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作品名:アヤシの杜のアヤカシ同盟 BLOCK X 作者:ジン 竜珠

第6回 6
 その直後に起きたことは、これまで何体かの妖怪退治に携わってきた朔羅も初めて見る光景だった。少年が馬腹の下に潜り込んだのだ。必然的に朔羅の剣も、環緒の霊刃も馬腹が一身に受けることになる。
 そして、事実、馬腹は二人の刃を受け、爆発するように消滅した。霊煙が立ちこめ、紙幣サイズの黄色い金属板が宙に舞う中、少年が逃げるのを朔羅は確認した。
「待ちなさい!」
 逃すわけにはいかない。あの妖怪が何ものかわからないが、天戒冥傳の手のものは、許すわけにはいかないのだ。
「朔羅さん、深追いはしないで!」
 環緒が自分を制する声がしたが、その声に耳を貸すつもりはない。また、どのような理由があるのかわからないが、環緒が、こちらを追いかけてくる気配はない。朔羅は見失わないように、少年の背を追った。

 どれだけ走ったかわからない。どうやら、見失ってしまったらしい。
 くやしい思いとともに息を吐き、朔羅は環緒のところへと戻ることにした。環緒の位置は、霊気を探ればわかる。実際、そう遠くないところから、環緒の持つ「氣」を感じる。こちらに向かっているらしい。
 歩き始めたときだった。
「朔羅」
 自分を呼び止める声がした。
 振り返ると、そこにいたのは。
「……実?」
 見間違うはずのない、愛しき想い人、篠崎実だった。
 一瞬、心が揺れたが、実のわけはない。彼は死んだのだ。家族公認の仲ではなかったので、葬儀に出席することは叶わなかったが、確かに彼の葬儀は行われている。
 物理的に彼は死んだのだ。そもそもそれを、朔羅は、その目で確認している。
 妖怪の仕業だろう。そう思い、朔羅は剣を構える。
 それを見て、実は笑う。
「朔羅、俺だ。わからないのか?」
「わかってるわ。妖怪がなりすましてるんでしょ?」
 その言葉を聞き、一瞬、きょとんとなった実だが、不意に弾かれたように笑った。
 怪訝に思っていると、実が言った。
「君は、天戒冥傳の、……地鳴家の最奥義の一つ、『復魂(ふくこん)の儀』を知らないのか?」
 自分でも険しいとわかる声と顔で、朔羅は答える。
「知ってるわ。『反魂』と違い、もとの状態に『復する』ことのできる、究極の死者蘇生の術でしょ? でも、あんなものは伝説の所産。忠士も、そんなことを言ってたわ!」
 その言葉に、実がまた笑う。
「秘儀とか、奥義とか、簡単に見せるわけにも、教えるわけにはいかない。だから、忠士さんもそんな風に言ったんだ。俺は、地鳴家のおかげで生き返ることができた!」
 にわかには信じられない。そんな疑問を深く掘り下げる間もなく、実は言った。
「君が知らないだけで、地鳴家は、人知の及ばない境地に達しているんだ。そんな彼が、なぜ、俺を生き返らせたと思う?」
 その問いかけで、先の疑問に対する掘り下げが中断された。朔羅の、そんな心の動きを読んだかのように、実は言った。
「君のためだ。君のことを、忠士さんは大切な仲間だと思ってる。だから、一度、死んだ俺を、奥義を使ってまで、生き返らせてくれたんだ」
「私のため……?」
「そうだ、すべては、君のためだ」
 その言葉が、朔羅の心を揺らす。ある意味、天戒冥傳を裏切った立場の自分のために、忠士は奥義を使ってくれた。
 例えそれが、自分を天戒冥傳へと引き戻すための、なんらかの打算だったとしても、自分はそれだけ重用されていたのだ。
 だが、何より、もう会うことが叶わないと思っていた実が、今、こうして目の前にいる。
 胸の中が、嬉しさで一杯になる。
 気がつくと、実が目の前に立っていた。そして、朔羅の左肩に右手を置き、朔羅の後ろ頭に左手を回す。
 そして、顔を近づけ、唇を重ねる。実の、癖だ。
 頭の中がとろけていく。久しぶりの実のキス。心を溶かしていく。
 すると、実の右手が肩から離れ、朔羅の胸を、服の上からもみしだく。
 実と初めて逢ったのは、朔羅が高校一年の時の五月だ。当時のクラスメイトに誘われ、あまり気乗りしなかったものの、実が通う大学で開催される、バンドパフォーマンスに行った。
 修行漬けの毎日であり、また、正直、俗事には一切の興味を持っていなかったが、極端に人づき合いを避けても、それはそれで妙な勘ぐりをされる怖れがあった。だから、つかずはなれず、適当な距離を持ってクラスメイトたちとは交流を持っていた。
 だが、いくつかのバンドパフォーマンスの中で、J−POPに合わせてバイオリンを弾く実の姿を見た。
 一目惚れだった。
 はしたないとは思ったが、パフォーマンスが終わった後、実の元へ行った。その時、アドレスを交換でき、七月の実の誕生日にプレゼントを贈ったのをきっかけにして、正式につきあい始めた。
 キスまではかわしていたが、まだ、その先は許していない。
 しかし。
 二度と会えないと思っていた実と再会できた嬉しさに、朔羅は身も心も委ねようと思っていた。


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