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作品名:アヤシの杜のアヤカシ同盟 BLOCK T 作者:ジン 竜珠

第29回 弐・十三
 土曜の朝、これで、三人目だ。昨夜の午後十一時五十五分に飲み屋の近くで一人、午前零時をまたいで二十分後に、繁華街でまた一人。蒼川保が出会った原因不明の「急病人」の数だ。症状は三者三様。一人目の大学生風の男性は、三十八度を超える、高熱だった。二人目のサラリーマン風の壮年の男性は、突然の発疹と、それに伴う全身の激痛だった。
 今朝の大学生風の女性は、足が動かなくなっていた。バイトへ行こうとして、バス停の手前でうずくまっているところを、保が見つけたのだ。午前八時二十二分。いつもなら、この時間、通らない道だったが、あの「地鳴」と名乗った占い師から託された「使い魔」だという、「一つ目」の牛が「あの道へ行くように」と言ったから、来てみた。
 思えば、昨夜の二人の急病人も、牛の指示に従ったからこそ、遭遇できたのだ。
 もう疑ってはいない。
 占い師から渡された、黒い粉薬を女性に飲ませながら、保は占い師の話を思い出していた。

「実は、この街に、疫病をまき散らす妖怪が現れるんです」
 この言葉に対し、保の表情に何か浮かんだのだろう、地鳴も苦笑いを浮かべた。
 このバーは、地鳴の行きつけということで、事情を知っているのだろう、店内の誰も、二人の会話に注意を向ける者はいない。
「まあ、とりあえず『そういうもの』だということにして、お話を聞いてください」
 保が頷いたのを確認して、占い師が言ったところによると。
 ある種の「呪い」のせいで、疫病を振りまく妖怪が現れるのがわかった。それが出現するのを抑える対処をしようにも、時間が足りない。だが、占いで「時間稼ぎ」をしてくれる人物が現れることを知った。
 その「時間稼ぎ」があれば、多少、病に苦しむ人間は現れるが、奇妙な病気が蔓延するのを防ぐことができるという。
 そして、その人物こそが、蒼川保なのだという。
「どうして、俺なんですか?」
 保の問いに、占い師が答える。
「あなた、お医者様ですよね? でも、現在、フリーに動くことができる」
 嫌味、というニュアンスではなかったが、それでも保が気分を害するのには十分であった。
 占い師から目をそらし、テーブルの上のジン・トニックをあおる。
 それを見た地鳴が、意味深な笑みを浮かべる。
「あなたの実力を、見せつけてやりましょうよ?」
 そう言って、五百ミリリットルほどのペットボトルを保の目の前に置く。どこに隠し持っていたのか。保と会った時には、こんなペットボトルが入ったようなバッグなどは、持っていなかった。もしかしたら、この店に、あらかじめ置いてあったのだろうか?
 ペットボトルの中には、黒い粉のような物が入っている。
「これは、我が家に伝わる『秘薬』です。これがあれば、その病を治すことができるはずです」
 怪しいこと、この上ない。妙な商法にでも引っかけるつもりに違いない。
 そう思い、保は、立ち上がった。地鳴がちょっとだけ笑い声を漏らして言った。
「お金をいただこう、なんてことは考えてませんよ。というより、こちらからお願いしたいんです」
「お願い?」
 奇妙なキーワードだ。
「ええ。先ほどもお話したように、妖怪が現れる前兆として奇病が発生します。そんな人たちを、一人でも救いたい。あなたと私の願いは、同じはずですが?」
 その言葉が、保の心に宿る「医」の心に、揺さぶりをかける。
「病に倒れた人を、救えば、それだけ、妖怪の呪力が弱くなり、出現が遅くなる。その間に私は、妖怪の出現を抑える呪術を行える。どうですか? ご協力いただけませんか?」
 それを信じたかどうか、保自身もわからない。だが、椅子に再び、腰をおろし、こう言っている自分に気がついた。
「その妖怪のせいで病気になった人、って、見てわかるんですか?」
「ええ」
 と、地鳴が満足げな笑みを浮かべた。
「私の使い魔をお貸しします。目が一つしかない牛の格好をしてるんで、ちょっと怖いかも知れませんが。その使い魔が教えてくれます」
 そう言った地鳴から、長さ十五センチほどの、短冊状の黄色い金属板を受け取ると、保はその板を見る。赤い色で、字のような、記号のような、見たこともないものが書いてある。
「呪文をお教えします。その呪文を唱えながら、ちょっとした儀式を行えば、蜚(ヒ)が使用可能になります」

 確かに、地鳴という占い師の言うことは正しかった。使い魔が現れた時は恐怖で体が動かなかったが、自分に対して敵対の意志がないことを聞かされ、さらに病気にかかる人間を教えるとのことだったので、一応は信じることにした。
 そして、事実、奇病に罹患する人間に遭遇した。
 保が経験してきた限り、三人とも、いきなり、そのような症状を呈し、黒い粉を服用することで、その症状が収まるなど、見たことも聞いたこともない、まさに奇病だ。
 医業停止処分を受けている以上、保は医療行為を行えないが、例の黒い粉を小分けにした薬包紙を渡すだけなら、問題にはならない。
 使い魔の声が頭に響いてきた。
『次ノ患者ガイル。急ゲ』
 女子学生からの感謝の言葉に笑顔を返し、保は次の場所へと向かった。


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