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作品名:アヤシの杜のアヤカシ同盟 BLOCK W 作者:ジン 竜珠

第5回 5
 情報は確かだ。
 何せ、同じ「洋書講読部」の後輩、奥坂冬子(おくさか ふゆこ)から直接、聞いた話なのだから。
 今のところ、あちこちに広まっている気配はない。どうやら、最初は市内の女子大生らしかったが、その女子大生の、友人の妹が、新将岳女子に通っているという関係から、この話が水面下で広まりつつある。
 土曜日の午後一時。
 新将岳女子三年・間嶋睦美(ましま むつみ)は、大岳(だいだけ)の山の麓にある、林の中の、二階建ての空き家に来ていた。冬子から聞いたメアドに、メールは打っておいた。跳ね返ってこなかったから、誰かが受信しているのは間違いない。
 ただ、不安がないといえば嘘になる。有り体に言って、変な男たちが出てきて、乱暴されるという、恐れも考えた。
 だが、冬子が送ったメールを確認したし、あくまで自分の感覚だが、彼女は「本当は男たちが出てきて乱暴するが、それを黙ってて嘘をつく」というような女の子ではない。
 それに、「あの話」をするときの彼女は、本当に幸せそうなのだ。
 冬子には、憧れの男性がいた。名前までは知らないが、市内の大学生で、結構なイケメンらしい。冬子の話では、市内でもトップクラスのアスリートクラブに所属する体操選手らしい。
 そして、ひょんなきっかけから、その男性とつきあうことができるようになった、と、幸せそうに言っていたのだ。
 睦美にも、好きな男性がいる。市内の他の高校に通う男子生徒だ。この三月中旬に開催された「英語弁論大会」で知り合った男子で、アドレスは交換できた。だが、その後、それとない話の中で、彼にはつきあっている女の子がいることを知った。
 悔しかった。もっと早く出会えていれば、自分が彼とつきあえていたかも知れないと思うと、その女子が憎くさえあった。
 だが、冬子曰く。
「本当に、効果あるんですよ! おつきあい始めてから知ったんですけど、ヨウくん(冬子のカレシの名前だ)、恋人がいたんですって。でも、私の方を選んでくれたんです!」
 満面の笑顔だった。嘘をついているようには思えなかった。
 ならば、「それ」に頼ってみよう。
 特に代償は必要ないらしい。冬子の話では、もし、その人に街の中で出会っても、「知らない振りをしなさい」という指示があるそうだから、もしかすると、ある程度の「有名人」なのかも知れない。
 空き家のドアを開ける。管理されていないようで、鍵も壊れていた。だが、見た感じ、荒れ果てた印象はない。床の上に堆積している埃にも、足跡がはっきりと見て取れるし、誰かが出入りしているのは間違いなかった。生活感まではないが、少なくとも、何年も放置されているようではない。ひょっとすると、誰かがここを「ねぐら」あるいは「基地」にしている可能性はあるが、今は不在のようだ。
 入り口すぐ近くの部屋に入る。そこはリビングのようだ。すると。
「あなたね、『間嶋睦美さん』って?」
 若い女の声がした。その声に振り返ると、ちょうど階段を降りきったところに、一人の女がいる。身長は睦美と同じぐらいだから、百六十センチ程度だろうか。ショートヘアで、下唇の左下にほくろがある。サングラスを掛けているから目がわからないが、顔の造作は美人といってもいい。
 睦美は言った。
「あなたが、『クピド』さん?」
「ええ」
 と、女が微笑んで応えた。そして、近づいてきた。
「メール、読んだわ。あなたの願い、叶えてあげる」
 その言葉に、いくばくかの恐怖を覚え、睦美は、思わず唾を飲んで言った。
「わ、私、お金とか、もってなくて……」
 代償はいらない、と聞いてはいたが、やはり、不安になってくる。何を要求されるか。
 女は、ちょっとだけ鼻で嗤うような様子を見せて、言った。
「いらないわ。わたし、恋に悩む女の子の願いを叶えるのが仕事、……ううん、役目みたいなものだから」
 役目? よくわからない言い方をする。だが、代償がいらないのなら、この話に乗らない手はない。実際に冬子の恋は成就したのだ。
 女が、いつの間にか、手に一枚の短冊を持っていた。幅は六センチ制度、長さは二十五、六センチ程度だろうか。朱色で文字のような記号のような、見たことのない「何か」が描いてある。
「これは?」
「あなたの願いを叶える、御札。これに、今から教える手順で儀式を行えばいいだけ」
「儀式?」
 どうしよう、難しいものだったら、手順通りに実行できないかも知れない。
 そんな不安が顔に出たのだろう、だが、女が、微笑んで言った。
「大丈夫、簡単なものだから。その儀式を行いながら、一心に祈るの。『コージョーさん、恋を叶えて』って」
 その札を受けとり、睦美は女の説明を聞いた。それこそ、一言一句、聞き漏らさないように。


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