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作品名:アヤシの杜のアヤカシ同盟 BLOCK T 作者:ジン 竜珠

第9回 壱・三
 あたしがタマちゃんに連れて行かれたのは、市の東北部・将番礼の北にある森の中だった。ちなみに、彼女の傷はすっかりふさがってて、ついでに、頭のトンガリも消えてて、いつも用意してる(っていう)替えの制服に着替えてて。で、クラブ棟のシャワーをこっそり使って血とか流してて。
 ていうかね? あんな大怪我だったのに、なんで、丹安武さん、なんともないの? とか思ったり。
 シャワーを終えた丹安武さん曰く。
「あっしは、妖怪『猫股』だから、咒力(じゅりょく)のこめられた武器とかでないと、倒せないニャ」
 って、大口を開けて「ガッハッハ!」なんて笑い、鼻息も荒く、自慢げに胸を張ってた。
 ……えっと。
 あたしなりの、これまでの丹安武さんの印象を話しとくね?
 言葉数が少なく、クールで成績も優秀で、近寄りがたい美人さんで、体が弱いらしくて、体育はほとんど見学してて、部活もやってなくて、放課後はすぐに帰宅して、市の北東部にある家から、バスで四十分以上かけて通ってて、告白してきたコを何人も撃墜してる、難攻不落の要塞。
 それが、牛の化け物と戦って、大口かっぴろげて笑って、胸を張って「あっし」で、「猫股」で、語尾が「ニャ」……。
 詐欺罪で訴えてやろうかしら、この娘?
 ていうか、返せ、あたしの、あの時の胸の高鳴り!
 そこから、彼女のことは「丹安武さん」でなくて、「タマちゃん」になった。

 その森の中には、一件の和風建築の豪邸が建ってた。あたし、詳しくないけど、メチャメチャ大きい二階建ての建物とか、離れがいくつもあるとか、これって相当な名家・旧家ってヤツじゃないかしら?
「やあ、いらっしゃい」
 迎えてくれたのは、二十代半ばって感じの若い男性だ。着流しに眼鏡で、茶髪。えり足を伸ばして、チョンマゲに結ってる。
 なんていうか、これで「○○会社で営業やってます」なんて言われたら、あたしは、この国の会社組織の規範というものを疑わないとならない。
「今、家の者も、ほとんどが外出しておりまして、十分なおもてなしも、できませんが」
 そう言ってあたしを通したのは、すっごい広い居間。なんていうか、この部屋だけで、あたしが下宿してる部屋の、軽く五、六倍ぐらいは、ある。
 いかにもお手伝いさんって感じの、和服着た若い女性が、お茶とお茶請けを持ってきて、下がると、男の人が言った。
「さて。唐突な話になりますが、君は『天音(あまね)明道(みょうどう)』のことは知っていますね?」
「……なんですか、それ?」
 ちょっとだけ凍ったようになってから、男の人が言った。
「……では、自己紹介から入りましょう。僕は、天音(あまね)糺(ただし)といいます。仕事は……。まあ、ある種の『アドバイザー』と思っていただければ」
「あたしは……」
「女薙(めんなぎ)綺(あや)さん、ですよね?」
「……」
 あたしは、無言で、タマちゃんを見た。
「言っとくけど、あっしは、タダシから、『あの女子校に綺たんが通うから、一緒に通え』って言われたんだニャ」
 笑顔のタマちゃんに、とりあえずあたしは、気になった単語を聞いた。
「綺たん?」
「うぃ! 綺たんは、綺たんだニャ!」
 笑顔で敬礼の仕草をする化け猫娘。今は、さっきまであった人間の耳が消えて、頭の上に三角のトンガリ……まさに猫耳が出てきてる。
 本当に、どうしてやろうかしら、この娘? あの胸の高鳴り、なかったことにできないかな?
 そう思っていると、糺さんが言った。
「どうやら、君は、お父様から何も聞いていないようですねえ」
「え? うちの父をご存知なんですか?」
 頷いて、糺さんは言った。
「少々、長い話になりますので、今日は、簡単に『入り口』程度のお話に留めましょう……」

 そのあとで聞かされた話は、あたしがまったく知らないことばかりだった。とりあえず、今夜、パパに電話して、話を聞かないといけない。
 リボンタイをはずし、クリームイエローのブラウスを脱ぐ。
 もしかして、あたし、とんでもないことに巻き込まれちゃったんじゃないかなあ。


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