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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 第玖部 作者:ジン 竜珠

第9回 玖の九
「署長? なにか、問題でも?」
 秋恵は、今、上石津署署長、美澤(みさわ)警視に呼ばれて、署長室にいた。
「例の、『エイト・ウィール』社員の事件だが。殺人事件、ということで、いくんだね?」
 すぐにおかしい、と思った。そのことは、刑事課長とも相談してある。なぜ、係長である自分が呼ばれたのか? 現場の判断を聞きたい、ということかも知れないが。
「ええ、あれは、殺しです」
「そうか」
 美澤がそう言ったとき、ドアがノックされ、一人の男が入ってきた。
 年齢は三十代半ばだろうか、少し痩せて、眼鏡をかけ、目がギラギラした、いかにもインテリ然とした空気をまとった、一人の男。
 美澤が言った。
「管理官」
 秋恵も、その男を見る。
 この男が、今回の事件(ヤマ)の管理官か。率直に「虎の威を借る狐」という喩えが、ピッタリくる男に思えた。
 男が言った。
「県警管理官の須ヶ原(すがはら)です。……署長、お話はしておいたと思いますが」
 美澤が頷く。
「古瀬くん。このヤマ、自殺の線が濃厚、ということでいいんだね?」
 まるで、念を押すような言い方だ。
 なので、言ってやった。
「いいえ、あれは、『殺し』です!」
 こっちも念を押してやる。
 美澤が呻いた。
 須ヶ原が咳払いをする。
「署長、『飼い犬』のしつけがなっていないようで」
 その言葉が癇(かん)に障ったが、秋恵は須ヶ原を睨むに留めた。須ヶ原が言った。
「事件概要を聞く限り、自殺、以外に考えられませんね」
「お言葉ですが、管理官」
 と、秋恵は反駁(はんばく)する。
「事件概要をお聴きになったら、おわかりでしょう? 他殺以外に、考えられません」
「風が流れれば、手の甲側に火薬残渣が残らなくても、不自然じゃない」
「ドアもウィンドウも、閉まってましたが?」
「打ち身も、偶然、そうなったんだろう」
「偶然?」
「銃撃のショックで、シートで首筋を打つとか、腹部を打つとか」
「その辺りは、検証しています」
「不十分だったんだ、やり直したまえ」
「仰ることが論理的ではありませんが?」
「とにかく」
 と、須ヶ原は薄笑いを浮かべて言った。
「今夜の捜査会議では、自殺の線で、話を進めます。……署長、飼い犬には、ちゃんと『首輪』、つけておいてください?」
 飼い犬。今、また「犬」って言いやがったか、この男!?
 そんなモノローグが、顔に出たのを感じた。美澤がそれに気づいたらしく、咳払いをした。
「と、とにかく、古瀬くん。今夜の会議に向けて、強行犯係の『意思統一』をはかっておいてくれ」
 一礼し、署長室を出る。
 出たところで、秋恵は心中(しんちゅう)、毒づいた。
 この小役人どもが! 私が出世したら、その素ッ首、速攻でスッ飛ばしてやるからな!!
「……まあ、無理よねえ……」
 溜息とともに、そう呟き、秋恵は、刑事課の部屋に戻った。


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