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作品名:アヤシの杜のアヤカシ同盟 BLOCK X 作者:ジン 竜珠

第4回 4
 環緒と朔羅がやってきたのは、志火島市だ。
 電車とバスを利用し、目的地まで来た。環緒の「縮地(しゅくち)」の能力を使わなかったのは、もし万が一、妖怪とぶつかるようなことがあった時のことを考えて、妖力を温存するためだ。それは、佗磨姫たちも同じだった。
 その分、時間がかかるが、用心するに越したことはない。もしかすると、天戒冥傳の本拠かも知れない場所に近づくのだ、どのような妖怪が「用心棒」として配置されているか、見当がつかない。
 目的地に着くまで、二人はお喋りらしいことをしなかった。だが、環緒は、今はそれほどお喋りが好きというわけではない。朔羅も、どうやらそうであるらしく、お互い、あまり干渉しないスタンスなのは、有り難かった。
 電車内でも、違うシートに座り、「無関係」を装ったが、これは申し合わせたわけではなかった。

 一つ目のポイントは、川の中だった。さすがに川面(かわも)を歩いて落とすわけにはいかないので、環緒は、妖力を使い、河川敷に転がっている石を川に投げ込む振りをして、「氣霊散」をポイントへ投げ込む。
 二つ目は、その川を、一時間ほど上流に上がった林の中だ。民家も、整備された道もなく、まさに林の中。昼なお暗い、という表現があるが、その形容がしっくりとくる。 ここに、うち捨てられた祠(ほこら)がある。それを起点として、東方向に二十一メートル進んだ先にこれを埋めることになっている。
 祠を見つけ、そこから東を目指し始めたときだった。どこかから、赤子の泣き声が聞こえてきた。
 不自然だった。
 朔羅も気づいたらしい。眉をひそめ、首を傾げている。
「こんなところで、赤ちゃんの声なんて」と言って、朔羅が環緒を見る。
「間違いなく、妖怪ね」
 よく考えず、すぐに断言してしまうところに、環緒は一種の「危うさ」を感じるが、とりあえず、環緒も同意した。というのも、先刻から微弱だった妖気が、強くなる気配を見せているからだ。
 はたして、妖気が一気に強くなった。朔羅が表情を険しくして、竹刀袋から、二振りの剣を取り出す。
 朔羅が「咒」を唱えて霊気をチャージしているのを背後で感知しながら、環緒は周囲の気配を探る。奇襲をかけてくるかと警戒したが、どうやらそのつもりはないらしく、堂々と目の前に現れた。おそらく向こうも、奇襲が通用しないと判断したのだろう。
 現れたのは、人間の頭部を持った、トラだった。
「馬腹(バフク)だわ」
 馬腹。人を喰らう妖怪である。赤子の声で人を惑わせ、油断を突いて人を喰らう。
 朔羅にも知識があるのだろう、頷き、環緒の隣で、剣を構える。
 どうやら、馬腹以外にも、妖怪が一体、妖気を隠している気配があった。何者か、と思っていると、馬腹が唸り声を上げる。先手必勝と思ったか、朔羅が膝のバネをきかせて、跳躍した。
「待って!」
 環緒が静止するのも聞かず、朔羅が剣を振り下ろす。その横から、何者かが飛び出しているのを察知し、環緒はその何者かに、跳び蹴りをした。何者かは、その直撃を受けたものの、宙で身をひねり、着地した。
 緑色の袍(ほう)を着た美少年。
 大陸の妖怪、猫鬼(ビョウキ)の中でも、特に「緑郎(りょくろう)」と呼ばれる部類のアヤカシだった。猫鬼とは、環緒と同じ、猫から生まれたアヤカシだが、少々、事情が違う。彼らは、蠱術(こじゅつ)を行うために、殺されたのだ。それだけに、内包する怨念は、そもそもの「質」が違う。同じ猫のアヤカシである環緒でさえ……いや、同系統であるからこそだろう……、吐き気を覚えることがあるほどに、その「氣」は汚らわしい。そして緑郎は、淫魔の類いである。対になる紅娘は、男を狙う淫魔だが、緑郎は女を狙う妖怪だ。
『オイラノ本来ノ役目ジャナイケド、ココハ邪魔スルヨ』
 緑郎がニヤリとする。
 環緒がファイティングポーズを取る。だが、いわゆる一般の「格闘術」とは違う。俗に「大東流」と呼ばれる武術を一応のベースに、各種格闘技をミックスしているが、それだけでなく、気功や霊術が織り交ぜてあるのだ。だから相手の拳を受けたときにも、それをそらし、さらに「気」を絡めて自分の思うとおりに相手の動きを支配できる。
 先々代、つまり緋芽の前の代の……初代の「和の姫」の候補であり、環緒がまだ猫だった頃の飼い主であった、天音紗那見(あまね さなみ)も修得していた武術だ。捨て猫であり、死にそうなところを救われたという恩義を胸に抱き、そして、彼女の傍にずっといたい、助けになりたい、そう祈り、環緒は「つばき」という名の猫から、「佗磨姫」という名の猫股になった。
 椿(つばき)の花は、花弁が一枚一枚散るのではなく、丸ごと落花する。そこに、ある種の「いさぎよさ」を、紗那見は見いだしたようだ。だから、佗磨姫となってからも、彼女は、そのようにあろうとしたつもり、だったのだが……。
 ふと、異様な気配に、感傷が寸断される。緑郎が、まるで分身したかのような動きで迫っていた。
 まるで、環緒を翻弄するように、幾人もの緑郎が現れては消え、近づいては離れる。攻撃してくる気配はないが、裏を読めば、思わぬ時に攻撃を仕掛けてくるつもりともいえた。
 だが、気の流れだけを追えば、どれが実体であるかを知るのは、容易だ。もっとも、それぐらいは緑郎も読んでいるのだろう。どうやら、わざと捕らえられて、懐に入る算段だったようだ。緑郎の手刀が環緒の脇腹を打つ。それを読み、身体をヒネって勢いを殺すと、その流れのまま、地を這うかのような動きで足払いを掛け、緑郎の足もとをすくう。
 その動きは緑郎も予想できなかったらしい、体勢を崩して、倒れた。だが、妖術によるモノか、猫であったがゆえのものか、宙で器用に身をひねり、まるで高所から落ちた猫がそうするように、四肢で、着地する。そのまま、四肢のバネで近くの樹上に、跳び上がった。
 体勢を整える隙を与えるわけにはいかない。佗磨姫も、そのポイントへジャンプする。緑郎もその気配を察知し、その枝から、別の枝へと飛ぶ。佗磨姫はそれを目で追い、一旦、緑郎がいた枝へ乗り、着地点を読む。そして、すかさず、その枝へ向かって指先から「氣」を弾丸にして撃ち出した。
 枝が折れることはなかったが、その弾丸を受けた枝が、震動した。その震えが衝撃波を生み、空中にいた緑郎がバランスを崩して、墜落する。そして、また身をひねって着地しようとしたが、そこへ、朔羅と戦闘中だったらしい、馬腹が躍り出てきた。
 両者はまさかの事態に狼狽し、なすすべもなく衝突する。重なり合ったところへ、環緒の手から伸びた、「氣」による震動刃(しんどうは)と、朔羅の剣が、襲いかかった!


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