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作品名:アヤシの杜のアヤカシ同盟 BLOCK V 作者:ジン 竜珠

第4回 肆・四
 今夜は、なかなか生気の充実した男だ。人通りのまったくない広場で、なぜか、その男以外、誰もいない。まだ若い。例によって声をかけ、あの小屋へ、と思ったとき、誰かが千代の前に立ちはだかった。
 人の女の姿をしているが、人間ではない。千代と同じモノ、人間たちが「猫股」と呼ぶ存在であることがわかる。
「なに、あんた? もしかして、あっしの食い物、横取りする気なのかい?」
 目の前の髪の長い猫股は、黙って首を振る。そして、暗い声と表情で言った。
「ワタシの償いだから」
 言っている意味がわからない。だが、邪魔をする気であるのは、間違いない。
 ならば、まず、この猫股を黙らせよう。少しばかり痛い目を見てもらうことになるが、食事を邪魔するのであるなら、それなりの代償は支払ってもらわねばならない。
 通すべき「仁義」というヤツだ。
 ……仁義?
 その言葉に思い至った時、一瞬、大切な何かを思い出しかけたが、それを振り払い、千代は言った。
「あんたの事情はどうでもいい。とにかく、とっとと逃げるんなら、よし。さもなくば……」
 言い終わるより早く、相手が踏み込んできた。対応が遅れていたら、腹部にキツい一撃を受けていただろう。
 どうやら対決は避けられそうにない。千代は、身につけた妖術で、火を吐いた。だが、その火は相手に届く前に、かき消された。
 ならば、と、風を起こし、塵で視界を奪う。だが、どういうわけか、その塵は一ヶ所に、ものすごい勢いで吸い込まれていった。
 訳がわからない。妖術には違いないが、使い方が違う。
「空気に断裂を作って、真空を作ったの。そうすると、一時的に空気がそこに流れ込むから、あなたの火も、風も、そこに吸い込まれる」
 言っていることが理解できないが、千代の妖術が通用しないということを、言いたいのかも知れない。
 ならば、直接妖気をたたき込むのがいいだろう。相手も同じ猫股、どこまで通じるかわからないが、物理的にダメージを与えられたら。
 千代は、踏み込み、相手の懐に入った。そして、右手を打ち出す。
 だが。
 相手は、その腕を掴み、ヒネり上げる。変わった体術だった。その時の千代の知識にはないが、それはある武術で「小車投げ」と呼ばれる技だ。そして、そのまま、仰向けに倒され、千代の鳩尾に、相手が膝を落としてきた。
 息苦しさが千代を襲う。
 その時。
「ご苦労、佗磨姫」
 男の声がした。見ると、千代が餌食にしようとしていた青年が、こっちを見下ろしている。聡明な顔つきで、その身体から漂う生気は、普通の人間とは、質が違う。さっきは、ここまで気がつかなかった。これだけの生気ならば、向こう五、六年は他の人間の生気を喰わなくてもすみそうだ。
 だが、そう思ってみても、身体が動かせない。
 男が、懐から黄色い短冊を取り出す。そして、小さく何かを呟いて、その短冊を千代の胸に置いた。


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