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作品名:アヤシの杜のアヤカシ同盟 BLOCK W 作者:ジン 竜珠

最終回 10
 そして、呪文(正式には、「呪歌(じゅか)」とか、別の呼び名があるらしい)を唱える。
「アハリヤ、アソビハストモウサヌ、アサクラニ、ココニオリマセ、キヨヒメノタマ」
 鈴の響きで、骨が熱くなると同時に、あたしの中に、ある感情が浮かぶ。そして、口許に笑みが浮かんだ。
 あの妖怪を嗤う、嘲笑が。
 あたしから何かを感じ取ったのだろう、格闘中だったチャイナドレスの女と、タマちゃんが、動きを止め、あたしの方を見た。
 チャイナドレスの女を見て、あたしは言った。
「節操のない色魔風情(しきまふぜい)が。思慕の情とは、ただ一人の相手に尽くすもの。それこそ、己(おの)が身が、蛇(じゃ)に堕そうとも、貫き通す覚悟を持った、神聖にして、尊いもの。汝(うぬ)如きが、一劫(いっこう)、費やそうとも、決してたどり着けぬ、神の領域なのよ」
 そして、あたしは、右手を顔の横に掲げ、「気」を集める。瞬く間に、人差し指と中指の先に、火の玉が産まれる。それを投げつけるように、あたしは腕を振り上げ、一気に振り下ろして、チャイナドレスの女……紅娘(こうじょう)に向けた。
 指先の火の玉から、、まるで特撮のビームのように、炎の柱が伸び、紅娘を炎で包んだ。

 どうやら、紅娘は逃げおおせたらしい。だけど、かなりのダメージを負ったのがわかる。当分、動けないな、あれは。
 タマちゃんが、あたしに近づいてきた。
「ああ、タマちゃん、大丈夫だった?」
 その時、あたしの心に、ある感情が浮かぶ。そして、それを口にした。
「ねえ、タマちゃん。あなた、生まれかわりって、信じる?」
 タマちゃんが怪訝な顔をする。それが少しおかしかったけど、あたしは続けた。
「きっと、あの人も生まれ変わってるはずなの。今度こそ、あたし、あの人と結ばれるのよ!」
 そう、恋って素晴らしいの! あたしには、恋人は複数いるけど、本当に「大切な人」は一人だけ! きっとその人に巡り会える! 巡り会ったら、今度こそ、幸せになるの!
 あたしは、タマちゃんに言った。
「そういうことだから、あたし、あの人を捜しに行くわ」
 そう言って、そこから立ち去ろうとしたとき。
「綺たん」
「なに、タマちゃん?」
 タマちゃんの声に振り向くと、タマちゃんがいきなり、あたしの胸の中央に、人差し指から伸ばした、あの光の爪を突き刺した。
「え……?」
 動けない。指一本、動かせない。なんで、なんで、動けないの?
「悪いけど、『だん中』突いて、一時的に精神を鎮めさせてもらったニャ」
「な、なに言ってる、の……?」
「今、綺たんの身体の制御は、清姫が握ってるニャ。その妖魂のボルテージを下げたから、体が動かないはずニャ」
 本当に言っていることが理解できない。
 そう思っていたら、タマちゃんが、あたしのチョーカーについてる、クリスタルの鈴の下の部分に、左手の人差し指を押し入れた。こうすると、下の部分が押し広げられて、中に入れた御魂玉を出すことができる。
 中から、赤い御魂玉が出た瞬間。
 まるで、止めていた息を一気に吐き出すような感覚とともに、あたしは、膝から脱力して、へたり込んだ。
 何か、呼吸が整わない。肩で息をしながら、あたしは顔を上げた。
 タマちゃんが、不安げな表情であたしの顔を覗き込んだ。
「大丈夫ニャ?」
「う、うん……」
 まだ、息が苦しいけど、どうにか、喋るぐらいはできる。
「なにが、どうなったの?」
「綺たん、妖魂にアヤつられてたニャ」
「操られてた? そんな自覚、ないけど?」
「綺たん、まだ未熟だから、妖魂の意志を自分の意志と思い込んでるニャ。要するに、同化しちゃってるのニャ」
 言っている意味がわからない。アヤカシの意志だっていうけど、確かに、あたしの「意志」だったし。
 そう思ったとき。
 何かが風を切って、飛んできた。タマちゃんはよけたけど、あたしはよけることができなかった。
 それは、数本の「蔓(つる)」だった。
 蔓に絡め取られて、あたしは身動きできない。でも、すぐにタマちゃんが来て、爪で蔓を切ってくれた。
 光の爪じゃなくて、本当の爪が伸びてた。
 それを見ていたことに気づいて、タマちゃんがあたしに言った。
「この蔓は、八割方、実体なんだニャ。だから、霊爪より、ホントの爪の方がいいニャ」
 タマちゃんの肩を借りて立ち上がったとき、なんか、空気が凍る感じがした。そして、その感じが、周囲からの圧迫感に変わったと思ったら、今度は空気が澱む感じになった。
 タマちゃんが、慌てたように周囲を見回す。
「結界に閉じ込められちゃったニャ!」
「え? 結界?」
 よくわからないことが続く。
 そして、林の奥の方から、何かが近づいて来るのが見えた。
 ボロボロのフードを被り、マントを羽織った、大人から子どもまでの、妙な人が七、八人いる。
「ヒィシだニャ!」
 タマちゃんが、厳しい声で言った。そして、臨戦態勢を取る。
 何が何だかわからない中、あたしは、ただ、震えていた。


(第伍章 君、恋うる華の乙女 前篇・了)


あとがき:最初は、全五章で「サクッ」と終わる予定でしたが、私の中で、大ごとになってます。申し訳ない。

☆地名について。

 本編に登場する名前には、いくつか「意味」を持ったものがあります。そのうち、三つほど、ご紹介します。

〇大岳……だいだけ。普通は、「だいがく」と読んだりします。
〇中岳という地名も、当初は存在しました。「なかだけ」と読みますが、本編では「中滝(なかだき)」に変更。
〇小岳(こだけ)という地名もありました。「しょうがく」ですが、この字を「将岳」に変更。そして、これを、舞台となる市の名前に設定。ただし、本編でも「小岳」は存在します。ダブってますね。

 つまり「だいがく」「ちゅうがく」「しょうがく」……「大学」「中学」「小学」なんです。これに限らず、市内のエリア名のいくつかは、何らかの「機関」や「システム」をもじっています(未登場のものばかりですが)。

 なんで教育機関の名前なのか、っていうのは、これは、特に意味はありません。

 おまけ。

「序」で新将岳女子にゴウエツが出現した理由。「ある映像制作会社が、『ホンモノの女子高校生が出演するアダルトDVD』を制作しようと画策(つまり、新将岳の生徒を「喰いモノ」にする。ゴウエツは「人を『喰う』」妖怪です)。そこで警察にマークされないように、なおかつ『利害関係』が一致する女子生徒を探すために、忠士からゴウエツを借り受けた」。
 どこかの時点で、ちょっと触れようと思ってたんですが、すっかり忘れてしまってました。今さらなので、こういう形で、紹介させて頂きました。


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