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作品名:アヤカシ同盟外伝 朔羅・ファーストミッション 作者:ジン 竜珠

第3回
 美伽の運転する車で行った先は、とある「山」だった。自動車で上がることができるところまでは、乗せてもらったが、そこから先は、朔羅一人で行くことになる。
「申し訳ないのだけど。私は、妃女様のお手伝いをしないとならないから、あなたに同行できません。ご武運を祈ります」
 ご武運など、大げさだ。車が走り去るのを見送りながら、朔羅は、思わず、笑みがもれてくる。
 資料を見る限り、確かに大きなパワーを持った妖怪のようだが、その力を弱める対符もあるし、羆という使い魔もある。なにより、朔羅は、これまでの経験で、妖怪退治も容易にクリアできると思った。
 資料にあった地図を見ながら、朔羅は山道を登る。ハイキングコースや、登山道から外れているから、足場は悪いが、それでも利用する人間が多いらしく、「道」としての体裁をなしている。
 そういえば、この山を越えたところにある新将岳(しんしょうがく)市は、臨海都市だ。朔羅が住んでいるのは、内陸部だから、海を眺めながら暮らすのは、さぞ、気持ちがいいだろう、と思ってみる。
 しばらく上っていくと、目印となる杭が打ち込んであった。これを辿っていけば、目的地へと行けるだろう。

 行った先は、やや拓けた場所だった。キャンプ場というほど整備されたものではない。おそらくこれから、何らかの用途で開発されるか、あるいは、その途中なのだろう。もしかすると、開発を断念されたところかも知れない。
 おそらく大きな車が出入りしていたであろう、広い道の痕跡らしいものを見ながら、朔羅は周囲を見た。
 目印となる杭が立ててあり、それに囲まれるように、朔羅のいる場所全体に呪力が働いている。そして、「それ」はいた。
 体高は三メートルほど、体長は五、六メートルほどの、黒い巨大なイノシシ。忠士の話では、「本格的に妖怪を呼び戻す『地ならし』のパワーを求め」て、召喚したという。
 フウキがこちらに気づき、猛然と向かってきた。
 猪突猛進という言葉があるが、まさにその通りで、巨大な黒い弾丸が迫ってくるさまは、恐怖以外の何ものでもないだろう。
 それをかわすと、朔羅は剣を出す。所詮、イノシシの妖怪、剣の一撃で、屠ることができる。そう思って、振り返り、剣の咒を唱えようとしたとき、鋭角で曲がり、フウキが突進してきた!
 また、どうにかかわせたが、衝撃は消えない。あのスピードと体格なら、方向転換するには、時間も距離も必要なはず。それが、わずか二、三アクションで、すぐにこちらに向かってくるとは、想定していなかった。このあたりが、通常の生物と違う、妖怪たるゆえんだろう。
 振り返ると、再び、フウキが迫ってきていた。
 まずい。これでは、かわすのが精一杯で、戦闘態勢を整えるどころではない。
 その突進をかわし、朔羅は対符を出す。そして、呪文を唱えた。フウキは、また体勢を変えようとしたが、今度は鋭角ではなく、普通の野生動物と同じように、勢いを減衰させ、さらに、大きく回り込むような動きをしている。
 その隙に、朔羅は剣の略呪を唱える。
「神通神妙神力(じんづうしんみょうしんりき)。謹請(きんじょう)。三鬼大神(さんきたいしん)。この霊剣に神威降りませ。臨・兵・闘・者・皆・陣・列・前・行! 天地玄妙(てんちげんみょう)、神力赫々(しんりきかくかく)!」
 剣を構えるのと、フウキの突進を受け流すのとは、ほぼ同時だった。
 自分でもよく理解できない悲鳴を上げ、朔羅は吹っ飛ばされた。
 幸い、受け身を取ることができたが、地に叩きつけられたも同然のダメージは残る。どうにか起き上がり、剣を構えて、踏み込む。
 だが、刃はフウキの体表をなぞるだけで、食い込ませるには至っていない。
 それが癇に障ったのか、フウキが頭を巡らせ、朔羅にぶつけてきた。
 また吹き飛ばされた。
 今度は、受け身を取ることができなかった。
 呻きながら起き上がると、フウキが双眸に妖しい光を灯して、こちらを見ている。
 朔羅の心臓を、恐怖が鷲づかみにした。
 これまで、何体か、邪気の塊を滅してきた。だが、それはあくまで「邪気の塊」でしかなかったのだ。
 今、眼前にいるのは、妖怪。邪気などとは、まるでレベルの違うものだ。
「何らかの力」が働いていて、さらに対符の力を使って、なお、これだけの脅威。朔羅は、自分が井の中の蛙であったことを思い知った。
 フウキが突進してきた。
 朔羅は、遠当て……あるいは真空斬りとも呼ばれる、空間干渉の呪文を唱える。
「はやて。つぶて。かぜきりのなのはのち」
 そして、剣で空間を薙ぐ。
 フウキには一向に効いていない。やはり修行中の技、まだ使えていない。
 向かってくるフウキを見て、朔羅は思った。
 逃げねば!
 そう思い、立ち上がった瞬間、朔羅はまた跳ね飛ばされた。


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