当然、行く必要があるのかと二人は訊いてきたが、とにかく行かせて下さいと押し切った。それしか方法がない。秘密厳守が第一だった。
 安藤紫先生にも一言、声を掛けた。「もし何かあったら連絡して」
「わかった。ミスター・ムーンライトね」
「え? ……あ、そう。うふっ」
 言われて思い出す。先日、携帯電話の着信音をジョン・レノンの歌声に変えたのだ。嬉しくて、真っ先に報告したのが安藤先生だった。その場で彼女に電話を掛けてもらって、ちゃんと鳴るか二人で確認したのだ。すごく気に入っていた。ジョン・レノンの曲は全てが好き。『MOTHER』は聴くと涙を堪えられない。
 『ミスター・ムーンライト』は冒頭で、いきなりジョン・レノンが叫ぶところがカッコいい。そこを携帯の着信音にしたのだ。電話が掛かってきたらジョン・レノンが教えてくれる。なんて楽しい。
 フォルクス・ワーゲン ポロのイグニッションを回すと同時にステレオがオンになって、スピーカーからレッド・ツェッペリンの『カシミール』が流れ出した。好きな曲だけど今の状況に合わない。イジェクト・ボタンを押してカセットを取り出した。音楽を聴く気分じゃなかった。
 ああ、荷が重い。自分が行って何かしらの助けになるのか分からなかった。ただ母親は担任教師の加納久美子を必要としている。女生徒の家に足を運ぶしかない。
 県道から横道に入ると、そこは同じようなモダンな家々が並んでいた。ニュータウンといった感じだ。車の速度を落として番地を確かめながら進む。
 先日、板垣順平の母親から聞かされた、息子の異常な行動が頭から離れなかった。その後は、どうなっているのだろう。その件に関して母親から二度目の連絡はない。ただ学校での彼の様子に何の変化はなかった。普段どおりだ。機会を見つけて生徒に声を掛けようと考えていた。
 篠原麗子の家では、義父が何かしらのトラブルで大怪我を負ったらしい。その日から彼女は学校を休んでいた。精神的にショックを受けているらしい。
 そして今日、五十嵐香月の問題が持ち上がった。あの子の将来が掛かっていた。しかし、その問題に対して加納久美子は無力感しか覚えない。自分の手に余ると思った。
 勉強を教えることだけじゃない。次々と生活に関係する難しい問題の相談を受けた。ところが、こっちは大学を卒業して社会人になってから何年も経っていない未熟者だ。先生と呼ばれて頼られても困ってしまう。
 教師になって良かったのか、ずっと頭を悩ましていた。英語を教えているのか、それとも英語嫌いを育てていのか分からない毎日だった。原因は試験の為にする勉強だからだ。生徒は学ぶ楽しさなんて味わえない。高い点数を取った時の喜びだけだ。それは勉強じゃない。学習してもテストが終われば忘れてしまう知識だ。
 授業中に最も多く生徒から質問されるのが、「先生、それ試験に出ますか?」だった。教師にとって、やる気を本当に失わせる言葉だった。
 きみたち、こんなの勉強じゃない。こんな勉強は意味がないの。試験の点数なんか忘れて学習するのが、本当の意味での勉強なんだから。
 そう声を大きくして生徒たちに訴えたかった。もし実行に移したら父兄の反応は目に見えている。加納久美子は教師として失格、その烙印を押されるのだ。
 英語の受動態を教える時は、特に疑問を持った。多くの生徒が日本語の文章を受身に出来ないのに、英語の受動態を教えて理解できるはずがないだろう。
 英語を義務教育で教えるべきじゃないと思う。文部省は英語教育から手を引くべきだ。せめて受験科目から外してほしい。中学の三年間を掛けて勉強していながら、ほとんどの生徒が英会話が出来ないまま卒業していく。それって語学の学習なの? 
