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作品名:パピヨンは、ご機嫌ななめ 作者:ジン 竜珠

第83回 dix−12
 それを逃さず、パピヨンはスピードを乗せて、ドラゴンのある場所……下腹を突いた。
 おそらく、無意識だったのだろう、ドラゴンが刃を両の素手で掴んだ。
「やっぱり、あなた、お腹に子どもが……。だから、アルミュールに任せず、直接、その手で刀を止めたのね」
 そう言うと、ドラゴンが、かすかに笑みを浮かべた。
「儂の負けじゃ。汝の攻撃を見ていて、途中から気づいた。汝は、儂が使った絡繰(からく)りを見抜いたのであろ?」
 頷き、パピヨンは言った。
「あたしの世界の沢渡和美と、あなたの世界の和美との年齢差で、気づいたわ。あたしの世界は、あなたの世界に追いつこうとして、加速している。ということは、あなたはあたしの世界では、回復するのに、一日必要なダメージも、短い時間で回復できる。なら、ここの世界では、ほんの一瞬のことでしかない。それだけダメージからの回復が早ければ、すぐさま新たなアルミュールをまとうなんて、朝飯前よね? さらに、アルミュールを収納した『空間』をいくつも繋げておけば、消滅する端から、新たにアルミュールを装着できる。一時的に空間を盗んでそんなことをすれば、まるでダメージがゼロのように見える。これが、あなたが攻撃を無効化できる、絡繰り。でもね?」
 と、パピヨンは刀を消した。
「そんなことをすれば、繋げた『空間』の数が多いほど、他のことに使える『空間』の数は少なくなる。一度に保持できる『空間』の数とか、容量には、限界があるものね。アカシックレコードに繋がる、という性質上、ヴォラールの能力には、それほど大きな違いはないはず。確かに、どれだけ使いこなせるかとか、熟練度によって、『空間』の数とかに違いはあると思うけど、規格外なんて有り得ない。だったら、致命的ダメージを与え続けて、アルミュールを収めた『空間』を消費し尽くさせたら? 他にストックしてある『空間』と繋がる隙を与えなかったら? アルミュールがない状態で、致命的ダメージ、そこまでいかなくても、大ダメージを与えることができたら? 一瞬で回復できるといっても、そんなことが続いたら? あんたがどんな『奥の手』を持ってるかわからないけど、それを使わせる前に、あなたを倒すことができる」
 パピヨンの言葉に、ドラゴンが柔らかい笑みになった。
「汝は、なかなかに頭が回るようじゃ。相手にするべきでは、なかったの。確かに、汝の言う通りじゃ。儂の手持ちのアルミュールの内、六割をこの手に費やした。そして、今着ておるのが、最後の一着じゃ」
 結構な数の、アルミュールを消したと思うが、それでも、まだ六割とは。アルミュールを作るのは、結構な作業だ。だからこそ、なるべくなら消滅させたくない。その労苦を惜しまず、アルミュールを作成したということは、やはり、この女は……。
 そう思って、パピヨンはドラゴンの下腹部を見た。
 その視線をどう解釈したか、ドラゴンが己(おの)が下腹をさすりながら言った。
「汝は、ここに『ややこ』がいると思うておるようじゃ。じゃが、残念ながら、おらぬ。……そのために、儂にはあの『トレゾー』が必要だったのじゃ」
 意味のわからない言葉に、パピヨンは首を傾げた。
 本当に、ドラゴンのような『未来人』が、なぜあの『トレゾー』を必要としているのか?
「汝が、このように思い至っておるかどうか、わからぬが。ヴォラールは、存在を確定してくれる『運命の人』との間に、子を為(な)せば、可能性が分岐し、ヴォラールという呪いから解放される可能性が高くなる。儂も、かつては、そのために『運命の人』と結ばれようと考えていたことがある。じゃが、今は違う」
 そして、晴れやかな表情をした。
「今、儂には愛する者がおる。その者は『運命の人』ではない。じゃが、儂はその者と結ばれ、家族を持ちたいと願った。いずれ、儂の世界も、別の世界と融合するかもしれぬ。その時、おそらく儂の存在は、根本的に変わるであろ。もしかすると、何らかの『辻褄合わせ』にあって、儂は『いなくなる』かもしれぬ。じゃが、それでも、『子』という可能性は残したい。……『運命の人』ではないからか、そうでないのか、アカシックレコードを探っても、知ることはできぬ。儂は子を宿しにくい体になっておる」
 その言葉が、パピヨンに静かな衝撃を与えた。
「じゃが、それを治せる可能性を持った者が現れた。その者は沢渡和美に求婚したが、当の和美は、母親を見て、『自分には愛される資格はない』と思い込んでしまっておる。そのせいで、その者は落ち込み、集中できず、儂の『病い』を治せる可能性が、先延ばしになってしまっておるようじゃ。和美の心を変えるには、その母……沢渡美春(さわたりみはる)の、そして、鞠尾和磨の認識を変える必要がある」
 そうだったのか。まさか、そんな「未来」にまで、人の心が影響するとは、思ってもいなかった。
 驚きを心に隠し、パピヨンは言った。
「あなたの気持ちは、わからないでもないけど。ごめんなさい、あたしには、あの『トレゾー』が……」
「みなまで言うな。約束じゃ。『トレゾー』からは手を引こう。他に方法があるはず。儂はそれを探すことにする」
 申し訳ない気持ちでパピヨンは、ドラゴンに頭を下げた。
 その時、パピヨンの心に、ある決意が生まれつつあった。


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