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作品名:アヤシの杜のアヤカシ同盟 BLOCK V 作者:ジン 竜珠

第5回 肆・五
 まるで、山が胸の上にのしかかってきたようだった。息はできるが、身体が動かない。どういうわけか、指一本動かせない。
 男が言った。
「今後、これと同じ系統の呪符や、呪具を身体にまとったとき、君はその『重さ』に苦しむことになる」
 静かに言った男の目が、光を放っているように、千代には見えた。そして、静かに、意識が沈んでいった。

 あとは、よくわからない。
 どこか、狭い部屋の中、天井にも壁にも、おそらく床にも咒字が書かれ、時折、呪文のようなものが聞こえてきていた。自分には、手枷足枷がはめられているのがわかったが、どこかに繋がれているというのとは違う。しいて言うなら、体が何かによって「重く」させられて動けないでいる感じだ。
 ふと、近くに、自分と同じ種類の「誰か」がいるのがわかった。
 その「誰か」が呟くのが聞こえた。
「ゴメンなさい。ワタシ、自分の『お役』から……罪と責任から逃れたいために、あなたを……、ワタシと同族のあなたをこんな目に……」
 だが、わかったのは、その程度だった。
 千代は、徐々に「自分」という存在が希薄になっていくのを感じていた。

 気がつくと、畳の上に座っていた。
 自分が何者かわからない。
 かすかに、自分は人間たちが「猫股」と呼ぶ存在であることぐらいが、わかる程度だ。
 目の前にいるのは、白髪の男性。だが、まだまだ若いようだ。男性が笑顔で言った。
「意識がはっきりとしているね?」
 その言葉に、よくわからないながらも、自分は頷いた。
「うむ、よろしい」
 満足げに言って、男性が言った。
「君に名前をあげよう」
 そして、手で何かの形を作り、静かに、そして、宣言するように言った。
「君は、この瞬間から、丹安武(にゃん)佗磨姫(たまき)」
 その瞬間、自分の中の「なにか」が、固められたように感じた。同時に、この男性やその血に連なる人間には逆らえないと、感じた。
 そして、男性は振り返る。自分もその方を見た。若い男と女がいる。
「緋芽、糺。わかってると思うが」
 男が頷いて言った。
「『和(にぎ)の姫』を磨くための『お役』になれるよう、彼女を指導する。それが、僕たちの役目ですね、父さん」
「そうだ。『和の姫』を直接、磨くのは、その『お役』の性質上、アヤカシでなければならん」
 そして、若い女の方を見る。
「緋芽が脱落しなければなあ」
 女が苦い表情で、そっぽを向く。
「まあいい。いずれにせよ、この御代(おだい)で『和の姫』を生み出さねばならないのは、間違いのないこと。となれば、女薙(めんなぎ)か、地鳴(つちなり)か、あるいは天野(あめの)か、いずれかの家から出てくるのであろうが……。地鳴のような、道を外れた家から『和の姫』が生まれるわけがない。天野の如き劣等な家からも出るわけがない!」
 それまでとうって変わって、歪んだ言葉で、苦々しく男性が言った。何があったのか、男性が「つちなり」「あめの」と口にしたときの感情が、黒く濁っているように思える。
 男性が、少し考えてから言った。
「女薙のところの下の娘、有望らしいと、占断された。今、中学二年だ。将来の夢はお菓子職人だとか。確か、新将岳市にある、私立の女子校に通いたい、と言っているらしい。糺、もし、その子が高校に通う年齢になったら、佗磨姫を同じ高校に通わせなさい。その頃には、佗磨姫も、多少、『佗磨姫』としての腕が上達しているだろう。もしその子に、『和の姫』としての素質があった時には、すぐにその修行をさせられるように、用意しなければならん」
「わかりました、父さん」
 若い男がお辞儀する。
 白髪の男性が、再び自分を見た。柔らかな笑みを浮かべて。
「君には、その『お役』、しっかりと果たしてもらいますよ。それが君を『浄化』した、我が父の願いでもありますから」
 さっきと同じような笑顔、口調。
 だが、今は、作ったような、異質なものに感じられた。


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