 学校で教えるのを止めれば、きっと英語嫌いはいなくなる。みんなが危機感を覚えて、英語の学習に一生懸命になるはずだ。
 ある母親は強く加納久美子に訴えた。「先生、しっかり基礎を教えてやって下さい。お願いします」
 なんと返事していいのか分からない。困惑した。ただ頷いて、その場を無言で乗り切るしかなかった。後で考えてみると答えは、「すべてが基礎です」だった。あの場面で、それを口にしたら相手が理解してくれるかどうかは疑問だ。
 父兄から最も多く問われる質問は、「先生、息子が勉強しなくて困っています。どうすればいいですか?」だった。
 答えは簡単で明瞭だ。いつも加納久美子の頭の中にあった。ただし口に出しては決して言わないだけだ。
 「お子さんを勉強好きにしたいのであれば、まず御両親が勉強を好きにならなくてはいけません」
 大学の在学中に学習塾の講師としてアルバイトをしていた。何人かの母親に自分の意見を率直に言ったことがある。彼らの反応は、すぐにその顔に現れた。
 ︵なんて生意気な女だろう。先生だからって威張っているんだ︶
 それ以来、加納久美子は父兄に対して言葉を選んで口にすることにしている。
 文部省と教育委員会には疑問が多くあった。決定的だったのは神戸連続児童殺傷事件での対応の仕方だ。犯人の中学生には、母親の愛情に飢えていたと決めつけた。たかがそんな理由で、あんな犯行に及ぶだろうか? あり得ない。
 事実を覆い隠して、誰もが納得して理解しやすい答えを無理やり貼り付けたのだ。こんな悲惨な事件が再び起きないようにと、全国の児童には植物を植えて育てる事と組み体操を奨励した。命の大切さ学んでもらうのと、一緒に演技をすることでお互いが支え合っていることを意識させる為らしい。
 久美子にしてみれば無駄なことだった。そんな対応をマスコミが受け入れているのが信じられなかった。つまり日本の社会は、サイコパスという障害を認めないらしい。事実に向き合わないで目を背けるのだ。
 疑問や不満は数知れない。これから先、こんな世界で自分が生きていけるのか自信を失いそうだった。
 父親が生きていてくれたらと切に思う。彼こそが全てを曝け出して相談できる唯一の人間だった。幼少の頃から母親よりも強い影響を受けた。久美子に読書の楽しさを教えてくれた。音楽のテイストは、ほとんど同じ。水泳、スキン・ダイビング、ウインド・サーフィンは父親仕込みだ。 
 きっと娘ではなくて息子が欲しかったのに違いない。しかし父親は一度も、それについて不満を口にしなかった。
 レンタル・ビデオ店で借りてきて映画も一緒に観た。黒澤明監督の『用心棒』と『椿三十郎』以外は全てが洋画だ。小学校の高学年になると、同じ映画を三回も続けて鑑賞したことが何度かあった。一回目は映像を主に見る。二回目は字幕を読むことに集中。最後は字幕を見えなくして映画を楽しむのだ。彼なりの英語の英才教育だった。
 その甲斐あって、高校になると久美子の語学力は父親を凌ぐ。理解するのに余裕が生まれて、映画鑑賞で別の楽しみを見つけた。横目で父親が映画に夢中になっている姿を見るのが楽しい。子供みたいに喜んでいるのを目にすると、久美子自身も嬉しくなった。

 番地が生徒の家に近いことを示す。スピードを落とした。加納久美子は思いを過去から直面する問題へと移す。と同時に女子生徒の母親が最後に口にした言葉を頭の中で繰り返した。
 『香月は妊娠しています』
 妊娠という言葉が久美子の胃に突き刺さる。なんてこと! 彼女はまだ十四歳の少女にすぎないのに。
 五十嵐と書かれた表札を見つけた。ここだ。人目を引く洋風の家だった。外壁はサイディングで、ツーバイフォーで建てたように見えた。屋根付きのガレージにはフォルク・スワーゲンの白いゴルフが佇む。
