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作品名:アヤシの杜のアヤカシ同盟 BLOCK V 作者:ジン 竜珠

第3回 肆・三
「おい、姉ちゃん。こんな夜更けに、そんな格好してると、悪いおじさんに、変なところに連れ込まれちゃうよう?」
 また引っかかった。
 少しばかり、肌を露出した格好をして、夜の町を歩くだけで、面白いように男が引っかかる。
 今、声をかけてきた男も、スケベ心丸出しなのが、わかる。その顔を鏡で見たら、どんなに自分が愚かしい存在であるのか、正気にかえることができるのだろうか。
「あの時」から、どのくらいの時間が流れたのか、わからない。千代は多くのことを知り、学んで、色んなことができるようになった。人間に化けることを覚えた。残念ながら思い通りの姿になることは無理で、どういうわけか一つの姿にしかなれなかった。理由はわからないが、自分と同じように「妖怪」と呼ばれる存在が「未熟なうちは、自分の霊体が人間だとしたらこうなる、という姿にしかなれない」という、難しいことを言っていた。
 要するに、熟練していけば、男にも、どんな姿にもなれるのだろう、と理解しておいた。
 妖怪といえば。
 人間たちの中には、千代たちを「妖怪」と呼んで、恐れたり、嫌ったりしているものが多いというのを知った。
 笑止。
 千代からすれば、人間たちこそ、異分子だ。なぜ、自分たちと違う存在なのか、と疑問に思ったこともある。そういえば、かつてこの能力を手に入れた「あの時」のことを、千代はよく思い出せない。誰かを慕い、誰かを怨んだような気がするが、忘れてしまった。
 誰かを救いたいと思ったものの、果たせず、何かに対して、そして自分に対して、嘆き苦しみ、怒り狂い、脳髄を口からぶちまけんばかりに空に向かって、おらび続けたような気もするが、それも忘れてしまった。
 忘れたということは、覚えていなくてもいいということ。どうでもいい、ということなのだ。
「ねえ、身体が熱いの。この火照り、しずめてくれないかな?」
 甘えたような声で、そう言うと、男……エサが喜んで千代の肩に腕を回してきた。
 あまり質のいい生気ではないが、腹の足しにはなるだろう。千代は、男を、根城にしているバラック小屋へと誘い込んだ。この小屋の持ち主は、すでにこの世にいない。といっても、千代が命を奪ったわけではない。その時の状況をいちいち見ていたわけではない。公権力が「闇市」がどうの、と言いながら、この辺りに流れ込んできたことがある。その際の言葉を拾った限りでは、公権力との間にも、何らかの「暗黙の了解」があるらしかったが、その時、手違いや、ちょっとした騒ぎがあって、その小屋の主は命を落としたという。
 それはともかくも。この男には、このバラック小屋が、それなりの家に見えているはず。幻術で、この男が「見たいような」家を見るように仕向けたから、どんな家を見ているかまではわからないが、溜息をつきながら、辺りを見回している。
「さあ、いらっしゃいな」
 千代の声に、男が興奮した様子で頷く。
 明日の朝には、この男も、もの言わぬ身体となって、近くの川に浮いているだろう。


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