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作品名:パピヨンは、ご機嫌ななめ 作者:ジン 竜珠

第89回 dix−18
 俺は、川平たちに言った。
 もっとも、由梨にはっきりと見えるのは、川平だけで、あとは、赤い影、青い影に見えてるらしい。「何、あの赤い影とか、青いの」って、言いながら、俺の後ろに隠れてる。
 いや、俺も、赤いのは知ってるよ? でも、青いヤツは初めて見る。鎧兜だったり、腰に刀さしてたりして、ちょっと怖いけど、敵意は感じない。それに、あの背の高い女もいないみたいだ。まあ、たいしたことじゃないか。川平たちの方で、どんな事情があったのか、なんて、俺には関係のないこと……でも、ないんだよなあ。だから、俺は言った。
「川平。お前が言ってた『トレゾー』が、なんなのか、わかったよ。『俺が由梨を大事に想う気持ち』、そんな感じのものだろう?」
 川平がうつむく。赤いヤツ……コルボーってヤツは難しそうな顔をして、青いのは、表情を動かさない。
 多分、当たらずとも遠からずってところだろうけど、俺にとっては、それが「宝物」だ。
「それを盗みに来たんだよな?」
 川平が顔を上げた。
「鞠尾くん。確かにそうだけど……」
 そして何かを言いそうになるのを制して、俺は言った。
「いいぜ、盗んで行けよ」
「え?」
 川平が、いや、コルボーも青いのも、きょとんとなった。
「お前にとっても、大切なんだろ? なんで、お前に必要なのかわからねえけどさ。……心は物じゃねえ。なくなったりしねえさ!」
 俺の言葉に、驚いたような表情になったあと。
 ふう、なんて息をついて、川平が勝ち気な笑みを浮かべて、言った。
「バカにしないで。あたしは、誇り高きヴォラール。『恵んでやる』なんて言われて、『ハイそうですか』って受け取ると思う!?」
 すると、コルボーが芝居がかった仕草で言った。
「では、遠慮なく……」
 すると、いつの間に抜いていたのか、青いヤツが、刀の刃(は)の方を、コルボーの喉に当てて言った。
「空気、読め」
「そ、そうだな。あの海神(かいじん)のエッサンスに抗しうるのは、あの処女神(おとめ)だけとは、限らない。例えば……。そう、例えば、妻神(アムフィトリテ)という手も、あるかもしれぬ。だが、最善は、やはり……。いや! 知恵を絞るべきだな、うん!」
 気のせいか、コルボー、冷や汗、かいてないか?
 川平が言った。
「とりあえず、だけど、もう、ここに用はなくなったから、帰るわ」
「え? そうなのか?」
 ということは、俺の指摘は違ってたのか?
 川平は頷いた。
「君の心とか、騒がせちゃって、ゴメンね?」
 え、と。俺、こいつに何かされたかな?
 そして、川平たちは、人事不省に陥っているシャットを引きずるようにして、去って行った。
 一体、何があったんだろうな、俺たちが山小屋にいた間。まったく音が聞こえてこなかったけど。ていうか、ある瞬間、いきなり音が聞こえるようになって、開かなかったドアとか窓が開くようになってたんだけど?
「ねえ、和磨くん。一体、なんなの、今の影? それに、川平さんとの会話、意味不明なんだけど?」
 いや、俺にも、何が何だか、さっぱりなんだがなあ。
 でも。
「そうだな。俺が知ってること、話してやるよ」
 由梨が俺を見上げて、微笑んだ。


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アクセス: 2016