 「加納先生、お呼び立てして申し訳ありません。来て頂いて本当に感謝しています」
 玄関のベルを押すと、すぐに母親が迎えてくれた。顔色が悪い。憔悴しきった様子だ。リビングに通されると、五十嵐香月がソファから立ち上がって会釈した。言葉はない。不機嫌そうだ。
 カーテンと家具がグリーンとブラウンを色調にして上手にコーディネートしてあった。女性らしい優しい演出。娘のセンスがいいのも頷ける。こういう家で育てば当たり前だろう。大型テレビの横には、BOSE製の黒い小型スピーカー 101イタリアーノを見つけた。単身赴任している父親の影響は、ステレオと駐車場にある白いフォルクス・ワーゲンだけらしい。
 三人が腰を下ろすと、さっそく母親が口を開いた。「香月、よく聞いて。子供を産んで育てるなんて、思っているほど簡単なことじゃないの。あなたには将来があるのよ。一度の間違いは取り返しがつくわ。お願いだから、お腹の子は堕ろして」
「いやよ、ママ。香月、絶対に産みたい」
「……」重い空気が五十嵐家のリビングを包む。
「さっきから、こんな調子なんです。先生からも言ってくれませんか」
 母親に促されて久美子は女生徒に話しかけた。「五十嵐さん、お母さんの言う通りよ。あなたの歳で子供を育てるなんて、とても大変なことよ」言葉に説得力がなかった。宿った小さな生命を堕ろせなんて、他人の自分が言うべきでないと考えているからだ。
「わかっています。でも産みたいんです」
「……」十四歳の少女とは思えない強い意志にたじろぐ。初めて見る五十嵐香月の姿だった。
「父親は誰なの?」母親が訊いた。
「……」
「お腹の子の父親は誰なのか、お母さんが訊いているの」口調を強めた。
「誰だっていいでしょう」
「そんな事ありません。責任を取ってもらわないと」
「あたしが一人で産んで、一人で育てたいの」
「馬鹿なこと言わないで。そんな事できやしない、中学生のお前なんかに」
「大丈夫、なんとかなると思う」
「無理です」
「……」久美子は口を出せない。二人のやり取りを見守るしかなかった。
「先生」
「はい」
「黒川っていう子は転校生ですか?」
「……」突然だった。驚いて言葉を返せない。一体、どうして?
ここでも彼の名前が出てきた。
「先生」
「は、はい。そうですけど……」まさか。
「その彼と、うちの香月が付き合っていたということはありませんか?」
「わかりません」きっぱりと答えた。そこまで生徒の行動を把握できない。
「一度ですけど、香月が電話で黒川という子と話しをしているのを聞いたんです」
「……」
「香月、その子の父親は黒川っていう転校生なんでしょう?」
「……」女子生徒は母親と目を合わさなかった。
「やっぱりそう?」
「違うわ」
「じゃ、誰なの? 相手にも責任があるんだから、こういう事は」
「言わない」
「五十嵐さん、あなた一人で解決できる問題じゃないのよ」久美子も口を添えた。あまりにも頑な女子生徒の態度に呆れてしまう。
「いい加減にしなさい、香月。加納先生だって−−」
 『ミスター・ムーンライト』
 加納久美子の携帯電話が鳴った。何事かと、驚いて母親が途中で口を閉じた。
 「あっ、すいません」謝るしかない。急いでポケットから取り出して応答した。ジョン・レノンの着信音は早急に変えないといけない。そう痛感した。やはり安藤先生からだった。学校で何かあったのか? 「もしもし」
 「加納先生、まだ五十嵐さんの家に居るの?」口調が早い。
「え、……そ、そう」何かあったらしい。
「すぐに学校へ帰ってきて」
「どうしたの?」携帯を握る手に力が入る。
「佐野隼人くんが教室の窓から転落したみたい。意識がないの。救急車は呼んだわ」
「えっ、まさか」つまり校舎の三階からっていうこと? 
