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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 第拾部 作者:ジン 竜珠

第13回 拾の十三
 帝都文明亭を出た僕と貴織さんは、実は途中まで、帰る方向が同じだ。時刻は午後七時四十五分。
 この時間にここを通るのは、実は初めてだ。
「なんか、新鮮よね」
 と、貴織さんが、周囲を見渡す。
「え? もしかして、この時間、この辺りを歩くのって、初めてなんですか?」
「うん。帝都文明亭を、ある意味で『たまり場』にするようになったのって、実は、この最近なの。顕空で言うと、だいたい、六月頃からかな?」
 本当に最近だ。
「紫雲英ちゃんがテイボウに入ったのが、去年の……十月の中頃だったかなあ? で、その時は、彼女、麻布(あざぶ)にある小料理屋さんに、住み込みで働いてたの。それまで、みんなの集合場所は、帝都駅前だったんだけど、料理屋さんで集まった方が、お腹も膨れるし、いいんじゃないかってことになって。でも、六月頃に、その小料理屋さんの、ご主人のプロフィールが変わっていって、お店がなくなってしまって。そうしたら、紫雲英ちゃんが『帝都文明亭』で、お仕事してるっていう風に、『設定』が変わって……。あら?」
 と、貴織さんが首を傾げる。
「どうかしましたか?」
「え? ええ。そういえば、その頃だったかな?」
「その頃、って、何が?」
 ちょっと考えるそぶりをして、頷いて、貴織さんが言った。
「確か、その頃だったわ、浅草が、浅い草、から、麻の草の、麻草に変わったの。……誰か、何か言っちゃったのね……」
 なんか、ホント、言葉には気をつけないとなあ。
 で、テイボウの昔(といっても、貴織さんが把握している範囲で、だけど)の話を聞きながら、歩いていたとき。
「あら?」
 と、貴織さんが何かを見つけたらしい。
 僕もその方を見る。そこは、居酒屋だろうか、提灯があって、そこに映っている文字は。
「『みたま』、ですか。ちょっと、変わった名前ですね?」
「ねえ、救世くん。ちょっと、飲んでいこうか? 今、お店開いたばかりみたいだから、空(す)いていると思うし?」
「いいですけど?」
「じゃあ、いこ! ……君の恋愛相談にも、興味あるし?」
 と、貴織さんは意地の悪い(ように見える)笑みを浮かべる。
 僕の場合、純粋に「恋愛相談」という訳じゃないけど。そうだな、誰かに聞いてもらうのもいいかも知れない。
 そして、お店の前まで来たとき。僕は何となく言った。
「またみ」
「え? 救世くん、今、なんて?」
「いや、逆から読んだら『またみ』になるなあ、って思って。ほら、この間から『アナグラム』とか、『live』の逆が『evil』とかってあったんで、つい癖になっちゃって」
「またみ……」
 と、貴織さんが看板を見上げて呟いた。
「またみ、MA、TA、MI。……MAT、AMI……」
 突然、何かに気づいたようにお店に飛び込むと、貴織さんはお店のご主人に、つかみかからんばかりに聞いた。
「ねえ、大将!! ここに、面河っていう人、働いてない!?」
 え? なんで、面河さんの名前?
「なんですか、お客さん、出し抜けに? ……ええ、確かに、面河っていうのは、うちの料理人ですけど?」
「いるのね!?」
「ええ。でも、いつもいるわけじゃなくて、時々、フラッとやってきて、その時に、料理を作ってもらってるんです」
 貴織さんの勢いに、面食らっているのか、お店のご主人はちょっと、とまどい気味に言った。
「うちとしては、ちゃんと雇いたいんだ。気の向いたときに、プラっ、と来られるのは、かえって迷惑なんでねえ。でも、面河さんの料理、お客さんからの評判いいし、下手なこと言ってへそまげられて、来なくなると困るし。多分、どこか名のある料亭の料理人なんじゃねえかなあ?」
 貴織さんが「あのお店、ここの名前が元になってたのね」とかって、呟いてるけど、それを気にせず、僕は何となく聞いた。
「『みたま』っていう名前、珍しいですよね?」
「ええ」
 と、お店のご主人が破顔した。
「私らが提供するのは、お酒や料理だけじゃありません。心意気、『たましい』なんです。たましい、って『御魂(みたま)』っていうんです。だから、ここの『屋号』は『みたま』なんですよ!」
 なんか、こういう人のことを、職人っていうんだろうな。


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