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作品名:青春ネバーモア 作者:にゃんくるないさー

最終回 3

   (3)未練の消失

 女の子が消失したことに遅れて、ふたりのところには思わぬ来客があった。
 風紀委員会に所属している先輩。関香奈枝(せき かなえ)である。
 正義感があり、他人から頼られることをよろこびとする香奈枝には、放課後の校内で何やら疲れた様子の後輩男女は見過ごせないターゲットだったのだろう。
 もちろん、登志郎とアキのあいだには不純なかかわりなどありはしないため、かるめのお小言程度で済まされた。
 が、しかし。
 そこから登志郎は、香奈枝から絡まれることが増えた。
 ずばり言い表してしまうと、香奈枝から気に入られた。
 彼女は出し惜しみなく、仕草に内情を見せるタイプの女性だった。
 そういった機微に鈍感な登志郎にも、好意の種類がわかるほどに。
 彼女はこちらに恋愛感情をもっているようだ。
 みずからの感覚を意識上にうかばせることは、これが二度めになる。
 けれど、一度めとはだいぶ心もちが異なって、胸がざわざわとした。
 あまり、これは好ましい気分ではなかった。
(アキに相談しようかとも考えたが、あの頃、あいつは……)
 正確な表現ではないかもしれない。
 当人からすれば誤りかもしれない。
 それでも登志郎にすれば、当時のアキはいきなり、よそよそしくなっていた。
 まるで避けているように、声をかけようとすると、そこから立ち去っていく。
(俺はアキを追うのをやめた。離れるなら、理由があってのことだろうからな)
 嫌われることをした記憶はない。
 とはいえ、自分では思ってもみない理由で、避けられているかもわからない。
 だったら、どうしようもないことだろうと思った。
 追いまわし、余計に嫌悪されるなんてのはつらい。
 ――そうこうしているうちに、登志郎とアキは、談笑することがなくなった。

「あのあとも、いろんな子たちに会ったよ。みんないい子で、寂しがりだった」
「そうか。よく知らねぇけど、未練がなくなるのは得したのと同じなんだろ?」
 うん。私はそう思いたい。
 アキはこっくりとうなずき、視線をそらした。
 眉間にはひびがはいって、つらそうに見える。
「……あのね、トウシロウ。未練っていうのは、断ち切らないといけないんだ」
 深刻さをにじませた声で、苦々しげに告げる。
 まっすぐこちらへ向きなおった表情を見受け、登志郎は息をのんだ。
 アキはこれまでのいついかなる時とも、全身をつつむ気配がちがう。
「アキ……おまえ……」
 はたと、そこで自分は気がついた。
 もっとも気づきたくはないことに。
 会話をするときには、失礼のないように、相手の顔を見るもの。
 相手の足もとに、不躾に目をくばるなんてこと、ふつうしない。
 いつもだったら、自分もそのようなことは、けっしてしなかった。
 だが。わかってしまった。
 アキの気配には、この空気には、経験があるのだ。
「!!」
 まえぶれもなく、強い風が吹き抜ける。
 閉じたまぶたを再度開いたとき、相手のそばには見知らぬ人物が立っていた。
 神経信号がはたらきだし、危機察知の特技が、騒ぎだすのを感じる。
 黒いコートを着用している銀髪のコイツ。今、眼前に出現したコイツこそが、アキの言う『追手』だとなぜか理解する。
「任務を果たしに来た。今生より対象、薩摩アキを破棄する」
 無機質な声が響いて、アキの姿がコートの内部に吸いこまれる。
 登志郎には声音のひとつもでなかった。
 しかし。理屈を超えたもので、アキがそうならなくてはいけない理由。
 目の前から消えなくてはいけない理由ならば承知していた。
 もはや相手は岸≠渡ったのだ。
 登志郎は力なく地面にくずおれる。
 これが自分の青春。その最期だと悟っていた。
「滞在期間が長かったわりには、なんの抵抗も無しか」
「おまえは……おまえ、なんなんだよ!?」
「知る必要はない。それに理解もできまい」
 長く伸びた銀髪から覗く、その眼はひややかだった。
「任務達成。帰還する」
 事務的なつぶやきを残し、黒ずくめの男が、風にまかれて消失する。
 空虚な静寂と、無力な登志郎だけが、この場には残された。


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