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作品名:パピヨンは、ご機嫌ななめ 作者:ジン 竜珠

第75回 75
 吾妻由梨が目を覚ましたのは、どこかの家の中だった。
 損傷(いたみ)がひどいが、無人の空き家というのではなく、どこか生活感が感じられる。たとえば、見た目に比べて、片付いているところとか、窓ガラスの枠に埃が積もっていないとか。
 由梨は、なぜここにいるのか、思い起こしてみた。
 確か、正午前に、来客があった。母は不在。無視をしようと思ったが、大事な用向きだと、あとでたいへんなことになるかも知れない。
 しかし、もし、来客が男かも知れないと思うと、自然に体が震えてくる。
 ためらいの瞬間がいくつも積み重なるうちにも、インターフォンは鳴り続ける。勇気を出して出てみると、それは、高校の教諭、白根香澄恵だった。
「白根先生、どうして?」
『あなたが、病気で欠席しているって聞いて、心配になったの』
 不自然だった。クラス担任ならともかく、香澄恵とは英語のグラマーぐらいしか、接点はない。香澄恵は文芸部の顧問らしいが、それとても手芸部の部員である由梨とは、直接の関係はない。確かに、手芸関係の書籍の閲覧・貸し出し及び購入申請などの関係で図書室に赴(おもむ)くことはあるし、それが放課後だったときは、文芸部の部員が活動しているところに、会うこともある。文芸部は、三年生の空き教室を使用しているが、主な活動場所は図書室といってもいいぐらい、よく図書室で見るのだ。
『ねえ、ちょっとお話ししてもいい?』
 断る理由も必要もない。
 なので、屋内に請じ入れた。
 そのとき、「臭い」がした。この最近、香澄恵が近くにいるときに、漂ってくる臭いだ。だが、今日は、一段と強く感じる。
 以前は、なんの臭いか、よくわからなかった。だが、普段、あまり嗅ぐような臭いではなかった、と感じている。
 今は、いつもよりも強く感じられるせいか、その臭いの正体がおぼろげにわかったような気がした。
 由梨の父は、二年前に体をこわして辞めるまで警察に勤めていた。その関係で、時々だが、一人暮らしの人が亡くなっているところに、立ち会うこともあったようだ。そして、そんな時、その臭い……死臭が髪などに染みついてしまうこともあった。
 そのときの臭いに、どこか似ている。
 それに気づいたとき、不意に香澄恵が得体の知れない存在に思えた。気がつくと、香澄恵が、あやしい笑みを浮かべている。
 その顔は。
「……誰、あなた!?」
 さっき、インターフォンのモニターで見たとき、いや、玄関に入ったときは、確かに白根香澄恵だったはずだ。だが、今、目の前にいるのは、身長や体格こそ香澄恵と同じような感じだが、顔は明らかに別人。
「……そう、オンブルが通じないの。さすがは、『トレゾー』のペールね」
 意味不明なことを呟いて、香澄恵、いや、謎の女が、由梨に何かをした。そこで、由梨の意識が途切れた。

 そして、気がつくと、ここにいたのだ。
 ここが、どこか、まるで見当が付かない。窓から外を見ると、立木(たちき)だけが見えて、林か森の中のような感じがする。辰ヶ峰に山があるが、もしかしたら、その辺りなのかも知れない。
 ここから逃げようと思ったが、部屋から出られない。鍵がかかっているというより、まるでドアや窓が、壁と一体成型になっているような感じで、ビクともしない。
 ドアを叩き、声を上げるが、誰かが来る気配もない。
 不安が由梨の心を鷲づかみにした。


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