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作品名:今日も杏とて。継 結之章 作者:ジン 竜珠

第5回 結之章・伍
 気がつくと、男の姿が消え、目の前に女がいる。
 その瞳は、シトリンのように、そして、太陽のように輝いていた。
 穏やかな笑みで、女が言った。
「ありがとうなあ。ウチ、思い上がってましたわ。『有縁(うえん)のお人は、必ず救える』。そんな風に、勝手に思い込んでました。でもな?」
 女が、私の頭を撫でる。女と私は同じ身長だ。
「ウチにお救いできるんは、多くても二人に一人、四人に二人や。せやけどな? もしかしたら、ウチがお救いしたお一人が、別のお一人をお救いしてくれるかも知れへん。お二人、お救いできたら、そのお二人がまた二人ずつ、救うてくださるかも知れへん。そんなふうに、誰かが誰かをお救いしていったら、みぃんな、笑顔になれる」
 そして、私を抱きしめる。……温かい。
「あんさんは、ウチの『影』や。あんさんを視ることで、ウチは自分の足らんところを知ることができる。ありがとうなあ、ホンマに、ありがとうなあ」
 この女の言うことが、「理解」できた。私は、この女の「影」だ。だが、それは「不要な存在」ということではない。
「あんさんとウチは、互いに磨き合う関係や。ウチが間違った方向に行きそうになったら、あんさんがウチを叱ってくれる。ほんで、ウチの成長に合わせて、あんさんも成長していく。これからも、よろしゅうな」
 何かがほどけていくような、柔らかい空気が、私たちを包む。
「昨日も、先生に諭されたばかりやったのに。ホンマ、ウチも性根がひん曲がっとったんやなあ。シャンとせな、みんなに笑われてまう。……珠璃はんに『笑顔が見たい』言われたとき、ウチ、わかりました。ウチ、無理しとったんやなあって。笑ってたつもりで、笑顔になってなかったんやなあって。せやから、珠璃はんに言われて、無理しとったの見抜かれてたのが、わかった途端。……無理せんでええって思って、涙がとまらんようになってもうて。それでええんやなあって。涙を見せられる相手がおるんは、倖せなことなんや。せやからな? あんさんにも、頑張ってほしいなあ」
 この言葉に、私は、はっきりと自覚した。
 私は、この女に、以前も出会っている。そして、その都度、この女は「私という存在」を克服してきた。
 これからも私は存在し続ける。そしてことあるごとに、この女の……天宮 杏の前に立ちはだかり、そして……。
 導いていくのだ、と。


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