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作品名:アヤシの杜のアヤカシ同盟 BLOCK X 作者:ジン 竜珠

最終回 10
 遂に、来るべき日が来た。
 いつか、こうなることを夢に見ながらも、どこか恐れているところがあった。
 今、朔羅は、あるホテルの一室にいる。
 とうとう、実と結ばれる日がやってきたのだ。怖くないといえば嘘になるが、それ以上に実と一つになれることが嬉しかった。
 まさに 夢を見ているかのようだ。
 爆発するような胸の鼓動が、とまらない。
 ベッドの上に座り込んでいると、シャワーを終えた、実が現れた。
「朔羅」
 火照った体の実が微笑む。想像以上に、彼の身体はたくましい。今まで服の上から想像していただけだったが、こうして見ると、彼の胸板は、結構、厚い。
 その時、朔羅の胸が痛んだ。
 そう、実の胸を見ていて、封じていた記憶が浮かび上がってきたのだ。
 朔羅は自分の胸を押さえながら、おずおずと言ってみた。
「ね、ねえ、実」
「ん? なんだ?」
 笑顔の実を見ていると、その先を言うのが少し怖くはあったが、それでも朔羅は言った。
「胸、大丈夫?」
「胸?」
 実が首を傾げる。
「うん、胸。痛くない?」
 朔羅の言葉に、本当に理解できないように、実が聞き返す。
「なんのことかな?」
 それに、ちょっとばかり違和感を覚え、朔羅は言った。
「だから、胸よ。なんともない?」
 実は、自分の胸を見ながら、右手で撫でる。
「……ああ。ちょっとドキドキしてる。なんと言っても、やっと朔羅と一つになれるんだからね、身体も、魂も!」
 朔羅は、満面の笑顔になった実の胸を見る。朔羅の霊眼に、実の胸が映る。それを見た瞬間、朔羅の両手の平に、重量感が生まれる。
 朔羅は、幾分、頭が冷めていくのを感じながら、言った。
「私に、気を遣う必要、ないわよ?」
「気を遣う? え? どういう意味?」
 本気でわからないらしい実を見ながら、朔羅は言葉を続けた。
「実、死んだときのこと、覚えてるわよね?」
 この言葉に、実の表情が曇る。
「ごめん、そのあたりのこと、覚えてないんだ」
「……なるほどね」
 両手の平に、はっきりと質量が生じる。朔羅は剣が自分の手にあることを思い出し、剣の力を具現化させる呪を唱えた。
「都牟刈(つむかり)」
 両手に剣が現れる。この瞬間、朔羅は自分が夢幻の世界に閉じ込められていたことを、自覚した。
 実の表情が、明らかに変わる。……警戒と、敵意の混ざったものに。
 朔羅は立ち上がった。
「なんの妖怪か、見当はつくけど、こんなことをするんなら、相手のことをよくリサーチした方がいいわよ? もっとも、この地にある限り、あなたはそこまでの力を使えないのでしょうけど」
 実が険しい表情になる。
 それを見て、朔羅は言った。
「実(みのる)はね、呪災の避雷針にされたの。なんの呪術だったのか知らないけど、その呪術が完成したと思われるときに、彼めがけて、霊的な槍が、飛んできたのよ。その時、私も一緒にいたから、私、必死になって、それを弾いた。霊光をまとわせた手でね。でも、かわすたびに飛んできて、数も増えてきて、かわしきれなくて。いくつかは、私にもダメージを与えた。そして、ある一本が、私の胸、めがけて飛んできたの。私、覚悟したわ。でも、その時ね?」
 と、朔羅は剣を構える。実があとしざる。
「実が私の前に立ちはだかってくれたの。見えないはずなのに、何かを感じたのね、きっと。本来、実を殺すためだった槍は、実の胸を貫いて、消滅したわ。……彼の死因は、『原因不明の心臓発作』ってことになってるみたい。でも、彼は呪災で死んだの。でもね?」
 朔羅は、砕け散りそうな心を、意志で支えながら言葉を続けた。
「彼の胸を貫いた槍は、そのまま、彼の身体を突き抜けて、私の胸にも、その先端が刺さったわ。その槍の先端には、彼の魂の欠片があった。その欠片は、槍によって、私の胸に、縫い付けられたのよ!」
 そう、彼の魂の一部は、朔羅の中にある。実が死んだのは、確かに呪災の避雷針にされたためだ。だが、朔羅をかばったせいでもある。その事実が、彼女の記憶を歪めてしまっていた。
「だから、本当に復魂だとしたなら、彼の魂は一部、欠けているはずなの、私の中にあるんだから。そして、すでに私たちは『一つ』になっているのよ、魂のレベルで!」
 涙で視界がぼやける中、周囲の景色が変わっていく。ホテルの一室から、幾何学模様の浮かぶ、空間に!
 実だったモノが嘲笑する。
『気ヅカネバ、夢ノ中デ生キラレタモノヲ』
 実の「形」が崩れ、緑色の服を着た少年になる。あの時の妖怪だ。
 そして、少年が、人間大の山猫の姿になり、襲いかかってきた。
 怒りを乗せ、朔羅は剣を振り下ろした。

 どうやら、朝のようだ。
 上半身を起こすと、両手がしっかりと剣を握っていることに気づいた。
 もしかすると、朔羅の中にある、実の魂の欠片が、朔羅の手に剣を握らせ続けたのかも知れない。
「有り難う、実」
 朔羅は剣を胸に当て、抱きしめた。
 人の心を弄び、踏みにじる妖怪を、喚び出し、操る地鳴家。断じて許すことはできない。
 そんな決意を胸に、朔羅は、立ち上がった。
 心配をかけたであろう、綺たちに、自分の無事を知らせるために。


(アヤシの杜のアヤカシ同盟 BLOCK X・了)


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