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作品名:パピヨンは、ご機嫌ななめ 作者:ジン 竜珠

第73回 dix−2
「おお! 太陽は輝ける朝陽となり、烈(はげ)しき昼の日射しとなり、センチメンタルな夕陽(ゆうひ)となる。そして、夜は月がそれにとってかわる。だが、その間(あいだ)も、雲は空を流れ、折に触れて、太陽や月を隠そうとする! だが、それでも、光は絶えず、放たれている!」
 そして、ターンして続けた。
「朝は朝であり、昼は昼であり、夜は夜である! 太陽は太陽であり、月は月であり、雲は雲である! 光は光であり、影は影である!」
 右手で胸を押さえる。まるで、自身が抱く感情の爆発を抑えんとするように。
「輝きは輝きであり、闇は闇である。正しきは正しきであり、過ちは過ちである。……そのように割り切ることができたなら、さぞ、この世は生きやすいことであろう。人間とは、かくも簡単に割り切れる存在であろうか?」
 ふと、パピヨンを見る。パピヨンは黙ってコルボーを見上げていた。
 その不安げな顔に、そして、自分自身に対して、コルボーは胸に当てた右手を差し出した。
「パピヨン、苦しんでいるのは、君だけではない」
 今の言葉は、誰に対してのものだったろう?
 だが、少なくとも、今コルボーの顔に浮かんでいる笑みは、パピヨンに向けられたものであると、コルボーは思っている。
 その手を見て、パピヨンがかすかに笑みを浮かべた。
「あたしたち、なんで、ヴォラールとして出会ったのかしらね?」
「何を言う!? ヴォラールであればこそ、出会うことができたのだ! 我は、この運命を、祝いこそすれ、呪ったりなど、しない!」
 そう言うと、ようやくパピヨンが笑顔になった。
 パピヨンが立ち上がった。
「こっちの世界じゃあ、あたしたちの時間法則が違う。だから、肉体の傷はすぐに治る。でも、心の傷は、その法則に従ってないのよね」
「心とは、『もの』ではない。この次元に属するものではないさ。だから、仮に今より百倍速く時間が流れようと、心の傷が、すぐさま癒える、というものではない!」
「そうね。百倍どころか、千倍速く時間が流れたって……」
 ここまで言いかけて、不意に、笑顔だったパピヨンの表情が固まった。そして、しばし、何かを考えるように、右の人差し指を唇に当て、砂浜に視線を落とし、何かを注視する。
 何が何だかわからないが、黙っておいた方がいいだろう。コルボーは、じっとパピヨンを見た。
 そして、数秒後。
「……そうか。もしかしたら、そういうことなのかも」
 なんのことだろうと聞こうとしたとき。
「ありがとう、コルボー! あなたのおかげで、手品のタネがわかったかも知れない!」
 そう言って、いきなり、コルボーの唇に、自分の唇を重ねてきた。
 嬉しいというより、驚いた。
 時間にして、一、二秒。離れたパピヨンは、笑顔で言った。
「ほんのお礼。とりあえず、体の接触で、あたしにできるのは、ここまで、かな? ……それじゃあね、ありがとう、……紅華(べにか)!」
 そう言い残して、パピヨンは駆けていった。
 その背を見て、コルボーは思った。
 しまった、不意を突かれたから、じっくりとキスを味わうことができなかった。今度、こういうチャンスがあったなら、彼女を抱きしめ、絶対に離さないようにしよう。
 そして、見えなくなったパピヨンに語りかけるように言った。
「……必ず、君を我のものにするよ、煌(こう)。その日を楽しみにしていたまえ!」


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アクセス: 2021