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作品名:アヤシの杜のアヤカシ同盟 BLOCK W 作者:ジン 竜珠

第3回 伍・三
 衝撃が静かに胸を貫く。
 まさか、近しい人が呪災の避雷針に選ばれようとは……!
 眼鏡の若い男が言った。
「君が何をしたのか、わかっていますか!?」
「……うるさい。俺は、家族に見放されたお年寄りの、心の拠り所になってたんだ! それに対する報酬をもらって、どこが悪い!」
「君がしたことは、特殊詐欺です! 君も、途中から気づいていたはずです!」
「うるさいうるさい!」
 状況が見えない。かぶりを振って否定する実を見ているうち、彼を護らねば、という想いが鎌首をもたげてきた。もう、これは心の奥深いところからわき起こってくるもので、理屈ではない。
 朔羅は実の前に出た。背に彼をかばいつつ、剣を構える。
 若い女が言った。
「あなた、もしかして、地鳴(つちなり)の縁者かしら?」
 地鳴の名を知っているということは、普通の一般市民とは考えられない。なぜなら、地鳴家は地下にあり、この国の影から、隠然たる影響を及ぼせる家だからだ。
 実際にそこまでの力を持っているかどうかまではわからない。だが、少なくとも、ある程度までの大きな組織に対して、影響を及ぼせることは、この霊剣絡みで彼女も体験している。
「まいりましたね」
 と、眼鏡の男が溜息をついた。
「実、逃げて」
 小声で言うと、最初はよくわからないようであったが、どうやら事情を理解したらしい。頷いて、実が駆け出していった。
 それを追いかけようとした男女の前に、朔羅は立ちはだかった。
「あなた!」
 と、女が言った。
「彼は犯罪者なのよ!? それに、彼は何らかの呪術の避雷針……贄(にえ)にされようとしてる!」
 再び、衝撃が胸を貫く。
 実が、贄に選ばれている。
 ふと、振り返り実の背を見る。
 不安が雲の如く、わき起こった。
 だが、同時に自分に課せられた使命も、脳裏をよぎる。
 しばしの時間、朔羅は逡巡したが。
 剣を構え、二人の男女に向かう。
 地上の楽園を築くためならば、己のささいな恋慕の情など、矮小なこと。
 その思いで、胸に生まれた小さな「もの」をねじ伏せる。
 その小さな「もの」は、朔羅と同じ姿形をしていた。
 そして。

 泣き叫んでいた。

 段差を乗り上げたのだろう、強い衝撃が身体を揺らし、朔羅は我に返った。
 今日は土曜日。この新将岳市に引っ越してきて、住まいにしたアパートから、天音家に下宿するため、市の北東部である将番礼というところに向かっている。
 自分が乗っている車の運転手は、天野光奈という若い女だ。去年、若い男女……天音糺と緋芽に向かって行ったとき、朔羅の邪魔をしたのが、この女だ。腕は明らかに光奈の方が上だったので、適当なところで呪術で目くらましをし、退却した。
 先日、光奈の運転する車に乗り、蜚や跂踵が出現する場所へ行ったが、その時はかなり抵抗感があった。もっとも、光奈の方は、一切のわだかまりを抱いていないようであったが。
 どうやら、この光奈という女は、「大人」であるらしい。
「晴れてよかったな」
 楽しそうに、光奈が言う。
 それに適当に相づちを打ち、朔羅は流れゆく景色を眺める。
「実……」
 かすかに呟いた声に、涙がにじむのを感じた。
 今は、この世のどこにもいない、愛しい男の名前。
 それが、朔羅の胸に、自分が信じてきたものへ疑念を抱かせるきっかけ、そして最大の機縁となった。


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