小説&まんが投稿
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:アヤシの杜のアヤカシ同盟 BLOCK V 作者:ジン 竜珠

第2回 肆・二
「とにかくさ」
 と、石部が気を取り直したかのように言った。
「善さんの技術を伝えて欲しいんだ」
「あっしは、ただの飾り物職人だぜ?」
 困ったように、石部が言う。
「でも、精密機械を作ってただろう?」
 主人がお銚子をちゃぶ台に叩きつけるように置いた。
 その怒気に押されたわけでもあるまいが、石部は何度目かになる溜息をついた。
「また来るよ」
 これ以上は、主人の気持ちを動かすのは、不可能と思ったのだろう、石部が家を出て行った。
「……千代、おいで」
 主人が手招きをする。
 だが、そのまとっているものは、どこか痛々しくて、苦々しくて。
 だから、自分はその場から、駆け去った。

 空から火が降ってくる。
 だが、「火」そのものではない。中に「火」を宿し、ここに落ちてくると、「火」を生むのだ。
 その「火」を降らせているのは、愛しい主人と同じ「人間」なのだ!
 なぜ、同じ「人間」が、「人間」を焼き殺すような「火」を降らせるのだろう。
 理解できない。
 そして、主人の家が火に包まれている。
 まだ、あの中に主人がいる。奥さんもいる。助けに行きたいが、「火」が怖い。熱くてたまらない。
 どうして、自分はこのように小さいのだろう。
 どうして、自分の吐く息で、この「火」が消せないのだろう。
 どうして、自分はこんなに弱く、矮小なのだろう。
 ああ、力があったなら!
 そう、強く願った。
 この「火」を降らせる何者かが憎い!
 そう、強く怨んだ。
 主人を助け、恨みを晴らせるなら、魂をも差し出したっていい!
 そう、強く祈った。
 自分の中に、反する二つの感情が生まれる。
 自分を愛してくれた「人間」である主人を救いたい。
 主人を殺そうとする「人間」どもを喰らい殺したい。
 その二つの思いが頭から背骨を伝い、尾の方へと流れるのを感じた。尾へと流れた思いは、相反する思いそのままに、二つに分かれ、自分の尾を二つに裂くのを感じた。
 その時。
「千代」は、「猫」を超えたことを悟った。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 小説&まんが投稿屋 トップページ
アクセス: 145