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作品名:パピヨンは、ご機嫌ななめ 作者:ジン 竜珠

第86回 dix−15
 横たわったパピヨンは、アルミュールをまとう様子はない。今、シャットが撃ち込んだのは、ホロウポイント弾。容易に貫通するタイプの銃弾ではない。
 おそらく体内にある弾丸の破片を盗んで、取り出し、痛みを盗んでこの状況からの脱出を目論んでいるだろうが。
 シャットは横たわったパピヨンの右側に来て、左足でその腹を踏みつけにした。苦鳴を上げるパピヨンの左の太ももに、刀を突き立てた。
 苦しそうなパピヨンの声を聞きながら、シャットは銃口をパピヨンの頭部に向けた。
 だが。
 これまでのことを思うと、ひと思いに殺してしまうのは、気が収まらない。
 パピヨンが苦しんで苦しんで、苦しみ抜いて死に、その死体をこれ以上ないほど辱めてやらないと、腹の虫がおさまらないのだ。
 もっとも、これまで、そのように、なぶってきたことが、結果としてシャットの敗北を招いてきた。だから。
 太ももから刀を抜き去り、それをパピヨンの下腹に突き刺した。
 これで、自分が貫かれた臓器と、同じ臓器を貫けたかどうかは、わからないが、相応のダメージは与えられたはずだ。
 パピヨンが吐血する。その切っ先で、腹の中をかき回した。
 この刃を抜かなければ、パピヨンは苦しみ続けることになり、どんな技能やエッサンスを持っていても、逆転するだけの気力や精神力を維持することは難しいはずだ。
「さあて。今度は、どこにしようかしら?」
 銃口を揺らす。そして、引き金を引いた。
 弾丸はパピヨンの、頭の左側の地面に着弾した。
「あらら、はずしちゃったわ」
 笑って見せてやる。だが、パピヨンは睨んでくるだけだ。
 それが気にくわない。
「……しなさいよ。無様に、命乞いしなさいよ!」
 引き金を引いた。今度は外さず、パピヨンの左肩に着弾した。
 パピヨンの絶叫を聞きながら、シャットは刀を、より深く突き込む。
 そして、パピヨンの額めがけて、次なる銃撃をしようとしたとき。
 続けざまに何かが飛んできて、シャットの左腕を貫き、あるいは銃を弾いた。
 右手で腕をおさえ、その方を見ると、赤い服を来てマントを羽織ったヴォラール、コルボー・ルージュだった。
 その手には、光のボウガンがある。
 怒りを隠さず、シャットは言った。
「あんた、どうやって、ここへ……?」
 この陣は、簡単に破れないはずだ。
「この程度の遁甲陣、我にとっては、幼児のイタズラ書きに等しい!」
 その時、思い出した。確か、このコルボーという女には、オカルトマニアの気(け)があるらしい。だとすると、その知識に、この陣のことがあるのかも知れない。
 シャットは距離を盗んで銃を引き寄せ、コルボーを撃った。だが、コルボーは空高くジャンプした。これは、空間や距離を盗んだものではない。コルボーの技能だ。
 具体的にどのようにしているのかは、わからない。だが、いつだったか、この女が、高所から何度も物を下に向けて投げ落としているのを見たことがある。もしかしたら、「下に落ちる」落下エネルギーを、「上に落ちる」エネルギーに変換して、アルミュールに格納しているのかも知れない。
 そんなことが可能なのか、そんな技術を持たないシャットにはわからない。だが、コルボーに気をとられた瞬間!
 いきなり、刃が下から振り上げられた。パピヨンが自身に突き刺さった刀を抜き、それをシャットに向けたのだ。
 うかつだった。左腕をおさえようと、刀から手を離した、その隙を突かれたらしい。
 よけた拍子に、パピヨンから足が離れ、彼女が自由になった。
 そして、なにかのエッサンスを使ったのだろう、いきなり近くにある立木が、潰れた。
 何らかの強烈な圧力らしい。一体、この街のどこに、そんなに強い圧力があるというのか!?
 そう思ったとき、自分が念装していないことを思い出した。あわてて、念装しようとしたとき、辺りが急に冷え込み、次の瞬間、体が凍てつくと同時に、焼け付くような感覚にさいなまれて、シャットは絶叫した。


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アクセス: 2016