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作品名:アヤシの杜のアヤカシ同盟 BLOCK V 作者:ジン 竜珠

最終回 6
 朝。
 起床時間は、基本的に午前四時だ。佗磨姫は猫だったせいか、基本的に宵っ張りだが、この二年ばかりの生活リズムにより、朝早く起きることが習慣づいていた。
 水垢離のあと、祝詞を上げる。呼吸操錬を行い、身体操錬を終え、食卓に着く。ここの家は、食事等の家事は当番制になっているが、炊事当番から、佗磨姫は外されていた。いつだったか、教わった通りに料理を作ったのだが、調味料の分量を、どうしても間違えてしまうらしく、みな、微妙な表情をする。
 それ以降、佗磨姫は炊事当番から外された。
 学校へ行く前、道場で糺から呪符を編み込んだチョーカーと、御魂玉(こんぎょく)を手渡された。もし、万が一、女薙綺に「和の姫」の素養が見られたら、すぐに手渡せるように、と、佗磨姫が身につけているのだ。
 小さな錦袋を手に取ると、反応があった。そこから、赤い御魂玉を取り出す。
 すでに妖魂(ようこん)が降りていた。
「山童(やまわろ)、なんで、降りてきてるニャ?」
 首を傾げると、返事があった。
『なにやら、虫が知らせるのでな』
「虫?」
『ああ。何か知らんが、落ち着かん。このザワつきは、不快、極まりない』
 糺が、割り込んできた。
「なにかあるのかも知れませんね」
 糺は、アヤカシの声を聞くことができる。もっとも、完璧ではないらしいが、今のような簡単なやりとり程度なら、容易に聞き取れるようだ。
「佗磨姫さん、先日、アヤカシが現れました。ゴウエツ……人を喰らう妖怪です。もっとも、物理的に喰うとは限りません。例えば、……そう、例えば『人を喰いものにする』のかも知れませんが、用心するに越したことはありません。もし女薙綺さんの周辺に現れるようなことがあれば、彼女を護ってください」
「うぃ」
 佗磨姫は頷いた。
 女薙綺。二年生になって、同じクラスになった。糺の話では、糺の家と同じような家の人間らしい。
 佗磨姫は人間ではない。だから身体能力は、人間をはるかに上回るし、知能も、いわゆる「学力」だけなら、常人を上回っている。
 だが、それ以外の理由があるらしく、糺からは「学校では、なるべく際だった能力を見せず、親しい友人を作らないように」と言われている。糺の言うことには、逆らえない。
 それが心に冷たい風を送り込んでいた。休み時間、昼休み、放課後、そして部活。お喋りに興じ、時にぶつかって喧嘩をし、そして、笑い合う。
 そんなクラスメイトたちが、うらやましかった。何度も、心の中でその景色に自分を置いた。
 それもこれも、猫股であり、人間ではないが故、と諦めていたのだが。
 女薙家の人間なら、事情は違うはずだ。先にも言ったように、糺の家と同じような事情の家なら、佗磨姫のことにも理解を示すはず。
 自分を偽ることなく、憧れていた生活を送ることができる。
 だから、何があっても、女薙綺を護ろう。
「和の姫」とかどうとか、そんなものは関係ない。もしかすると、彼女は、佗磨姫にとって親友になってくれるかも知れない存在なのだ。だから、絶対に彼女は護らねば。
 そして、もし、彼女が「和の姫」だったら。
 修行に時間がとられるなど、いろいろと難しい問題もあるが、一緒にいることができる。心ゆくまでお喋りをし、どこかへ遊びに出かける。そんな生活も現実のものになるかも知れない。
 糺からは「万が一を考えて、彼女が『和の姫』かどうか、そして『こちら側』に共鳴してくれるかどうか、確認できるまで、様子を見るように」と言われている。なぜ、糺がそんなことを言うのか、さっぱりわからない。いつだったか緋芽が「『あの一件』以来、女薙家・地鳴家と疎遠になって、内情が、詳しくわからない」と言っていた。そして、その時の話の流れで、「凡庸な霊術士程度かも知れないから、なんらかの『試験』を行いたい」とも言っていた。
 それが、佗磨姫の報告などを検討して、最近になって「女薙家の人間だから、霊学・霊術の心得はあるだろうが、まったく平凡な女子高生と変わらないかも知れない」に変わってきたのだが。
 いずれにせよ、言っていることがまったくわからないものの、とにかく、糺から何か言われるまで、自分の素性は伏せておけ、ということだった。
 しかし、どうあれ、糺から許可が降りれば、佗磨姫は自分を隠さずにつきあえる友だちを、得ることができる。そうしたら、学校では無理でも、プライベートでは、これまで憧れてきた日々を送ることができる。
 毎朝、そんなことを夢想し、佗磨姫は家を出る。
 そして今日も、バス停に着く頃には、佗磨姫は「キャラクター」をまとっていた。
 クラスメイトが呼んでいる「クールビューティー佗磨姫さま」という、化けの皮を。

 だが、今日はなにか違う感じがしていた。
 山童があんなことを言ったせいもあるが、佗磨姫もアヤカシとして超感覚がある。
 間違いなく、今日、異常な事態が起きる気がしている。
 それが糺の言う、ゴウエツという妖怪のせいなのかどうか、そこまではわからないが。
 気がつくと、学校近くのバス停に着いていた。
 ふと、周囲の気配の異常に気づく。
 これは、もしかすると、本当にゴウエツが現れるのかも知れない。
 ならば、なんとしても、自分が女薙綺を護らねばならない。
 決意を固め、佗磨姫は学校へと向かった。


(第肆章 佗磨姫の昔の物語・了)


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