小説&まんが投稿
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:パピヨンは、ご機嫌ななめ 作者:ジン 竜珠

第77回 dix−6
 胸騒ぎがした。
 いや、もっと限定した表現を認めよう。
 管理下にある鞠尾和磨が、シャットの手に落ちた。
 今、鞠尾和磨はパピヨンの管理対象になっている。だから、ある程度はその行動を把握できるし、また、やはりある程度だが、その行動をコントロールできる。
 だが、彼が自主的に行動をとる場合は、別だ。
 だから「自分が言う通りの生活スケジュールを守れ」と命令する必要があるし、極端な話をすれば、自分に好意を向けさせ、一時的にでも吾妻由梨へ、過剰な興味を抱かないようにする必要もある。
 今のこの状態は、おそらく、和磨自身の意志によるものだ。シャットがどのような手を使ったかわからないが、彼がなんらかの「不安」を抱いたのが感じられるから、ひょっとしたら、吾妻由梨をダシにしたのかも知れない。
 そういえば、由梨については、ある種、ノーマークには、なっていた。彼女の心理状態からすれば、今すぐ「トレゾー」が現れる状態にはないし、また、家に閉じこもっているようだから、以前のように、何者かに襲われる心配もない。
 そう思っていたのだが。
「まさか、何らかの方法で連れ出したの?」
 反応のあるのは、とある山中だ。この市の東部エリアである辰ヶ峰、北部エリアである水津実の間に、隣の市にまたがる山があるが、そのあたりに、和磨のいるのがわかる。
 だが、位置が特定できない。どうやら、なんらかの呪術が施してあるらしい。あるいは、何らかの「法陣」でも敷いてあって、空間がおかしなことになっているのかも知れない。
 そういえば、東洋系呪術書のエッサンスが盗まれていた。てっきりオカルトマニアのコルボーあたりだと思っていたが、シャットだったのかも知れない。
 かつて、どこかで仕入れた呪術の記憶をたぐってみるが、どんな事態が展開しているのか、具体的に特定できないので、対処のしようがない。
 ハイキングコースを上っていると、時間と空間が盗まれた。
 一体誰が、と思っていたら、背後からルーが現れた。
「ルー。あなたが、盗んだの、時間と空間?」
 その言葉に、念装を終えたルーが応える。
「いや。某(それがし)ではない。というか、某は、ここにシャットがやってきた気配を感じたのでな。あやつがこんなところに用があるとは、どうにも解(げ)せぬ故(ゆえ)、来てみたところだったのだ。こんなところに、有用なエッサンスや技能(スキル)があるとは、思えぬからな」
 ルーらしい考え方をするとは思ったが、今は、関係ない。
「じゃあ、誰が? やっぱり、シャットが?」
 だとしても、シャットが盗む理由も必然性もわからない。そもそも、ヴォラールが時間と空間を盗むのは、ヴォラール以外の人間の認識外で、邪魔をされずに、存分に行動をとるためだ。こんな山の中で、一体、誰がヴォラールの邪魔をするというのか?
 また、その性質上、ヴォラールやアカシックレコードを認識できる人間には、この「技」は意味をなさない。また、ヴォラールが、その行動を許容している人間にも、この「技」は意味がない。
 つまり、今、ここで時間と空間を盗む必然性は、まったくない、といえる。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 小説&まんが投稿屋 トップページ
アクセス: 1499