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作品名:パピヨンは、ご機嫌ななめ 作者:ジン 竜珠

第71回 neuf−9
 確かに、何件かは成功しているという。
 もしかしたら、うまくいくんじゃないかと思った。
 盗品を売却して得たという、非合法な形の「ボーナス」も支給された。どうも、思った以上にしっかりとした、システマチックな犯罪らしい。だから、このまま、バレずに済む、そう思った。
 だが、なんらかの理由で社長が「倒産」を急いでいるらしく、最近になって、前ほど緻密に計画(プラン)を練って、犯罪に及ばなくなったらしい。
 それでも、大丈夫だと、楽観しているところはあったが。
 こうして、刑事がやって来た、ということは、どこかでボロが出たのかも知れない。
 どこまで逃げおおせるかわからないが、とにかく、逃げよう。そう思って、直彦はバイクのスピードを上げ、大通りへと向かった。
 その時!
 目の前に小学生が飛び出してきたのだ。どうやら、登校途中らしい。おまけに、自分が信号無視をしたようだ。ハンドルを切ろうとしたが、間に合わない!
 子どもをはねてしまうのは、避けられない、そう思ったときだった。
「……え!?」
 バイクが、まるで見えないジャンプ台に乗り上げたかのように、上空へ向けて、飛び出したではないか!
 さらに、何か強い圧力がかかったかのような衝撃が起こり、大通りから、路地裏へと、有り得ない角度で方向転換して、墜落した。
 バイクが地面に激突する轟音を聞きながら、直彦はアスファルトの路面に転がった。
 いかなる力学だったのかわからないが、それほどひどいダメージではなかった。感覚的には、何十メートルも上空へと舞い上がったような感じだったが、それほどでもなかったのかも知れない。
 だが、全身が痛くて、すぐには起き上がれず、転げ回るだけだ。それでもどうにか上半身を起こしたとき、直彦は、青空を背にして立つ、青い影を見た。
 明るい日中にもかかわらず、「青い影」としか認識できない「それ」は、腰から、何かを抜くような仕草をした。
 本能的に命の危機を感じて、直彦が意味不明の言葉を叫んだとき、影が言った。
「某(それがし)は、こっちの世界にとどまる『縁(えにし)』として、この街の、幼く弱き命が、理不尽に奪われないよう、その管理をすることにした。これなら、そう頻繁(ひんぱん)に某の行動が縛られることもないはず、そう思っていたのだが」
 影が、溜息をつくように、息を吐いた。
「だというのに、わずか数日で、某が行動を縛られたのは、今日、この時ですでに三件に上る。この街は……いや、こっちの世界は、いったい、どうなっているのだ?」
 影が、何かを構える。
 なぜか、その青い影に「狼」をイメージし、死を覚悟したとき、サイレンの音が近づいてきた。
 青い影が言った。
「どうやら、お主(ぬし)に、用がありそうだな。……ならば、この場は、この世界の警察組織に任せよう。某にも、都合というものがある。お主にかかずらっているほど、ヒマではないのだ」
 そう言い残し、青い影は去って行った。
 暫(しばら)くして、覆面(ふくめん)パトカーが止まり、さっき、マンションまで来た女刑事が車の助手席から降りてきて、言った。
「なんで、なにもないところでバイクが、あんなに高くジャンプして、いきなり路地裏に落ちたのか、さっぱりわからないんだけど、それは、あとで詳しく聞きます。さっき、お仲間の一人が、あなたについても自供(ゲロ)したと、連絡が入ったわ。午前八時七分。唐隅直彦さん、とりあえず、公務執行妨害と道交法違反、及び傷害未遂の現行犯で、緊急逮捕します」
 女刑事が、直彦に手錠をかける。その音が、直彦には、ギロチン台から刃が滑り落ちてくるときの音ではないかと感じられた。


(パピヨンは、ご機嫌ななめ neuf・了)


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