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作品名:今日も杏とて。継 結之章 作者:ジン 竜珠

第2回 結之章・弐
 また、ひときわ、強く大きい声がした。もう、言葉になっていない。ひたすら怨み嘆き哀しみを叩きつけてくるだけだ。
 どうやら、これは一人ではない。それ以前に、この女個人に向けられているものではない。
 フハハハ! これは面白いことになった。これまで悲嘆に暮れた者たちの怨念が、適当な相手を見つけてぶつかってきたようだ。この女のことだ、自分に関係のないモノまで、呼び寄せ、引き受けてしまったのだな? 難儀な性格だ。人を救うとは、そういうことであるのだ! あの女も、今、己の愚かさを実感しているだろう。
 いや、この女のことだ、こういうモノたちすら「救えなかった」と、嘆いているに違いない。
 本当に愚かな女だ。
 女が、へたり込んだ。もう、立っていられないのだろう。その瞳からは、止めどなく涙が流れている。
 この涙の意味はなんだ? こんな状況に陥ったことに対する後悔か? 純粋な恐怖か?
 ……いや、違うな。この女、後悔は後悔でも、「誰も救えない、己の無力」に対する後悔のようだ。
 どこまでお人好しなのだ、この女は!?
 見ているだけで、虫ずが走る。
 だが、まだ、私はこの女に指一本触れることができない。もっと弱らせないと!
 そう思ったとき、女の背後に、時計が現れた。巨大な柱時計のようだ。高さは二十メートル、横幅は五メートルはあるだろうか。文字盤の直径は、三メートルほどか。数字は漢数字で「壱」とか「拾」などとなっている。だが、その針は、長針も短針も、「拾弐」の位置から動かない。時間は止まっている。
 そうか、この時計はこの女の時間だ。
 フフフ、遂に己の時間を止めたか。
 それがいい。苦しみたくなければ、心も何もかも、とめてしまえばいいのだ。
 このまま、凍てついた時間の中で、何も思わずに生きるがいい。


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