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作品名:アヤシの杜のアヤカシ同盟 BLOCK W 作者:ジン 竜珠

第1回 第伍章 君、恋うる華の乙女 前篇
 今、朔羅が来ているのは、自分が住んでいる町より、遠く離れたところにある山中だ。
 夏が暑かったせいでもあるまいが、十一月だというのに、一向に紅葉する気配がない。そういえば、先日も「夏日になった」という報道があった。どうやら、地球環境は、根本的なところでおかしなことになっているらしい。
 今日は、ここに「ある人物」が、「ある者」に追われてくるので、その逃亡を助けろ、とのことだった。
 その人物は「呪災の避雷針」だという。「呪災の避雷針」というのは、「ある呪術を施す際、呪者にふりかかる反動なり災いなりを、代わりに引き受けてくれる人間」であるという。そして、それは、どうやら本人の了承はとっていないらしい。
 それはそうだろう。誰が好き好んで「代わりに呪術の災いを引き受けます」と納得するものか。
 だが、その避雷針も、それなりに「うまみ」はあるという。その人物が抱えている望みを叶えてやることで、霊的に契約関係を結ぶのだという。それはある種の「騙し討ち」ではないか、と朔羅は思うのだが、これも地上に楽園を築くために必要なことなのだ。
 朔羅がいるのは、ちょっとした高台にある林の中。ふと、眼下にある拓けた場所を見る。直線距離にして、五十メートルぐらい下方になるだろうか。この場所は、もともとスポーツアスレチック施設ができることになっていたらしい。だが、施設を管理する組織が、何らかのトラブルに見舞われたとのことで、その工事等は中断している。
 そして、今、そこで、ある「戦い」が繰り広げられていた。戦っているのは、高校生らしき少女と、人のサイズの二倍はありそうな大鷲。
 少女が着ているのは、濃いベージュのブレザーに、クリームイエローのブラウス、赤い格子模様が入った紺色のプリーツスカート。どこかの学校の制服のようだ。今は平日の午後一時だから、おそらく授業をエスケープしてきたのだろう。もっとも朔羅も、今日は「お役」を果たすために学校を休んだのだが。
 一方の大鷲は、明らかに生物学的に「ワシ」であるとはいえない。サイズからして異常だし、額に一本の角を生やしている。名を「コチョウ」という、人を喰らう妖怪だ。
 しかし、人を喰らう、といっても、実際に喰らうわけではないらしい。確かに本来のコチョウは人を喰らう妖怪だが、ここに現れているのは「呪災の避雷針」となった人間の欲望を叶えるために、「人を喰いものにして、その財を喰う」力を与えられ、また、避雷針にその財を与えるよう、調律されているのだという。
「そういえば、実(みのる)、どうなったかな……」
 朔羅には、つきあっている男性がいる。篠崎(しのざき)実(みのる)という、大学三年生だ。彼は、音楽大学に通っているが、一流になるために、私費留学したいと願っている。

 朔羅の家は、ある古神道の一派に弟子入りしており、中には確かに「富を引き寄せる儀式」および「招宝の祝詞」というものがある。だが、朔羅は、その全貌を知らないから、実の助けにはなれない。それが少し、悔しくあった。
 アルバイト程度では留学費用はまかなえないから、いろいろと「実績」を示して、支援者を募る、と実は言っていた。かなり無理をしているのが、わかった。
「実、無理はしないで?」
 ある日曜日、河川敷にデートに来て、目の下にクマを作り、顔色があまりよくない実を見て、朔羅は心配していた。
「大丈夫だよ、朔羅。なんとか、いい支援者が見つかったんだ」
「本当?」
 自分を心配させまいと、無理矢理笑顔を浮かべて、そんなことを言っているような気がして、朔羅は実の目を見た。
 そんな朔羅の不安を消し去ろうとするように、実は朔羅の頭をなで下ろす。
「ああ。詳しくは言えないけど、順調に資金が集まってる」
 その笑顔がどこか弱々しい。それは疲労から来るものではないような気がした。
 たとえていうなら。
 精神が何かに侵食されているような、そんな感じだった。


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