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作品名:パピヨンは、ご機嫌ななめ 作者:ジン 竜珠

第90回 エピローグ
 元の世界に帰って来て、初仕事だ。
 パピヨンは、「あの人」が必要とするエッサンスの手がかりを見つけた。意味はわからないが、料理の内、「ある種のハンバーグを作る技能」を求めているらしい。該当する人物を見つけたので、その人物からエッサンスを盗み、それが手元にある間に習得しよう。そう思って、その人物が職場からの帰りに通る公園で待ち伏せをしていたときだ。
 時刻は午後八時。
 公園内の防犯灯に照らされて、二つの影が現れた。
「鞠尾和磨と、沢渡美春。なんで、ここに?」
 彼女には他者の目を誤魔化すオンブルの能力がある。だから、隠れる必要はないが、思わず、公園の外に出て、物影に隠れてしまった。
 和磨が言った。
「すまん、いきなり、呼び出して」
「……別に。どうしたの、急に?」
 美春の声には、どこかトゲがある。
「ええっと」
 と、すぐには言えないのか、言葉が見つからないのか、それとも、ここへきて言うべきではないと思ってしまったのか、それはわからないが、和磨が何やら言いよどむ気配がある。
 だが、その時間も数秒。
「ごめん、美春さん! 俺、どうかしてた! あそこまで、あなたのことを否定することはなかった!」
 和磨が、頭を下げるのが見えた。
 美春は、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。それに構わず、和磨は言った。
「俺、本当にどうかしてた! やっぱり、美春さんは、俺にとって、大事な人だったんだ!」
 美春が戸惑ったように言った。
「何よ、今さら……。それに、聞いたけど、再婚、するんでしょ?」
「ああ。でも、この気持ちに嘘偽りはない。俺、本当にどうかしてたんだ。確かに、俺は、ある女性と再婚する。そいつ、小学校からの腐れ縁で、ちょっとメンタルが弱くて、誰かが傍についてないと駄目で……。でも、それとは別の次元の話なんだ。確かに、美春さんは、俺にとって、大切な人だった。これは、揺るぎない事実なんだ」
「……もう、ずるいなあ、和磨くんは」
 美春が鼻をすする仕草をした。
「まあ、あんなことをしちゃった私にも、責任はあるからね。どんな理由があったって、やっぱり、二度も不倫しちゃダメでしょ」
「それは、美春さんのことを、全然気にかけなかった俺にも責任はあるし……。でも、本当に、美春さんを大切に思ってたっていうのは……」
「もういいよ、和磨くん、伝わったから。確かに、別れてしばらくは、私もバカなこともしちゃったけど」
 と、美春は自分の左手首をさする。
 そこに、何本もの「傷跡」があるのを、パピヨンは見ている。
「だからさ、お互い、幸せになろうよ!」
「そう言ってくれると、救われるよ。……そうだ、和美に会いたいな。もう、四歳だろ?」
「え? ええ。……あの、あの、ね?」
 その先が空白の時間だった。その先の言葉を、パピヨンは知っている。

 ごめんなさい。一番好きな人から愛されない私は、自暴自棄になって、愛する人との間にできた子どもを、虐待してるの。だって、あの子を見てると、あなたのことを思い出して、二度と幸せな日々が戻ってこないことに絶望して……。

 まだ、騒ぎには、なっていない。
 だが、和美の表情や、笑顔がまるで能面のようになっているのを、パピヨンは見ている。このままでは、いずれ、和美の心は壊れる。
 壊れるまでいかなくても、人を愛せない人間になってしまうだろう。
 だが、少しずつだが、状況は変わっていくのではないか?
 それが、パピヨンが「トレゾー」を盗まなかったからなのか。
 いや、もし仮に彼女が「トレゾー」を盗んだとしても、おそらく、こうなっただろう。
 卑俗な言い方が許されるなら。
 鞠尾和磨は、融合先の世界を……未来を変えたのだ。
 そう、未来は変えていける!
 そう思ったとき、ふと、光の加減で鏡のようになった、ある民家の窓に映る、自分の顔が見えた。
 今まで、見たこともない、素敵な笑顔を浮かべた少女が、そこにいた。


(パピヨンは、ご機嫌ななめ dix・了)

パピヨンは、ご機嫌ななめ・完


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