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作品名:アヤシの杜のアヤカシ同盟 BLOCK U 作者:ジン 竜珠

第5回 参・五
 注文したコーヒーを飲みながら、糺は話を再開した。
「間違いなく、彼女には『和の姫』の素養があります。天音家ではなく、その『神裏(かみうら)の御業(みわざ)』をになっていた家の一つ・女薙家から出たのは、いかなる因縁なのか」
 言ってみて、少々、苦い思いが胸に浮かぶ。そもそも「和の姫」の候補は先々代の実姉にあたる人物だった。だが、「ある不幸な出来事」により、それはかなわなかった。それから時が流れ、姉である緋芽が候補ではないか、ということで、特別な修練が課せられた。だが、姉も「和の姫」には、なれなかった。いや、「ならなかった」と言った方が正しい。どうも、緋芽は自分からその「お役」を放棄したフシがある。
 それが、怖れから来るのか、そうでないのかまでは、本人からはっきりと聞いていないので、糺にはわからない。「和の姫」の存在そのものに対して、彼女なりに何らかの「疑問」が生じてしまって、修行が進まなくなったようでもあったが、それは糺が漠然とそのように感じているだけのことだ。ほかに理由があるのかも知れない。
「そんな因縁については、詮索は控えます。今は、『和の姫』を世に出すことが先決です」
 その言葉を聞き、佑杖は、窓の外を眺め、おもむろに言った。
「私ね、世界って、このままでもいいような気がしてるんです。みんな、いろんなことに怒ったり、泣いたり、笑ったり。時々、超常現象が起こって、オカルトだとか、トンデモだ、とか議論やって。それを見て、また笑ったり。そんな中で、目に見えないものに対する、畏敬の念を抱いて、大切な何かを子どもたちに伝えていければ、それでいいんじゃないかな、って思ってるんです」
 佑杖の言わんとすることがわかった。確かに、それはそれでいいことなのかも知れない。だが、そうも言っていられないのだ。
「女薙さん。あなたのおっしゃりたいことはわかります。でも、そうも言っていられない。そんな思いを、破壊しようという連中がいます」
「地鳴(つちなり)家、ですね?」
 佑杖の眉が、少しだけ、厳しい色を帯びた。
 頷いて、糺は言った。
「今は『天戒冥傳(てんかいメイデン)』と名乗っているようです」
 ジャケットの内ポケットからメモ帳を出し、空いたページに「天戒冥傳」と書き記す。
「なんですか、これ?」
 佑杖が首を傾げた。
「『天』の定めた『戒め』を、地の『冥府』が人の世に『傳』える、そんな意味のようです。要するに、『天音家に任せておけない』ということなのでしょう」
 ふと、口許に苦笑が浮かぶのがわかる。自分たちを「地の冥府」と喩えているのは、いかなる思惑か? 単なる自虐趣味とも思えない。何か深い意味があるのかも知れないが、あの「満向(みつさき)朔羅(さくら)」という少女は、そこまでのことは知らないという。
「まさか、天音家の『神裏の御業』を、になっていた二つの家、女薙家と地鳴家のうち、片方から『和の姫』の候補が生まれ、片方が先走るような事をするとは思いませんでしたが。いずれにせよ、私たちにはもう、先へ進むしか選択肢がないんです。今日、女薙さんにお時間をいただいたのは、お願いがあるからです」
 と、糺は、佑杖の瞳を覗き込むようにして言った。
「綺さんを……娘さんを私に託していただけませんか?」
 その言葉に、佑杖が硬い表情になる。その目の動きは、どこか、揺らいでいるようであったが、やがて、まっすぐ糺を見据えて彼は言った。
「娘を、よろしくお願いします」
 その言葉に、いかほどの重さがあるか。糺は黙って、頭を下げた。


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