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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 第拾部 作者:ジン 竜珠

第10回 拾の十
 人だかりが出来ていて、中年のガタイのいい男性がいた。さっきの声は、その男性のものだったらしい。
「……あれは……!」
 那川さんが息を呑む気配があった。
 なんだろうと思って、那川さんが見てる方を見ると、そこには、着物姿の一人の婦人。僕のおばあちゃんと同い年ぐらいの人だ。縦長の楕円形の大きな鏡を、抱えている。大きさは五十センチぐらいあるかな? アンティークっていうんだろうか? 遠いから細かいデザインまではわからないけど、上品なものに感じる。
 その女性がこちらを見た。そして、微笑んだとき。
 五、六メートルぐらい離れているけど、いきなり僕たちと、その女性との間に、静電気が走ったような気がした。
 なんだろうと思っていたら、那川さんが、震える手で、上着の内ポケットから、何かを出す。咒符だった。文字が、まるで放電のような光を放っている。
 それを見て、千宝寺さんが言った。
「ディザイアか」
「いや、ちょっと待ってくれ! そんなはずはないんだ! だって、……! だって、あの人は……!」
 那川さんの様子がおかしい。
 でも、ディザイアだとしたら、なにをするつもりかわからないけど……!
 その時、僕の頭上、数メートルに、金色の勾玉が現れた。そして、銀色は……。
「……どうして、僕に……?」
 震える声で那川さんが言った。
 銀色の勾玉は光の粒子を振りまきながら、那川さんの上空、数メートルのところで回転している。でも、二つとも、降りてくる気配はない。
 千宝寺さんが言った。
「とりあえず、結界を張る」
「え? でも、この状態だと、千宝寺さんも閉じ込められるんじゃ……?」
「なんとかなるさ。……塞神招請」
 千宝寺さんの言葉とともに、結界が形成される。そして。
「……あれ? 千宝寺さんの姿が……」
 千宝寺さんの姿が見えなくなった。もしかして、結界から締め出された?
 その時、僕は頭上を見た。
「そうか。勾玉と関わりがあると、結界に残るんだ」
 今、僕の近くには、銀の勾玉が降りてきた那川さんがいる。そういえば、愛染明王の時、僕は貴織さんの、天夢ちゃんは(おそらく)紫雲英ちゃんの勾玉を、吸収した。そして、貴織さんも紫雲英ちゃんも、結界の中、ていうか、僕たちの行動半径内にいた。
 だから、千宝寺さんは、結界の中に残らなかったんだ。
 ふと、僕は、この勾玉の「意志」のようなものを感じた。でも、それがなんなのか、わからない。
 鏡を持った女性が、こちらを見て、笑顔で言った。
「斉士。いろいろ、すまなかったねえ。脚が悪くて、お前の行く手を何度も遮ってしまったり、耳が遠くて、お前の言うことを聞かなかったり」
「……母さん……」
 那川さんの両目から、涙が流れ始めた。
 そうか、あのディザイア、那川さんのお母さんなんだ。
「自分でも、どうにかしたい、と思ってたんだ。でも、体の自由が利かなくて、思ったように動けなくなってて。私も、いらだってたんだ。昔は色んなことができたのに、何にも出来なくなってしまった。それが悔しくて、つい、徳子(のりこ)さんにも辛く当たってしまった。お前には本当にすまなかったと思ってる。でもね? お前のことを憎いと思ったことは一度もない。むしろ、申し訳ない、と思っていたんだ。……気に病むことはない。お前は、本当に頑張ってくれた。むしろ、こんな老いぼれを抱えて、苦労をかけたと思ってる」
「母さん……。そんなことない、そんなことないよ!」
 と、那川さんが涙をぬぐいもせず、言った。
「僕の方こそ、ごめん! どうしてこんな簡単なことがわからないのか、できないのか! そんな母さんを見てて、いらだってたんだ! 僕は、息子として、最低だった!!」
 柔らかい笑みを浮かべて、女性は言った。
「そんなことはない。お前は本当にいい子だったよ」
「母さん……」
 那川さんが、ボロボロと涙をこぼす。
 その時、勾玉が太極図になり、僕の目の前に降りてきた。
 女性が言った。
「そこのお若いの。お役目を果たしなさい。この鏡、残しておいたら、よくないよ? 人間は過去に囚われてちゃいけない。過去に引きずり戻すような、こんな鏡、壊さないといけない」
 そうだろうか? 過去を振り返ることは、悪いことじゃないと思うけど?
 那川さんが僕を見た。
「救世くん。過去に思いを馳せることと、こだわり囚われることは違う。人は常に、今を、そして、未来を見ないといけない。反省することと、後悔することとは別物なんだ」
 その言葉の意味が僕の頭の中に染み入ってきたとき。
 僕は太極図を掴み、キーワードを唱えていた。
「真鎧纏装」
「ヨロイ」をまとい、僕はクリスタルの勾玉を出した。そして、思い浮かんだ武器を降ろす。
 武器を降ろした勾玉を、右手甲にセットした。
「グングニル」
 キーワードを唱えると、右手に「槍」の氣が生まれる。そして、僕は気合いを込める。
 一度、那川さんを見た。
 那川さんが頷いたのを確認して、僕は徹甲拳にグングニルを乗せ、撃ち出した。
 澄んだ音とともに、鏡が割れ、まるでクリスタルの欠片のようなものが、辺りに飛び散る。なんか、不思議と爽やかな、さっぱりとした空気が溢れてきた。
 それが消える頃、結界も解除され、僕もいつもの書生姿に戻っていた。


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