「お願い、早く戻ってきて」
「わかった。すぐに帰るから」加納久美子は携帯電話を閉じた。二人が訝しげに自分を見ている。「すいません。学校で何かあったらしくて、すぐに戻らなければいけません」
「……」母親は無言だった。どうして、こんな大切な時に? うちの問題よりも優先すべき問題なんて、この世に有り得ません。彼女の厳しい表情から、そう読めた。
「すいません、失礼します」久美子はソファから立ち上がった。
「先生、また来て頂けますか?」
「もちろんです」力になれるとは思わないが、そう答えるしかなかった。
 「加納先生」
 リビングから出て行こうとしたところだった。後ろから五十嵐香月に声を掛けられた。口調が今までと違う。久美子は足を止めて振り返る。「え、なに?」もしかしたら考え直してくれたのかしら。
 女生徒もソファから立ち上がっていた。改めて、その華奢な身体に新しい生命が宿っていることに驚きを覚える。十四歳の少女は自分の腹部に,優しく手をやって言った。
 「双子なんです。うふっ」
 途方に暮れてしまう。五十嵐香月の顔には喜びが溢れていた。まるで待ち望んでいた赤ちゃんを授かって、幸せの絶頂にいる母親のようだった。
 ああ、この子には何も言っても無駄だ。本当に産む気でいる。そう確信した。加納久美子は返す言葉がない。何も聞かなかった振りをしてリビングのドアへと向かう。佐野隼人の容態が心配だった。無事であってほしい。
フォルクス・ワーゲンのアクセルを踏んだところで、彼が職員室で黒川拓磨に対して言った言葉が不意に頭の中に蘇った。
 『あいつ、怪しいです』

   40
 
 「職員室にいたら、いきなり大きな音がしたのよ。何かしらと思っていたら、すぐに外で誰かが大変だって叫び始めたわ。驚いて校庭に出て行ったら佐野くんが倒れていたっていうわけ。もう信じられない」安藤先生が何度も首を横に振りながら説明してくれた。
 加納久美子が君津南中学に戻ってみると、すでに救急車とパトカーが到着していた。佐野隼人の姿はなかった。車の中に運ばれたらしい。運転席で隊員が連絡を取っているのが見えた。現場は騒然としていた。
「佐野くんの意識は戻ったの?」久美子は訊いた。
「いいえ」安藤先生が大きく首を振って答える。
「助かるかしら?」
「わからない」
「三階から落ちたのは確かなの?」
「たぶん」
「……」気が重くなった。「でも、どうして?」
「わからない。だけど二年B組の教室には二人でいたみたい」
「えっ、誰なの、もう一人は?」
「佐久間渚よ」
「どうして、彼女が?」
「交換日記をしていた仲だって。でも何日か前に佐野くんは教室で彼女に怒鳴ったらしいの」
「佐野くんが窓から落ちたのを、佐久間さんは見ていたのね?」
「わからない」
「どうして? 二人は一緒に教室にいたんでしょう」
「彼女も教室に倒れていたから」
「え?」
「あたしと西山先生が発見したの。彼女は少し意識があったけど、何を訊いても答えられない状態だった」
「何で?」
「だいぶ前から体調を壊していたみたい。視力も聴力も弱っているらしいの。病気を隠していたんじゃないかしら。一緒に救急車に運ばれたわ」
「……」信じられない。どうして二年B組の生徒が次々と……。そんな思いだった。
 「加納先生ですか?」
 スーツ姿の男性が近づいてきて声を掛けられた。知らない男だった。誰だろう。「はい」
「君津署の波多野です」そう言うと、手にした黒い手帳を開いて見せた。
「あ、すいません。二年B組の担任をしています、加納久美子です」まさか警察の人とは思わなかった。痩身で身のこなしが軽そう。骨格がしっかりしていて、まるでアスリートみたい。
「息子が御世話になっています」
「え?」
「波多野孝行の父です」
「まあ、波多野くんのお父さんですか。初めまして」息子とは似ていないと思った。
「こちらこそ初めまして。これから二年B組の教室を見たいのですが、一緒に来て頂けますか?」
「わかりました」
 いろいろと佐野隼人と佐久間渚について聞かれるんだろう、と覚悟した。でも何も知らない。二人が交換日記をしていたなんて今、知ったばかりだ。警察には役に立てそうもなかった。
 刑事二人と君津南中の教師四人、教頭と学年主任の西山先生、加納久美子と安藤先生が校舎の三階へと上がって行った。


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