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作品名:アヤシの杜のアヤカシ同盟 BLOCK T 作者:ジン 竜珠

第28回 弐・十二
 その女の子は、あたしより七、八センチぐらい低いかなあ。髪はポニーテイルにしてるけど、それでも背中の中程まである。すっごく髪が長いなあ。一見、穏やかそうな顔つきだけど、どこか。
 そう、どこか常にレーダーを張り巡らせているような感じがする。
 持っているのは、ボストンバッグ一つに、えび茶色の竹刀袋っぽいもの、にしては、変に大きいのよねえ。着ている服は、白いブラウスに、膝丈の藍色のスカート。
 その女の子は歩きながら、あたしを見て、すれ違いざま、会釈していった。
 あたしも会釈を返した。

 で、帰ってくると、タマちゃんが、ニャーニャー喚いていた。
「タダシ! アイツは、絶対、駄目なのニャ! あっしは、反対なのニャ!」
「ただいま。糺さん、なんで、この猫、玄関先で、制服着替えもせず、ニャーニャー、わめき散らしてるんですか?」
「ああ、お帰り、綺ちゃん」
 糺さんは、あたしのことを「綺さん」または「綺ちゃん」て呼ぶことになった。
「下宿人が、一人増えるんですが」
「え? 下宿人、ですか? ……もしかして、下宿屋、始めるんですか?」
「いやいや、そうじゃなくて。知り合いの娘さんを預かることになったんです。こっちに来ることになって、それじゃあ、うちに来たらいいってことで。ただ、もうアパートとか見つけているそうで、荷物も運び込んであるから、実際に住むのは、四、五日先になるけれどね」
 その言葉で、さっきの女の子のことを思い出した。
「さっき、下の道ですれ違ったんですけど。白いブラウスに藍色のスカートはいた、ポニーテイルの子」
 糺さんが頷いた。
「ええ、その女の子です」
「だから、アイツはダメなのニャ! なんか、空気がイヤなのニャ!」
 困ったような笑顔で、糺さんはタマちゃんを見てる。
 そこへ、環緒さんが、玄関の引き戸を開けて入ってきた。
「ただいま戻りました」
 この人、やっぱり、なんか暗いなあ。
「ああ、環緒さん。どうでしたか?」
 糺さんの言葉に、環緒さんが首を横に振る。
「今のところ、これといって、手がかりは」
「手がかり?」
 あたしが聞くと、糺さんが答えた。
「まだ、確定したわけではないんですが。例の工場建設予定地、なんらかの『呪術』に使えるかも知れないんです。それについて、環緒さんに調査してもらってるんですが。……環緒さん、こういう能力に優れてますから」
 そう言って、環緒さんを見る糺さんの目には、ちょっと一言では表せない「色」があった。
 なんだろ? 何かを気づかっているようでもあるけど?
 環緒さんは目を伏せて、上がりかまちに足をかけ、糺さんの横を通り過ぎていった。

 二十畳ほどの台所で、大根のかつらむきをしている糺に、緋芽が近づいてきた。
「ああ、姉さん」
 と、気配に気づいた糺が振り返る。ガスコンロでは、お手伝いたちが、すまし汁や魚の煮付けを作っていた。
「ただいま。……今、佗磨姫ちゃんに聞いたけど、あの子、うちで預かるんだって?」
「ええ」
 緋芽が、ちょっとだけ眉を曇らせる。
「何をしてるか、わかってる?」
 緋芽の言わんとすることはわかる。だが、笑顔を浮かべ、明るい声で糺は言った。
「そもそも、目的そのものは一緒なんです。ただ、方法が違うのと、途中経過が違うだけなんですよ。あと、現象として現れる結果とか」
「それが違うから、大問題なんでしょ、わかってるの!?」
 思わず声が大きくなったことに気づいたのだろう、緋芽が手で口を押さえる。お手伝いたちは、ちらと見ただけで、すぐに自分たちの作業に戻っていった。
 それに対して、何を思うのか、にわかにはわからないが、少なくとも、バツが悪いものを感じているのだろう、緋芽は咳払いをした。
「奴らが、なんの目的で、人を、なんの呪術の『避雷針』にしようとしてるのかはわからないけど、許されることじゃない!」
「彼女、もしかしたら、何か知ってるかも知れませんよ?」
「……どうかしらね? 去年、会った時は、本当にただ『命令に従っているだけ』に見えたけど?」
「彼女、『あっち』を見限ったようです」
「信じてるとしたら、あなた、相当おめでたいわよ?」
 緋芽が睨むようにして、糺に言った。
「姉さん、もっと人間を信じましょうよ」
「……相手によるわ」
 不満そうに鼻を鳴らすと、緋芽は台所を出て行った。
「糺さん、すまし汁のお味、きいていただけますか?」
 緋芽の背を見送ったとき、お手伝いの一人が声をかけてきた。
 糺は頷き、大根をまな板の上に置いた。
 こんな気持ちですり下ろしたら、きっと大根は辛いものになるだろう。
 しばらく時間をおいた方が良さそうだ。


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