小説&まんが投稿
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:パピヨンは、ご機嫌ななめ 作者:ジン 竜珠

第87回 dix−16
「なあ、由梨。お前に何があったのか、俺にはわからねえ。でもさ? これだけはわかる。俺、由梨のことが好きだ。大好きだ。俺の全てをかけて、護りたいと思ってる。俺なんかじゃ、頼りないかも知れないけどさ。今すぐじゃなくてもいいんだ。俺は、お前の味方だから。だから」
 俺がここまで言ったとき、由梨が泣き出した。
「ごめん。ごめんねえ、和磨くん。私、なんでかわからないけど、男の人が怖いの。誰か特定の人じゃなくて、男の人そのものが怖いの! きっと、私のことを傷つける! 私のことを、壊す! そんな風に思ってしまうの! だから、だから……!」
 その先は、涙声になって、よくわからない。
 だから、俺は言った。
「急ぐことはないさ。お前の傷、いつか必ず癒えるから。もしよかったら、でいいんだけど。その傷、俺にも治させてくれねえかな? ……って、男が怖いんじゃ、俺じゃ、意味ねえか」
「……ううん。ありがとう、和磨くん」
 ……。
 やっと、由梨の笑顔を見ることができた。

 どうにか、念装が間に合ったが、致命的ダメージだったのだろう、アルミュールがあっという間に弾け飛んだ。
 次なる念装をするだけの精神的余裕がない。
「な、なにをした、の、パピヨン……?」
 シャットは、やっとの思いで、この言葉を吐き出した。
 全身が熱くて痛い。熱湯に放り込まれたあの時とは、また違う痛さだ。
「ドラゴンから託されたエッサンスがあってね」
 ドラゴン? 誰だろう? そうは思ったが、そのまま聞くことにした。
 というより、聞き返すだけの余裕がない。
「この街の沖合、五十メートルの海底にある水圧。それを二十五、六倍程度に圧縮強化して使ったの」
 水圧。先刻、立木を潰したのは、それだったか。
 何かに気づいたのだろう、コルボーが「なるほど」と言っているが、そんなことはどうでも良かった。
「それを使って空気中の二酸化炭素を液化し、その状態から圧力を一気に盗んで、ドライアイスを作ったの、あなたの周囲に」
 何を言っているのか、さっぱり理解できない。とにかく、少しずつでもこの痛みを盗み、空間を盗んで、ここから逃げよう。そう思ったときだった。
「……? ウ……。……ウ、グ……アアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
 全身に激痛が走った。まるで熱と圧力が一度に襲ってきたような感じだ。
 この痛みは覚えがある。笑気ガスでパピヨンの動きを封じたときに受けた、反撃のものだ。あの時は、アルミュールでも盗みきれなかった痛みがあまりのレベルだったので、少しずつ盗んでいった。あとで別のアルミュールに放り込んで相殺するつもりだったが、忘れてしまっていたようだ。
 トレゾー以外は、盗んだ物は、返さねばならない。
 それが、今、帰って来たようだ。
 非常にまずい状況だ。このままでは、自分がなぶり殺しになる。
 なんとか空間を盗んで、とりあえずこの場から、と思うが、一歩も動けない。激痛で体が痛いのとは違う。
 足は動くが、一歩も歩き出せないのだ。
 ……まさか、これまで盗んできた時間や空間、距離を返すときが、今、来たというのか!? こっちの世界に来て、これまで盗んできたものがどれほどになるか、わからないが、少なくとも、それを空費するまでは自分は一切動けない!
 パピヨンが、愉快そうに、そしてシャットの口ぶりを真似たかのように言った。
「あらら? どうやら、これまでの『ツケ』を払うときが来たみたいね」
 そして、手に、仮面を出現させた。いつも、パピヨンが自身の念装に使っているアイテムだ。
「本当は、ドラゴン戦の時に『切り札』として用意したものだったけど」
 言いながら、シャットの顔に当てる。パピヨンがキーワードを唱えた。
「リベラシオン」


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 小説&まんが投稿屋 トップページ
アクセス: 2016