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作品名:アヤシの杜のアヤカシ同盟 BLOCK T 作者:ジン 竜珠

第11回 壱・五
 放課後、部活の時間だ。
 あたしの学校にある調理部は、結構、規模が大きくて、七十人ぐらいいる。やっぱり、この学校の実績を聞いてる人が多いみたい。
 で、調理実習室は、一クラス分、つまり三十人程度しか使用できない。だから、調理部をA、B、Cの三班に分けて、ローテしながら活動してる。今週の水曜日はあたしが所属するA班の活動日だ。
 もともとスイーツがメインじゃないけど、去年、先輩とか顧問の都倉先生にお話ししたから、賛同者が結構集まって、班の組み直しが行われ、今、A班は三回に二回ぐらいの割合でスイーツを作るようになった。でも、今日はお野菜の煮物だけど。
 前は、スイーツ専門の部活もあったらしいけど、なぜか部員不足で、あたしが入学する何年か前には、廃部になってたらしい。
 時間まで、かなり早い。
「まだ、三十分前か」
 あたしは、とりあえず、準備をしておくことにした。今日は、お野菜の煮物だから、冷蔵庫からジャガイモとか、ニンジンとか出して、常温に馴染ませておこう。
 あたしが作業に取りかかろうとしたとき、一人の女子が入ってきた。
「綺ちゃん」
 その声に振り返ると、そこにいたのは、三年A組の、長田(おさだ)操(みさお)先輩だった。
 ついでにいうと、あたしのカノジョの一人。もっというと、操さん、あたしと本気で「結婚したい」って言ってる。
 操さん、市内に本社がある「フード工房オサダ」っていう食品会社の、社長令嬢。でも、全然お高くとまってなくて、好感度の高い人なんだ。先に声かけてきたのは、操さんの方から。調理部A班だけの新入生歓迎会で、カラオケに行って、あたしと操さんと、あと二人ぐらいが同じブースに入って、デュエットして。その時に、ゲームやって、勢いか何かでキスして。その翌日から、操さんの方からモーションかけてきたのよね。
 最初は冗談だと思ったし、あたしも「一度ぐらい疑似恋愛もいいかな」って軽い気持ちでおつきあいしてたけど、なんていうか、ハマっちゃったのよねえ。
 操さんが近づいてきた。
「まだ、誰も来てないの?」
「ええ。まだ、三十分ぐらいありますから」
「そう。……ねえ、結婚のことだけど」
 うわ。この前、断ったつもりだったんだけどな。
「あの、操さん。あたし、結婚とかまでは……」
 あたしがそう言うと、ちょっとだけ、哀しそうな表情になって、でも、すぐに笑顔になって、操さんは言った。
「私の父ね、いわゆる『ワンマン社長』ってやつなの。家でもおんなじ。自分こそが絶対、正しい、そんな頭でお母さんとか私に接するの」
 たいへんそうだな。うちのパパは、そんなに厳しくないっていうか、むしろ、ママの方が厳しいぐらいなのよね。
「それで、中三の時に『お前の夫だ』って言われて、一人の男の人に引き合わされて。私、一人娘だから、『自分の眼鏡に適(かな)った男を夫にしろ』って」
 うわあ、いつの時代だ、それ?
「そうですか。たいへんそうですね、それ」
 そうとしか言えない。
「その男がね、立派な人だったらいいわよ? でもね、初めて会った、その日に、そいつ、エッチしようとしたの。お父さんに言っても、『そのぐらいの男でないと、いい仕事はできない』みたいなことを言って取り合ってくれないし! 自分の目に狂いはない、って思ってるのが見え見え!」
 ちょっとだけ怒ったように言って、そして、あたしを見る。
「所詮、男なんて、そんなもの。だったら、私、男よりも……」
 操さんが、あたしの両肩に手を置く。そして、唇を重ねてきた。
 あたしにできるのは。
 彼女が抱えてる痛みを想像して、せめて、少しでも、その傷を癒やしてあげることだけだった。


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