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作品名:今日も杏とて。継 結之章 作者:ジン 竜珠

第1回 結之章・壱
 今、私の前に、一人の女がいる。
 髪は腰まである黒髪。今、女は一糸まとわぬ姿をしている。これは、「あの女を護るものが何一つない」ことを意味する。
 文字通りの丸ハダカだ。
 そのおかげで、身体の線がよくわかる。細身だが、出るところは出た、いい身体だ。美人だし、男どもが放ってはおくまいが、この女は体術を心得ている。それだけでなく、咒術も心得ているから、力ずくでどうこうすることはできまい。
 となると、心を奪うほかないが、この女、妙なこだわりを持っていて、心が相当、鍛えられた男にしか、興味を持たない。
 いや、「それ」がまず前提条件になっているようだ。
 変人というほかない。
 まあ、そんなことはどうでもいい。
 今、この女と私がいるところは、暗闇だ。だが、そのくせ、私自身の姿も、女の姿も、はっきりと見ることができる。
 ここは、心象世界なのだ。
 といっても、この女一人の心の世界ではない。簡単に言うと、幽界のようなものなのだ。だから、ここにいるのは、私と女の心だけではない。
 ほら、耳を澄ませ。声が聞こえる。

 オレハ、スクワレタカッタ。アンナ『精神論』ジャナク、ゲンジツトシテ、スクワレタカッタノニ!

 女が、身を震わせる。
 ほら、また聞こえる。

 ワタシ、ソンナ『慰め』ガ、キキタカッタンジャナイノ! アノヒトト、ムスバレタカッタノ! ナンデ、ソンナコトガワカラナイノ!?

 女が自分の耳を塞ぐ。
 クックック。お前、今まで人を救ってきたつもりだったろう。だが、現実はこうだったのだ!
 お前は、誰も救えていない! 独りよがりで、助けた気になっていただけなのだ!
 また、声が聞こえる。今度は一人じゃない。数は、私にもわからない。
 その声に、女が不安げに、周囲を見回す。耳を塞ぐが、無駄なことだ。ここは心が直接伝わる世界。お前には心を閉ざす能力(ちから)があるが、お前自身が、それを許すまい。
 お前は、どこまでも「誰かを救いたい」、いや、「救わずにいられない」性分なのだ!
 なぜ、お前がそのような心境になったのか、そこまでは「理解」できない。だが、その性格が、お前自身に今、まさに今! 苦しみを与えているのだ!
 救われたくても救われなかった者の怨嗟の叫び、慟哭! 救いたくても救えなかった、己自身の無力、矮小さ!
 すべてが今、現実のものとなって、お前に押し寄せる。お前のその華奢な体が、どこまでそれを支えられるかな?
 確かに、お前は心は強いようだ。だが、どこまで持つかな?
 開き直るほど、お前は薄情ではない。このまま、徐々に蝕まれ、心とお前自身の存在を崩壊させていくがいい。


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